『おっさんずラブ』続編 千葉雄大の存在感に度肝を抜かれた

『おっさんずラブ』続編 千葉雄大の存在感に度肝を抜かれた

番組公式サイトより

 さて、注目の作品の「設定変更」をどう捉えるべきか。ドラマウォッチの作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

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 たとえ人気作品ではあっても、「続編に向いているかどうか」と問われるとちょっと疑問符が──2018年に話題を振りまいたドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)が終わった段階で、私はコラムにそう書きました。あの時のブレイクぶりは凄まじかった。ツイッターで世界トレンド1位となりDVDや関連グッズが飛ぶように売れ、主演・田中圭の写真集や公式本も続々重版。社会現象を巻き起こしました。ですから、放送局が続編を考えるのは、いわば当然のこと。

 しかし。ドラマの構造の方は、ピュアで繊細な人間関係に支えられたおっさんの純愛物語。だから主人公の“はるたん”こと春田創一(田中圭)や黒澤武蔵(吉田鋼太郎)の恋が次から次へと続くのも無理がありそう。

 その後、2019年夏に公開された映画『劇場版おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』では、黒澤が記憶を失う設定にしたり、天空不動産に新メンバーが絡んだりして展開させたもよう。

 そしていよいよ今期、続編がドラマとしてスタート。いったいどんな新機軸を見せるのか。続編に無理はないのか。焼き直しの退屈なドラマなら見たくない。春たんの相手役・牧(林遣都)という重要なキャストが変わる、という情報もあって続編に賛否両論が巻き起こりました。

 11月2日、続編『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日系 土曜夜11時15分)が始まり、さあ蓋を開けてみると……何とも大胆に物語の舞台を転換している。それまでの天空不動産という「地上」が舞台ではなく、天空という名そのもの、空に飛んだ。

 舞台は天空ピーチエアラインという航空会社。吉田鋼太郎演じる“ヒロイン”黒澤武蔵は、機長として登場。一方の春田は、客室乗務員として天空ピーチエアラインに転職してきた。なるほど。黒澤とはるたんの二本柱の構造だけを残し、他は鮮やかに変化させて先輩CAにMEGUMI、若手CAに木崎ゆりあ、チーフパーサーに片岡京子。

 そして、春田とカップルになった牧の代わりに、新たに登場してきたのが千葉雄大と戸次重幸。という刷新されたメンバーでの新しい船出なのに、まったく違和感がないのです。自然に物語に入っていける。これは凄いことです。

 しかも、もっと凄いのは、黒澤とはるたんはまったく面識がない、という設定です。つまり、ゼロからのスタート。2人の関係は完全なるリセット状態。もはやご都合主義と言われてもしかたがない。けれど、「はい再スタート」と仕切って互いに見知らぬ同士と言い切られてしまえば、視聴者の心も切り替わります。お遊びとはそれくらい徹底していなければいけません。思い切りの良さにこの悲喜劇ドラマの力量を感じます。

 そしてもう一つ、注目すべきポイントがあります。それは、副操縦士・成瀬竜を演じる千葉雄大さんの存在感。

 成瀬の仕事ぶりは優秀で、ニコリともせずクール、口を尖らせ文句を言い、人付き合いは苦手で性格に難あり。自分にも他人にも厳しいがゆえ、誤解される。しかしビジュアルはかわいらしい。アーモンドのようなつぶらな瞳、マシュマロを思わせるほっぺ。天空ピーチエアラインのテーマカラーであるピンク色がピタリとハマっている成瀬です。

 千葉雄大さんといえば30歳のベテラン。しかし不思議な「かわいらしさ」が際立つ希有な俳優。今回もかわいらしさを多彩に見せつつ、切れ味の良い、大胆な演技と上手に組みあわせています。例えば、女と修羅場になった成瀬が、いきなり春田の腕をつかんでぶちゅっとキスするシーンに、度肝を抜かれた視聴者も多いはず。

 かと思うと、「ぶっ殺すぞ」とドスを効かして人を突き飛ばす。ネクタイを引っ張り胸ぐらを掴む。激しい。成瀬という人物の幅と、はじけっぷりがいい。役者としての創意工夫が見えます。おそらく千葉さんは鏡の前で、目線はどういう角度がいいか、唇をどれくらいすぼめればいいのかと、丁寧に役作りを研究しているはず。

 千葉さんの役者根性といえば、9月に放送されたドラマ『盤上の向日葵』(NHK BSプレミアム)で過酷な運命を背負いながら棋士の頂点を目指す青年を好演しました。複雑な人間を描きす、厚みのある役者に脱皮しようと格闘する姿が瑞々しかった。まさに今後が楽しみです。

 このドラマのポイントは、役者たちがみな真摯なことにあるでしょう。真面目さが崩れたらすべてが崩壊してしまう。田中圭も吉田剛太郎も千葉雄大も戸次重幸も、みんながきちんと「大真面目」にふざけた演技を徹底しているからこそ、安心して笑えるのです。つまり、役者たちが「心のシートベルトをきっちりと締めている」からこそ成り立つ、秀作ドラマです。

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