古今亭志ん輔 師匠・志ん朝譲りのメリハリ効いた「富久」

古今亭志ん輔 師匠・志ん朝譲りのメリハリ効いた「富久」

古今亭志ん輔の魅力を解説(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、「古今亭の正統」を守る古今亭志ん輔独演会「志ん輔の会」から志ん生の得意ネタだった『猫の皿』、志ん朝譲りでありながら独自アレンジを加えた『富久』についてお届けする。

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 志ん朝の得意ネタの数々をきっちりと継承し、「古今亭の正統」を守る演者として真っ先に思い浮かぶのが、古今亭志ん輔だ。「志ん朝ロス」が大きかった時期、僕は随分と志ん輔を追いかけた。表情豊かに、時には徹底的に人物像をデフォルメしてみせる志ん輔の高座は、あくまでスマートな志ん朝とは表面的な印象がだいぶ異なるが、根源的な部分で最も濃厚に「志ん朝の遺伝子」を受け継いでいるからだ。

 11月13日、国立演芸場の「志ん輔の会」に出掛けた。例年4月と11月に開かれる独演会だ。今回のネタ出しは『猫の皿』『富久』。『猫の皿』はネタ下ろしだという。

『猫の皿』というと春風亭小朝や立川志の輔、そして一時期の柳家小三治が頻繁に演じた噺という印象がある他、茶店の親父を破天荒なキャラに設定した三遊亭歌武蔵の独創的な演出が忘れられないが、元は志ん生の得意ネタである。志ん輔は、高麗の梅鉢を発見した道具屋が、猫ごとそれを手に入れるために回りくどい芝居を続ける様子を念入りに描くことで、結末で道具屋が受ける衝撃の大きさを際立たせた。

 暮れの大ネタ『富久』は初代圓左から八代目文楽へ至る系統、初代圓右から五代目志ん生に至る系統、三代目小さんから八代目可楽や五代目小さんに至る系統がある。もちろん志ん輔の『富久』は志ん朝が志ん生から継承した型で、久蔵が住むのは浅草三間町、火事の晩に駆けつける先は久保町の旦那、富の場所は椙の森神社、千両富は「鶴の千五百番」。浅草三間町から久保町へ走る寒そうな描写も志ん朝譲りだ。

 ただし、随所で志ん輔独自のアレンジも加えられている。志ん朝との違いが最も目立つのは久保町で久蔵が酔って寝てしまう場面。久蔵は見舞い客の応対をしながら上機嫌で酔い、すぐに寝かされる。志ん生のように泣き上戸っぽくなったり、志ん朝のように段々と絡み酒になっていく様子が長々と描かれたりはしない。寝込んだ久蔵のことを旦那と番頭がしみじみ話す場面もカットして、すぐに火事となる。幇間としての屈折した心情を描くのはこの噺のテーマではない、という解釈だろう。

 鳶頭の家で神棚の中の富札を見つけた久蔵は最初泣くばかりで言葉にならない。デフォルメとリアリズムとの絶妙なバランスで勝負する志ん輔ならではの描写だ。久蔵という人の好い男が江戸の暮れの寒さの中で経験した浮き沈みの顛末を、持ち前のメリハリの効いた演技で表現し、「いい噺を聴いた」という余韻を残す、素敵な『富久』だった。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2019年12月20・27日号

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