吉行和子、この歳でもやれる役があるというのは凄く幸せ

吉行和子、この歳でもやれる役があるというのは凄く幸せ

吉行和子が山田洋次監督との出会いを語る

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、映画『家族はつらいよ2』で熟年離婚の危機を乗り越えた夫婦の妻を演じる吉行和子が、山田洋次監督の作品に出演したことで知った演技の難しさ、幸せについて語った言葉を紹介する。

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 吉行和子は2013年、山田洋次監督の『東京家族』に出演、日常空間に本当にいそうな、平凡な田舎の主婦役を演じている。

「今までは独立系の映画ばかり出てきたので、撮影が終わると放ったらかしで、血糊がついたままロケ先から帰ったこともありました。それが、今度は丁寧に山田組のスタッフたちが扱ってくれましたから、新しい世界を知ったような気がします。

 役柄も、そうです。これまではエキセントリックな役が多かったですが、山田監督の映画では普通の奥さんの役。お父さんがいて、息子と娘がいて、嫁がいて孫がいる。私がとうとう味わえなかった家族の感じを味わわせてもらって、これはこれでとても楽しいです。

 ただ、普通の人って演じるのが難しいんですよね。どこで頑張っていいか分からないでしょう。でも山田監督はそこらへん凄く見ていらして、ちょっと芝居っぽくなると絶対にOKが出ません。それで『私がこの人の気持ちにさえなっていれば、ひとりでに演技は出てくる』というのが分かって。今まで持っていたものは忘れて真っ白になって、山田監督に色をつけてもらうつもりで臨んでいます。

 私たちぐらいの歳になると、映画の現場ではとりあえずやってればOKが出るので、『本当にこの監督は見ていたのかしら』と思うこともあります。若い子ばかり見ていて、私たちはセリフさえ間違えなければいい、みたいな寂しい想いをしていました。でも、山田監督は絶対に見逃さない。ジッと見てくださるので、幸せな気持ちでいます」

 2016年の山田監督『家族はつらいよ』、もうすぐ公開の『家族はつらいよ2』では、夫役の橋爪功はじめ『東京家族』と同じ配役であるものの一転して喜劇となった。

「喜劇だと聞いた時は、誰も喜劇役者はいないから大丈夫かしらと思いました。でも、山田監督からは『喜劇ですけど、面白くしようなんて思わないでくださいね』と言われて、『監督の腕で喜劇になさるんだから、私たちは普通にしていればいい』って思うようになりました。

 橋爪さんとは、『東京家族』の前も長く連れ添った夫婦役を映画で二本やっていました。撮影以外では電話番号も知らないくらいなんですが、現場だと本当に雰囲気が上手く出ます。

 それは、『舞台を知っている』という共通の基盤があるからだと思います。ですから、最初は『山田監督は怖い』とみんな怯えていた時も、橋爪さんは『僕たちは舞台でさんざんやられてきたから、何を言われても平気だよね』って言ったのね。そういうところは分かり合っている、みたいな意識はあります。

 この歳までお仕事をいただけるとは思ってもいませんでした。この歳でもやれる役があるというのは凄く幸せです。現場に行って役になっている時は一番ノビノビできるんですよ。実生活は面白いことも趣味もないですから本当にどうでもいい。役をもらえると凄く楽しくなります。最初の頃から考えると嘘みたいな話ですが、この仕事に巡り合ってよかったなと思います」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

◆撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2017年5月26日号

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