谷村新司「中国人、日本人とか関係なく、皆、音楽で繋がる」

谷村新司「中国人、日本人とか関係なく、皆、音楽で繋がる」

今年でアーティスト活動45周年の谷村新司

 今年でアーティスト活動45周年を迎える谷村新司(68)が、この4月、歌舞伎や文楽など伝統芸能の殿堂・国立劇場でリサイタルを行なった。谷村は、十数年前、実は意図的に生き方を変えた。

「忘れもしません、55歳のクリスマスの晩です。妻に言われたんです。『歌を創って、歌を届けて、旅をして……これだけがあなたの生き方じゃないのかもしれないわね』と。

 妻は仕事のパートナーでもあり、公私にわたり僕を支えてくれていました。妻の言葉は、僕がそれまで考えもしなかったこと。とても衝撃的だったんですが、同時に『あっ、そうかも』と思ったんです」

 谷村は、感じた瞬間に足を踏み出した。活動は全部白紙。ファンクラブを解散し、事務所も1年かけて閉じた。そして、何でもやれる。さあ何をしよう。そう思っていたところに、ある話が舞い込んだ。

「中国の上海音楽学院から教授にならないかという話が来たんです。『天命ってこういうことなんだな』と思いました。空っぽにしたから天が進むべき道を教えてくれたんだな、と。もしそれまで通りの活動をしていたら、断わらざるを得なかったでしょう」

 谷村と中国との結びつきは深い。1981年に、アリスとして中国での単独公演を成功させた。聴衆は初めて「生のポップス」を体験したのだ。

 その後も谷村は、中国をはじめ、アジアに目を向け続ける。「会場も未整備、現地のスタッフも経験のない人たちばかり。持ち出しも多くて大変だった」と谷村は笑いながら振り返る。

「僕は『音楽でお金を稼いで、いい車に乗りたい』とか、そんなふうに思ったことが一度もないんです。お金を追いかけている人間は、一生お金に囚われる。それより、音楽でいただいたお金は、音楽に還元したいと思ってきました。

 アジアに出て行ったのもその一環なんです。持ち出しは覚悟の上。アジアの人たちに、僕の歌を聞いてもらいたかった。素敵なことを体験して、それに感動する人が増えていく世の中のほうが、いがみ合うよりいいよね」

 谷村が蒔いた種は、アジアで確実に芽吹き、育っていった。そして今年6月1日に、「中日国交正常化45周年記念」のリサイタルを上海大劇院で開催した。

「中国人だとか、日本人だとかは関係なく、皆、音楽で繋がる。実はこのリサイタルは、5年前の40周年の時に政治的な要素で延期になったんです。でも、“思い”は通じます。こうやって実現するんですから。向こうの人たちからは、『今度は、谷村さんを喜ばせたい』って言われて……」

 人は金銭や利害で動かされるものではない。それは「野暮」だと谷村は言う。人は“思い”で動くのだ。そして谷村の思いとは、「誰かが喜んでくれるから歌う」ということだ。

「今回、アルバム(※45周年を記念して発売された自身初となる3枚組のオールタイムベスト盤)に『STANDARD~呼吸~』と名づけたんですが、いい歌というのは、無意識に呼吸をするように人に寄り添っている。

 歌に形はないけれど、歌は国境を越える。たとえば中国でもタイでも、多くの人たちが『昴』を歌ってくれている。そしていい歌は必ず100年後も残る。こう言うと、『100年後なんて生きてないよ』と口にする人がいるけど、約100年前に書かれた夏目漱石の『こころ』は今でも読み継がれている。僕もそういう歌を歌い継ぎたいんです」

 谷村の45年の思いである。

●たにむら・しんじ/1948年生まれ、大阪府出身。今年4月にCD3枚組のオールタイムベスト盤『STANDARD~呼吸(いき)~』を発売、5/13にスタートした全国ツアー「谷村新司 45th CONCERT TOUR 2017 STANDARD」を実施中。

写真提供■ダオ 取材・文■角山祥道

※週刊ポスト2017年6月16日号

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