「透明な不倫ドラマ」 波瑠『あなそれ』の楽しみ方

「透明な不倫ドラマ」 波瑠『あなそれ』の楽しみ方

番組公式HPより

 今クールでの話題性といえばこの作品が頭一つ抜けた感がある。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が『あなそれ』について分析した。

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 いよいよ終盤にさしかかり、快進撃を続けているドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS系火曜日午後10時)。数字も伸び続け、勢いが止まらない。今週の第8話はなんと視聴率が0.9ポイント伸びて13.5%へ。

 登場人物が「Wゲス不倫」に走るストーリーのため、とくに滑り出しの頃は賛否が分かれたこのドラマ。ですが、実は描き方が非常に新鮮で、いまだかつて見たことのない世界。

 夫の涼太(東出昌大)に不倫がバレた主人公・美都(波瑠)。あっけなく結婚関係を捨て妻は離婚を迫る。しかし夫はなかなか離婚届けに署名してくれない。二人の関係はねじれている。言ってみればこれはドロドロの対局、「透明な不倫ドラマ」。

「透明」とは、主人公・美都がカラッポということ。屈折や罪悪感や負の感情がない、ということ。暗さがなく湿度がない。ある意味空虚。そこが、これまでにはない面白味を生んでいるのではないでしょうか。時に涼太のブチキレ具合がすさまじく、あまりに極端で思わず腹を抱えて笑ってしまうようなシーンも。

 ドラマが始まった時は、まだそうした個性的人物や演出意図など全貌が見えていなかったこともあって、「主人公の不倫があまりにゲス」「最低過ぎて感情移入できない」「波瑠はなぜこんな役を引き受けたのか」など批判や疑問もわき起こりました。

 その時、波瑠は自らブログでこう決意表明。

「(美都は)私自身ですら共感もできない、応援もできないような女性」「共感できないけど、毎日やらなきゃ仕方ない」「けれど私は、自分が何か得をするためにこのお仕事をしてるつもりもない」「苦しくてもがいた時間の中から、自分が何を見つけられるかが大事」「苦労が大きければ大きいほど何かを自分の中に残してやる~って」「意味のない時間なんてないです」

 カッコいい。胸がスカっとする。

『あなそれ』が視聴者を惹きつけているのは、実はドラマ世界を支えている波瑠のこの「凜とした」ブレのない姿であり、まっすぐに伸びた背筋、ではないでしょうか?

 考えみれば「役者」とは、別の人物になりきる仕事。さまざまな人格になることこそ、仕事であり才能の発揮のしどころ。しばしば理解を超えたナンセンスな人間にも化けなくてはならない。そんな役回りが来た時はむしろ、自分の力を伸ばすチャンス。

 いつまでも『あさが来た』の「あさ」のままでよいはずがない。

「波瑠がこんな役柄を引き受けて幻滅」なんて言っている方が甘いのではないでしょうか。今回のドラマを巡って見えてきたのは、むしろ視聴者側の、フィクションに対する受け取り方の狭さなのかもしれません。

「もし仮にこういう設定があったとしたら」「もし仮にこんな人物がいたとしたら」といった、人間関係の化学変化を観察する実験場のような楽しみ方が、ドラマにはあるはずです。

 例えば、アメリカで大ヒットし世界中で視聴されたドラマ『デスパレートな妻たち』。一見平和なご近所の妻たちの日常に驚くべき「毒」の数々が潜んでいて、嫉妬にケンカ、自殺に浮気、放火……ありとあらゆる混乱した出来事がサスペンス、時にユーモラス、時にシリアスによって描き出されていました。そして底流にはいつもふっと笑ってしまうコメディタッチが。

 そう、秀作とはシリアスもコメディも含みこんだ深いものなのではないでしょうか?

 回を追うごとに『あなそれ』の注目度がぐんぐん上がってきているのも、そうした不思議なドラマ世界の面白さを味わう人が増えたからでは?

「俺は誰かに愛されたいと思うほど欲深くありません」(第8話)というセリフなんかまさにシリアス。人生訓を感じさせて深いものがありました。残すところ2話のみですが、先が読めない展開にワクワク。最後までその疾走ぶりをとくと見届けましょう!

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