春ドラマ最終回 「最強の見世物」と化した『小さな巨人』

春ドラマ最終回 「最強の見世物」と化した『小さな巨人』

長谷川博己の演技に高評価

 今クールの春ドラマ、最も強いインパクトを残したのはどの局、どの作品だったか。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が総括した。

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 春ドラマがたて続けに幕を閉じ、「……ロス」と口走ってしまう頃。難役に立ち向かった俳優、強烈なメッセージ性、テーマの是非をめぐってカンカンガクガクと、見所がたくさんありました。最終回とは、いわばドラマのエッセンスが凝縮している回。ということで3つのラストに注目。輝きを放っていたワケをあらためて振り返ってみると……。

●『リバース』 人生の苦さを、正面から噛みしめる姿に浄化される

 湊かなえ原作のドラマ『リバース』は、10年前の親友の死をめぐるドラマ。単なる犯人捜しや謎解きストーリーを超えて、堂々たる「人間ドラマ」として着地しました。親友の広沢(小池徹平)を事故死で失った深瀬(藤原竜也)は、いったいなぜあの時彼が死ななければならなかったのか、問い続ける。一つ一つ、不器用に過去を問い返していくうちに、受け入れ難い罪が顔をのぞかせてきて……。

 人の暗部をえぐり後味が悪く嫌な気分になる「イヤミス」。湊かなえのミステリー作品はそう呼ばれてきました。しかし今回のドラマは、違う。何より、最終回が原作者の手によって新たに書き下ろされた。この斬新なチャレンジ、大いに評価されていいのでは。そして、見ている人の心が浄化されていく深遠な魂の再生ミステリーとなって幕を閉じた。透明感漂う「イイミス」に、昇華していったのです。

 原作小説は「誰が殺したのか」の解き明かしで終わる。しかし、ドラマの最終回は、罪を背負う人間への深い観察が。

 人の人生を変えてしまった行為について、つぐなうことはできるのか。過去を抱えて生きていくとは、どういうことか。とても繊細で難しいテーマですが、市原隼人、三浦貴大、玉森裕太、片平なぎさら役者たちの力演も素晴らしく、人間を掘り下げていく迫力がありました。

 絶望だけではない。「人は常に誰かと何かを交換しながら生きている」というセリフも印象的。希望の光もさした。絶望と希望。人間に対する深い洞察と愛情が静かに強く響きわたった素晴らしいラストでした。

●『あなたのことはそれほど』 予定調和をぶっ壊す破壊的な着地

「ゲスW不倫」のテーマで話題を振りまいた『あなそれ』。不倫を巡って混乱する二組の夫婦。最終回はいったいどう着地するのかと、視聴者の好奇心は揺さぶられ、視聴率は自己最高値14.8%(関東地区)、関西地区では何と17.8%に達しました。

 ドラマのテーマは恋愛・結婚。動物的感性でつっ走るのか、それとも大人の判断で生きるのか。「それほど」でもない人との結婚生活についての「本質的な問いかけ」が潜んでいたからこそ、ここまで注目を浴び話題となったのではないでしょうか?

 最終回で、涼太(東出昌大)が言い放った言葉。

「みっちゃんのことは・・・それほど」

 元妻・美都(波瑠)への思いを潔く立ち斬って新たな一歩を歩み出した。一方の美都は、「涼ちゃんの愛は優しい暴力だった」。どこまでも本当のことをズバッと口にする愚かしい美都に、しかし無垢な透明感を感じた人もいるはず。いずれの人物も、「定型」をぶっ壊していました。

 単に「よりを戻す二人」という安易なハッピーエンドに陥らず、予定調和という悪癖も破壊して走り切った最終回。清々しい結末。カタルシスある着地ぶりはアッパレ。

●『小さな巨人』    役者同士のぶつかり合い、炸裂するエネルギー

『小さな巨人』の最終回も大きく跳ねた。視聴率16.4%(関東地区)と自己最高値。このドラマでは「組織という巨大な化け物に立ち向かう正義とは何か」「組織を守るのか、人を守るのか」というテーマが一貫して描かれました。

 最終回の見せ場は、刑事・香坂真一郎(長谷川博己)と捜査1課長・小野田義信(香川照之)とのガチンコ対決。シーンを見つめていた視聴者ならわかるはず。筋立てや犯人捜し、謎解きといった「意味」を超えて、長谷川さんと香川さんの激しい肉体のぶつかり合い、そのエネルギーがあまりにすさまじくて目が釘付け。

 渾身の力を込めてぶつかりあう役者同士の姿は、ただただ視聴者が目をそらすことのできない最強の「見世物」と化していたのでした。

 奇しくも、「組織対個人」は旬のテーマ。時代とも絶妙にクロス。ふと、前川前文科省事務次官の記者会見をドラマに重ねてしまった人も多いのではないでしょうか。腹をくくった時、人から噴出するエネルギーとは、コントロール不能で怖いのです。

 人間洞察、予定調和の破壊、役者のぶつかり合い。いずれも味わい深かった3つの最終回。気付けばいずれもTBS系列。いや、えこひいきではなくて純粋に作品の強さや深さ、ユニークさに注目したらこの3本になってしまったのですが、ぜひ次クールの夏ドラマでは各局が一層競い合って欲しい。優れた深いドラマを見せて欲しい。大いに期待しています。

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