アイドルとファンにとって「結婚」は忌むべきものなのか

アイドルとファンにとって「結婚」は忌むべきものなのか

ワンマンライブでの姫乃たまさん

 アイドルである限り、恋愛も結婚も許されないことなのでしょうか? ライブの始まりに「私と恋をしましょう」と呼びかけることもある、地下アイドルでライターの姫乃たまさんが、アイドルとファンの関係性と、その幸せについて考えました。

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 6月17日に開催された第9回AKB48総選挙の場で、NMB48のメンバー須藤凜々花さん(20)が結婚発表をしました。これを聞いて私は改めて、地下アイドルとファンの関係性について考えるようになりました。この関係の幸せはどこにあるのでしょうか。

 先日、ライブの終演後に物販を片付けていたら、突然ファンの男性から「結婚してほしい」と声をかけられました。私が地下アイドル活動を始めてすぐの頃から応援してくれているので、彼とはかれこれ7、8年の付き合いになります。女子高生だった私もいつの間にか24歳になって、30代だった彼も40代になっていました。突然の言葉に驚きましたが、話をすると、それはプロポーズの言葉ではありませんでした。

「結婚してほしい」の後に、「僕は結婚を諦めている」と彼は続けました。矛盾しているわけではありません。「僕はファンになったことで人生がすごく豊かになったから、たまちゃんが結婚することで、その先の幸せを見せてほしい」と、彼は言うのです。好きな人の幸せで自分も幸せになるというのは、人として出来すぎていて、私にはまだ完全に理解することができません。

 地下アイドルとファンの関係性は、どのようにあれば幸せなのか、ずっと考えています。それは地下アイドルが、歌や踊りの技術でも、完璧な美しさでもなく、「なんかいいな」と思ってもらう仕事だからです。人の幸せについて考えるなんて曖昧なようですが、そもそも地下アイドルの魅力とされているものが曖昧なので仕方ありません。ファンが何をいいと思っているかは、それぞれなのです。そして、なかなかこれといった正解に辿り着きません。

 私はこれまで、地下アイドルとファンの関係は、ファンになったことですでに成就していると考えてきました。地下アイドルとファンの間には、日常の人間関係と同じように信頼があって、どちらかがどちらかを一方的に消費しているわけではありません。地下アイドルが一方的に歌っているわけでも、ファンが一方的に見ているわけでもないのです。ファンに応援されているから一生懸命歌う、歌っているから精一杯応援するという風に、お互いが相手を認め合う関係になっています。

 この関係は、恋人同士のようでもあるし、友人のようでも、家族のようでもあります。一般に地下アイドルのファンは疑似恋愛を求めて応援していると思われがちですが、このように地下アイドルとの関係には様々な要素が含まれているので、全員が恋愛感情だけで応援しているわけではありません。明確な恋愛感情を抱いて応援しているファンは、「ガチ恋ファン」と名付けられて分類されているのです。

 恋愛感情は人を強く夢中にさせますが、それとは違う、大人になってから信用し合える人と出会えることもまた、得がたい喜びです。私はライブに出演するたびに、恋人でも友人でも家族でもなく、でもその全てみたいなファンの存在に大げさでなく感動します。だから、アイドルとファンという関係になれることを、ひとつの成就だと考えてきました。

 いつか印象的な出来事がありました。いつも熱心に応援してくれているファンの人から、「たまちゃんのこと本当に好きだったけど関係が崩れちゃうから、気持ちを落ち着かせました。もう大丈夫なので、これからもよろしくお願いします」と言われたのです。

 事後報告です。最初から諦めないで、アタックしてみればいいのにと思われるかもしれませんが、彼はこれまでと変わらずに私と信頼関係を築いていくこと、そして周囲のファンと友人として付き合っていくことを決断したのです。私たちはいまの関係が得がたいものであることを常々思い出しながら、曖昧な危うい関係を保っています(もちろん、彼が苦しい思いをしなかったわけではないですし、これを聞いて私が苦しくなかったわけでもありません)。

 結婚についての考えはファンの年代と、既婚か独身かによっても違います。私はこれまでの活動の中で、ファンのメイン層が、30代独身男性→50代(子供が成人済み)→40代バツイチ→40代独身男性(初期の30代独身男性の10年後)と変化してきました。

 新しいカルチャーを発信するアイドルやグループには10代20代のファンも見受けられますが、長く活動しているアイドル(地下アイドル)は、30~50代のファンが中心となって支えています。ゼロ年代から始まった現在のアイドルブームもだいぶ成熟しきって、現在は40代の独身男性がボリューム層になっている印象です。

 また、先述した事後報告の彼からも、「結婚して出産しても、産休が終わったら地下アイドルとしてまた活動してほしい」と言われています。こんな風に書くと、普段からファンに結婚を匂わせていると思われそうですが、全くそんなことはありません。でも、こうしていつかやって来る(来ないかもしれない)ことまで考えてくれているなんて有り難いことです。同時に、どうしたら彼らに幸せになってもらえるのか、私も考えてしまいます。

 ごく稀にですが、地下アイドルも結婚発表をすることがあります。以前よく共演していた地下アイドルの女の子は、結婚を発表した後、これまで一番熱心に応援していたファンの人を結婚式に招待しました。そんなことをして大丈夫なのかとファンを含め、周囲が心配していましたが、実になごやかに結婚式に出席し、引退後の現在でも交流があるそうです。

 私のファンから聞いた話ですが、もう何年も前、小さなライブハウスへ遊びに行ったら、地下アイドルがその場にいるファンと結婚発表をした場面に遭ったそうです。たまたまライブを観に行っただけだったその人は、「結婚は別に構わないけど今やるなよ……」と思ったそうですが、常連のファンたちは大喜びし祝福ムードに包まれたそうです。そうは言っても、誰かしら嫌な思いをしているのではと勘ぐってしまいそうですが、地下アイドルの世界では、アイドルとファンの間だけでなく、ファン同士の仲が良い(むしろファン同士の方が交流の時間が長いので、仲良いかもしれません)ので、その結婚発表をしたアイドルと相手のファンとの交際は周知の事実で、その関係の行く末も含めて楽しんでいたのでしょう。

 これまで紹介してきたファンのように、相手の幸せを口にするのも勇気がいりますが、苦しい気持ちを口にするのはもっと難しいことです。苦しいと思っているそのときに「恋愛したら呪います!」「結婚したら一生恨みます!」とは、思っていてもなかなか言えません。でも、なんでもない顔をしながら悩んでいるファンのことも考えなければいけないと思っています。ファンの気持ちは様々で複雑です。コンテンツのように見られがちですが、アイドルもアイドルファンも人間なのです。

 アイドルを好きになっていく気持ちにも、嫌いになってしまう気持ちにも、根本には恋愛感情以前に信頼があります。それは曖昧で危ういもので、きれい事を言うなと言われても、私たちはそれを頼りに関係を築いていくしかないのです。地下アイドルとファンは特殊な関係ですが、ほかの人間関係と同じように、いかに信頼し合えるかが、幸せでいられる鍵だと思っています。

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