桂文枝「落語家がR-1ぐらんぷり出れば勝てると思う」

桂文枝「落語家がR-1ぐらんぷり出れば勝てると思う」

74歳になる桂文枝だが芸への探求心はまったく衰えていない

 芸能生活は50年を迎えた。今年74歳、桂文枝。上方落語会の押しも押されもせぬ重鎮である。審査員を務めているピン芸人日本一決定戦「R-1ぐらんぷり」に対する思い、衰えぬ芸への探究心について、ノンフィクションライター・中村計氏が聞いた。

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 ややのんびりとした、それでいて、艶やかに感じられる関西弁だ。

「僕の言葉は、アクセントは大阪弁ですけども、文字にすると、そんなにコテコテでもないんですよ」

 上方落語界の重鎮・桂文枝は、感情の波をほとんど感じさせず、恬淡(てんたん)と語る。その様子は、テレビで知る開放的な文枝とは、少し違った。

 1966年、桂小文枝のもとに入門し、長らく桂三枝を名乗っていた。そして2012年に、上方落語界の大名跡、桂文枝を継いだ。

 控えめな口調であるにもかかわらず、どこかきっぱりとした印象を与えるのは、「えー」「あー」といった無意識に発してしまいがちな言葉を、まったくと言っていいほど挟まないからかもしれない。文枝は高座でも、好きではないという理由で、そういった間投詞を使わないようにしているという。

 文枝は7月で74歳になった。

──噺家は声が出る限り、高座に上がり続ける。大変なご商売ですね。

「歳とともに芸は円熟味を増していくとか、渋味が出てくると言われますけど、僕は劣化していくと思いますね。声の力とか、勢いとか。若いときよりも稽古しないと、うまくいかない」

──それでも今も、ほとんど休みがないとうかがいました。

「吉本興業に育ててもらったせいか、忙しくしてるときの方が充実感がある。暇になったらどうしょうかみたいなところがありますけども」

 昨年12月、師匠の桂小文枝の弟子となってから50年を迎えた。それを記念して7月13日、富士山に登頂し、頂上で奉納落語を行った。

 その約2週間前、今回のインタビュー時には、こう話していた。

「50周年という節目に、富士山の上で、落語やろうかなと考えています。それで昨日、富士山へ1900何回登ったという人から、レクチャーを受けたんです」

 あまりの荒唐無稽な計画に、半ば、ジョークかとも思っていたのだが、本気だったのだ。

 芸への探求心は、まったく衰えていない。

「この世界は、完成というものがありませんからね」

 文枝は「ピン芸人」の日本一を決める「R-1ぐらんぷり」の審査員を2009年から務めている(2016年を除く)。そして「落語家も出るべきだ」と、常に言い続けている。

──勝てると思いますか?

「僕は落語家なら、(R-1の持ち時間である)2分でも3分でも笑わせる力はあると思いますね。時間は関係ない。実力のある人が出てきたら、戦えると思いますけれども。ただ今は、冒険しなくてもやっていけるみたいな甘えがあると思いますね。そこは僕としては、がんばってもらいたいなという気持ちです」

 46年続く『新婚さんいらっしゃい!』(朝日放送)をはじめとして、若い頃から積極的にテレビやラジオに出演し、また、創作落語で新境地を拓いてきた文枝だからこそ、言える言葉だ。

 落語で演じられる演目は、大別すると「古典」と「新作」がある。古典は江戸時代から大正時代にかけてつくられたものを指し、それ以降のものを新作と呼ぶ。関西では、後者をあえて「創作」と称することの方が多い。

 現在、落語界で大御所と呼ばれる人たちのほとんどは古典をメインにしている。が、文枝は創作落語にこだわる。近年は、年12、13作のペースでつくり、手がけた創作落語は計270超にものぼる。新作を武器にここまでの地位を築いた噺家は、歴史上でも、そうはいまい。理由は、簡単だ。難しいからだ。

「あえてしんどいことに挑戦してるというか、なんでこんなしんどいことやってるのかなあと思いますけど。それは、古典落語をやっていたほうがずっと楽です。前々からあるもんで、何百年の間に、何百人という噺家が、時代に合うギャグを入れてね。昨日今日、噺家になったもんが、そのままやってもウケる。でも創作落語は古典落語のように積み重ねてきたもんがないわけですから。どうしても奥行みたいなものが出てこないところがある。割と、軽く見られがちだったと思いますね」

 割と、というのは控えめに言っただけで、実際は「かなり」だったはずだ。

●1943年、大阪府生まれ。関西大学在学中に桂小文枝(故・五代目桂文枝)に入門。深夜ラジオで若者の人気を得て、『新婚さんいらっしゃい!』などテレビ番組でお茶の間に定着。1981年、創作落語を発表するグループ・落語現在派を旗揚げ。2006年紫綬褒章、2007年菊池寛賞、2015年旭日小綬章。

■撮影/林景沢

※SAPIO2017年9月号

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