視聴率ひと桁『明日の約束』の満足度が高かったのはなぜか

視聴率ひと桁『明日の約束』の満足度が高かったのはなぜか

井上真央がスクールカウンセラーを演じた(番組公式HPより)

 最近のドラマの出来不出来は視聴率だけでは計りにくくなっている。今クールの中で、“ギャップ”が大きかった作品について、作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

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 19日火曜日に最終回を迎えた『明日の約束』(フジテレビ系)。井上真央さんがスクールカウンセラー・藍沢日向を演じた話題のドラマです。

 男子生徒が不可解な自殺をし、その理由を追いかけていくと友人とのトラブル、モンスターペアレント、過干渉な“毒親”、なりすましメール、DV……思わぬ闇が次々に見えてくる緊迫感に包まれたドラマ。視聴率はひと桁台が続き、その点から言うと「失敗作」に括られてしまうのかもしれません。

 しかし、毎日2400人からテレビ番組の満足度調査を行なっている「テレビウォッチャー」の調査結果は対象的。 F1層(20歳~34歳女性)の平均満足度は突出して高く、物語の半ばあたりで4.15を記録しました。ちなみに高満足度の基準数値は3.7。それを大幅に上回っただけでなく、回が進むごとに女性のみならず男性を含めた満足度が上昇し、第7話で4.00という結果に。他のドラマで4.00を超えていたのは『陸王』『コウノドリ』『ドクターX』『刑事ゆがみ』の4つのみ(12/5日時点)。

 いったいなぜ、『明日の約束』はそれほど満足度が高かったのか? 理由はどこにあるのでしょう?

 このドラマは、ミステリアスな設定であっても、「犯人探し」「謎解き」エンタテインメントではありませんでした。日常の中で誰もが遭遇するかもしれない人間関係の軋轢、本人にとって大きな苦しみとなる出来事、そうしたものに丁寧に寄り添い向き合った。物語を単純化したり面白おかしく誇張せず、淡々と細かく複雑に描き続けた。

 主人公の日向も、物語の進行を解説していく傍観者ではありませんでした。母との依存関係に苦悩している当事者でした。このドラマに登場するすべての人が、いわば当事者だったのです。

 息子を自殺させてしまった母の苦しみ。自殺しなければならなかった息子の苦しみ。幼なじみの苦しみ。同じ部の生徒たちの苦悩。クラスメイトの苦悩。担当教員の苦悩。兄弟姉妹の苦悩……。すべての人々が、それぞれ形の違う苦しみを抱えていた。生きようと出口を模索していた。そして、ドラマを見ている私たちもまた、同様なのでしょう。

 人は解決策を探そうとする時、参照対象があると助かります。自分と似たようなモデルを見つつ、自分なりの方法を考えたい。人間関係の解決の糸口を探す手立てが欲しい、といったニーズがある。

『明日の約束』が、そうした役割の一端を果したからこそ、高い満足度につながったのではないでしょうか? いわば、身近な問題を共に考えるための的確な素材となった。その意味でドキュメンタリーとフィクションの新たな融合の形、と言えるかもしません。

「自殺という行為が、つらい現実から逃げる手段だと思って欲しくないんです」
「生きて逃げる勇気を持ってほしかった」

 最終回、全校生徒にむかって日向が語りかたけたその言葉。

「生きて」「逃げる勇気」を持て。自殺まで考える苦しみの中にいる人にむかって、敢えて放ったその言葉の、実に複雑な深さ……。

 奇しくも、それが現実の出来事と重なりました。最終回が放送される2日前、韓流スターSHINeeのメインボーカル、ジョンヒョンさん(享年27)の訃報が届き、自殺と認定され多くのファンが悲嘆にくれた。

 遺書の内容も明らかに。その中には、こんなフレーズがありました。

「終わらせるという言葉は簡単だ。終わらせることは難しい。その難しさのために今まで生きてきた。逃げたいだろうと言った。その通りだ。僕は逃げたかった。僕から。君から」(中央日報日本語版 2017年12月19日)

「逃げる」ことができなかった悲しさ。制作側の想定を超えて、リアルな出来事にシンクロしてしまったドラマ。現実社会を映した鏡のようでもあり、ドラマというものがますます「生きる」ことを一緒に考え後押しする役割を担い始めた時代のようにも感じます。

 制作陣も演じ手も現実の複雑さを見据え、それにしっかりと耐えて創り上げた秀作でした。

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