春風亭一之輔 ファンにはたまらない独演会の「ネタおろし」

春風亭一之輔 ファンにはたまらない独演会の「ネタおろし」

春風亭一之輔の魅力を落語通が語る

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の連載「落語の目利き」より、ある演目を初披露する「ネタおろし」の楽しみについてお届けする。

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 ある演目を初めて高座に掛けることをネタおろしという。春風亭一之輔は2014年から毎年、東京・よみうり大手町ホール(客席数501)でネタおろし演目を予告する独演会を行なっている。初年は「一之輔一夜」でネタおろし1席、翌年は2日連続開催の「一之輔二夜」でネタおろしは2席、以下「一之輔三夜」「一之輔四夜」「一之輔五夜」と続き、ネタおろしも毎年1席ずつ増えていく。

 大きな会場での独演会でネタおろしを予告するのはかなりのプレッシャーだろう。熱心なファンはそれを聴くためにチケットを買うわけで、初演の段階で既に磨き上げられた「その演者ならではの噺」になっていることが期待されるからだ。

 若き日の立川談志が独演会で『庖丁』をネタ出し(演目予告)しながら「どうしてもできないので」と三遊亭圓生に代演を頼んだのは有名な話だが、それで客を納得させられるのは談志だけだ。

「一夜」は『文七元結』、「二夜」は『三軒長屋』と『百年目』、「三夜」では『三井の大黒』『睨み返し』『柳田格之進』がネタおろし。2017年の「一之輔四夜」は10月18日から4日間連続で行なわれ、ネタおろしは『猫の災難』『文違い』『心眼』『二番煎じ』の4席。例年どおり、歴代の名人が手掛けた大ネタばかりだ。

 初日の『猫の災難』は、酒がなくなった言い訳を「酒呑童子が来たことにしよう」と思いつく酔っぱらった主人公の暴走っぷりがバカバカしくて素敵だ。「俺って面白い!」なんて台詞は一之輔ならでは。2週間後の中野での独演会でも再び『猫の災難』に出会ったが、一層パワーアップしていて、早くも持ちネタとして定着しそうな予感。

 新宿の遊郭で騙し騙される男女を描く『文違い』は、登場人物のキャラがそれぞれ立っていて聴き応え充分。『心眼』は演じ方によってはひたすら後味の悪い噺になってしまうが、一之輔は程よく笑いも交えた演出のバランス感が見事で、切ないラストは寂しさよりも夫婦の絆が感じられるのがいい。

 4日目のネタおろし『二番煎じ』は師匠の春風亭一朝と同じ古今亭の型。手堅く楽しませる1席で、やり続けていくうちに台詞回しは変わっていきそうだ。

 談志は晩年の著書で自分の持ちネタの数を「200くらい」と書いていた。一之輔は今、ちょうど200。2018年の「五夜」でどんな5席が加わるか、楽しみだ。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2018年1月1・5日号

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