多部未華子『私の家政夫ナギサさん』はなぜ爽快に映るのか

多部未華子『私の家政夫ナギサさん』はなぜ爽快に映るのか

番組公式HPより

 働く女性たちの支持が高まりそうなこのドラマ、キャスティングもハマった感がある。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。

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 やっと放送開始にこぎ着けた多部未華子主演のドラマ『私の家政夫ナギサさん』(TBS系火曜午後10時)。7月7日の第1話は世帯視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)14.2%と、好発進しました。その中身はポップで爽快、心がちょっと軽くなり温かくなるような、不思議な癒やし系ドラマです。

 女性を中心に視聴者の反応も上々のようで「散らかった部屋に毎夜言い訳してきた私そのもの」「仕事をとったら何も残らない、という主人公に共感した」という声も聞こえてきます。

 多部さんが演じる相原メイは、医薬品メーカーのMR(薬の情報を病院に伝えるいわば営業担当)。仕事はバリバリできるけれど私生活については片付けも料理もダメ。服が散乱する汚部屋、食べ散らかした器の散乱するテーブル。仕事に集中し生きてきた痕跡が一目でわかる人。仕事は、やり甲斐がある。でもこの生活には限界があるのかも。恋愛も結婚も見ないふりで脇においてきたけれどアラサーになってこのままでいいのだろうか、という古典的な問い。

 そのメイの部屋へ突如現れたのが、大森南朋演じる「スーパー家政夫」のナギサさん。実は妹が姉のためにこっそり契約した家政夫によって、メイの人生にいかなる波乱が起こるのか……? 

 帰宅したら家の中にいたナギサさんの姿は冴えない中年のオッサンでエプロン姿。メイのブラジャーを手にしている。もう、絶対にありえない設定です。その上、マンションの隣の部屋にはたまたまライバル会社のMRでイケメンの田所(瀬戸康史)が引っ越していた。なんともまあ、ベタな構成です。いや、制作サイドはあえて「ボケ」的設定をしてSNSで突っ込んでもらおう、と画策しているのかもしれません。

 そうした点を粗探しする気にならないのが、このドラマの不思議さです。なぜか爽快。なぜかほっとする。痒いところに手が届く感じ。これって多部ちゃん効果?

「スカッとポイント」を3つ挙げてみると。

●疑似的片付け効果──ドラマを見ていると、まるで自分の家もするすると片付いていくような錯覚が。スッキリ度が増幅していく。

●何でも受け止め効果──家政夫のナギサさんは、とりあえず何でも受け止めてくれる。決してイライラして言い返したりせず、笑顔を絶やさない、ストレスを生み出さない存在。大森南朋のオバサン男が妙にはまっていて癒やし効果絶大。

●家事はシャドウワークではない──ナギサさんの極めつけのセリフが、「家事は仕事です」。女性たちが日々モンモンとしてきたことをズバっと言い切ってくれた。そのセリフに痛快さを感じた視聴者も、多いはず。

 家事というと「シャドウ・ワーク(shadow work)」、いわば影法師の労働とされてきました。当事者以外にはその価値がよく見えず、正当に評価もされないし感謝もされない。生きる上で必要な労働なのに。そこに光を当てたドラマだからこそ、多くの共感を呼んでいるのでしょう。

 今バリキャリの人にとっては、仕事一本の姿もどこか痛々しいと感じている。専業主婦にとっては、影法師の家事労働のみで人生終えるのもいや。第三の道がないものか、とかあれこれ考えさせられる。そうしたごちゃごちゃした人生の問題を軽やかなコメディタッチで描くドラマに多部ちゃんを登用したことは正解。ぴたっとはまっています。話題になった『これは経理で落ちません!』(2019年NHK)の経理部OLの姿も重なって見えてきます。

 想定外だったのが、働く女性たちの悲鳴を受け止める存在としてのキモカワイイ大森さん。当初はちょっと唐突なキャステイングかと思いましたが、エプロン姿が想像以上に似合っている。にこやかで柔らかく、主張しない引き算的演技が素晴らしい。スーパーな家事をこなした上、格安の材料で美味しい料理まで作ってくれる癒やし効果バツグンの存在です。「私の家にも来て欲しい!」という声が続出するのもわかる。

 今期の夏ドラマを見回すと、キムタクと斎藤工、綾野剛と星野源と、男二人の“バディもの”が注目されていますが、こちらのバディ──バリバリ働くバリキャリ女とキモカワイイ中年男の奇妙なマッチングもいい味を出しています。

「バディ」とはそもそも軍隊等で使われてきた用語で「単独行動が許されない状況下で組む相手」のこと。生きにくいこの現代社会では日々の生活すら単独では乗り越えがたく数々の難問が山積している修羅場かも。だからこそ格好の相棒=バディが求められている、ということをこのドラマは教えてくれています。

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