感染対策と笑いの両立を目指す「よしもと漫才劇場」の今

感染対策と笑いの両立を目指す「よしもと漫才劇場」の今

「よしもと漫才劇場」のコロナ対策はどのようなものか

 お笑い界を牽引する吉本興業のなかでも、ブレイク芸人を輩出し続ける若手芸人の聖地というべき場所がある。それが大阪「なんばグランド花月」の向かいに立地する“マンゲキ”こと「よしもと漫才劇場」だ。

 M-1グランプリ優勝でブレイクした「霜降り明星」や「ミルクボーイ」のほか、「尼神インター」、「ミキ」や「アインシュタイン」など東京進出を果たした芸人たちも、同劇場の所属メンバーだった。現在は、M-1決勝戦にも出場した実力派漫才師の「見取り図」、「さや香」、「からし蓮根」、また2020年のABCお笑いグランプリで優勝した「コウテイ」らが在籍している。

 そんなマンゲキも、緊急事態宣言が解除されて以降、劇場運営を再始動させている。固定席は305席。コロナ以前の祝日公演では、立ち見客がぎっしりと通路を埋め尽くし、劇場内が爆笑の渦に巻き込まれていた。

 現在、漫才劇場の公式ホームページを開くと、まず目に飛び込んでくるのが「感染予防対策公演のご案内」という掲示だ。そこには、1.8m間隔の距離をとって座席販売を行うこと、また出演者との距離を確保するため最前列の販売、立ち見席の販売を行わない旨が明記されている。

 関西のお笑い文化を絶やさぬよう、「新しい生活様式」のなかで再び多くの観客に笑顔をもたらしている“マンゲキの今”をレポートする。

劇場に入るまでに入念な対策

 記者はオンラインでチケットを購入し、7月下旬、平日の劇場公演に足を運んだ。1階からエレベーターに乗り、劇場がある建物5階へ。エレベーターが開くと、扉の目の前にはアルコール消毒液、右手には大型の扇風機が設置されておりフロアの換気が行われていた。

 アルコール液を手になじませチケット発券機の前に並ぶと、足下にはソーシャルディスタンス用のマークがある。チケットの発券が済むと、劇場スタッフによる検温が行われた。検温の結果、「37.5℃以下」であることが確認されると、「チケットの右側に、カタカナでフルネームと電話番号を書いてください」という指示を受ける。

 この個人情報は劇場内で感染者が確認された場合、感染経路追跡のためにのみ使用されるという。用意されたデスクで名前と電話番号を記入すると、劇場入口で別のスタッフがチケットをもぎり、その場で再びアルコール消毒をするよう指示された。

 消毒液のうえには、「こんなん、なんぼやってもいいですからね〜」と言うミルクボーイのイラストを発見。至る所に、お笑い好きを刺激する演出がちりばめられている。

 このように劇場に足を踏み入れるまで、幾重にも感染対策が講じられていた。なお、マスクを着用していない場合、劇場内には入れないことになっている。

劇場内の様子と公演中の変化

 座席は左右1席ずつ空け、前後も重なり合わないよう、互い違いに席が確保されていた。開演前の前説では、芸人が感染拡大予防を呼びかける。観客もみなしっかりとマスクを着用している。

 ようやく公演がスタート。大きなモニターに「コロナ禍に劇場に来てくれてありがとうございます! 今だけは思いっきり楽しんでください」という旨のメッセージが映し出された。

 舞台上にアクリル板などは設置されておらず、演者は通常通りマスクなしで漫才やコントを披露していく。ピン芸、コント、漫才などが続くなかで、普段ともっとも大きく異なるのは劇場スタッフの取り組みだった。舞台転換中、コント用の道具を運ぶスタッフは、マスクの上にフェイスシールドを身につけており、通常は舞台に設置されたままのセンターマイクも、コンビが入れ替わるたびに新しいマイクと交換された。

 途中、「換気のため10分間の休憩」が設けられ、劇場内の全ての扉が全開にされたほか、ステージ上にも大きなサーキュレーターが設置され、舞台上の換気にも取り組んでいた。劇場内ロビーでの飲食も禁じられているため、ロビーで密状態が発生することもなく、観客は静かに座席で休憩を取っていた。

公演後も「密」対策

 人気芸人が次々に登場し、後半に向けて客席のボルテージも高まりをみせた。笑いに包まれ、束の間の非日常空間を味わうも、最優先されるのは感染拡大防止だ。知人とともに訪れた観客も余韻に浸って盛り上がることはなく、口数も少ない。

 終演直後、密を作らないよう整列退場をするようアナウンスが流れると、後方の座席から順にスタッフに呼びかけられ、ソーシャルディスタンスを確保しての退館となった。通常はロビーでグッズ販売やアンケート配布なども行われるが、現在はいずれも中止。観客もスムーズに劇場を後にした。

 帰りはエレベーターを避け、非常階段の使用が推奨されている。薄暗い非常階段の壁には注意喚起の張り紙が芸人のイラスト付きで掲示されており、各階の踊り場には扇風機が置かれ、空気が循環するよう工夫されていた。

「お笑い文化」を守るための努力

 今回、再開したマンゲキに足を運んでわかったことは少なくない。劇場スタッフによる徹底した感染拡大対策。そして通常の3分の1にも満たないであろう客入りでも、全力で芸を披露するお笑い芸人たち。こんな状況だからこそ、笑いの力で目の前の人を幸せにしたい――。そんな思いが、コロナ対策を徹底するマンゲキの随所に満ち満ちていた。

 東京では小劇場でクラスターが発生したことが記憶に新しいが、劇場での活動が死活問題なのは、演劇やアイドルの世界だけではない。次のスターを夢見て切磋琢磨する関西のよしもと若手芸人にとって、マンゲキは芸人生命をかけた戦場だ。特にM-1グランプリに出場するコンビにとっては、技芸を磨くために不可欠な場といえる。

 感染拡大の防止を最優先しつつも、同時に歴史ある文化も死守しなければならない。お笑いの聖地というべき大阪では、「笑い」が人々の生活に根ざしている。この文化を絶やさぬよう、演者と観客、双方の努力が求められている。

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