『恋する母たち』の見どころ支える「新しさ」と「懐かしさ」

『恋する母たち』の見どころ支える「新しさ」と「懐かしさ」

キャリアウーマンの母を演じる(時事通信フォト)

 3人の「母」たちの恋愛模様を描いて話題の『恋する母たち』(TBS系、毎週金曜22時)が話題だ。これまでのいわゆる不倫ドラマと何が違うのか。ドラマオタクのエッセイスト・小林久乃氏が考察する。

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『恋する母たち(以下、恋母)』にハマっている。オタクなので、放送中のドラマは全録画して視聴しているが、この作品に至っては「観てしまうのがもったいない……」と思うほど。

 この作品には、単なる不倫愛だけではなく、一般的に“いい年齢”と呼ばれる女性たちの恋愛や機微の表現が詰まっている。こういったドラマ要素が単純に好きなので、自分の趣味嗜好が理由で『恋母』にハマっているだけと思っていた。でも改めて考察すると、新鮮さを感じる不倫ドラマのスタイルが描かれていることに気づく。

 これまでの不倫ドラマといえば、映画化もされたヒットドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜(以下、昼顔)』(フジテレビ系・2014年)に見られるようなドロドロとした感情の錯綜が恒例。でも令和のこの世は、不倫ドラマは“しれっと”がキーワードらしい。

“サレ妻”から罪悪感ゼロの“ヤリ妻へ”

『恋母』は、高校生の子どもを持つ3人の母親たちの不倫、シングルマザーの「久々の恋愛模様」などを描いた作品。

 このドラマの見どころはいくつかあり、まず1つめは“浮気をする妻たちが罪悪感ゼロ”であること。特に第3話で、若い部下との不倫愛が始まった林優子(吉田羊)の態度にはその様子が顕著に表れていた。

 優子は部下の赤坂(磯村勇斗)と一夜を共にした後、翌日は何事もなかったように家族旅行に“しれっと”合流をする。夫の前で平然を装っている……? いや、そもそも罪悪感など優子にはないのかもしれない。いつも通りの妻でいることに驚きを超えて笑った。

 でも周囲で不倫している奥様=“ヤリ妻”たちのことを思い返すと、皆、優子と同じだ。不倫相手の前では夫には見せない表情をしながら、浮かれることなくスッと日常に戻っていく。皆、なぜか自慢げにその様子を独身の私へ報告してくれるので、彼女たちの不倫のリアルだけは知っている。今までそのことを深く考えることはなかったけれど、このシーンを見てまた笑いがこみ上げてしまった。

 近年、話題になった不倫ドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS系・2017年)や『ホリデイラブ』(テレビ朝日系・2018年)では、“サレ妻”が主流。夫の浮気に耐える妻、というのが定番化していた。もしくは『昼顔』のような、パート勤務や専業主婦で経済的には夫頼みの家庭で起きてしまう、妻の恋心の目覚め。

『恋母』の優子に見たひとつの新しい形は、妻が一家の大黒柱であること。シングルマザーの石渡杏(木村佳乃)もそうだ。経済的な部分の手綱を握り、家庭を支えて、恋に勤しむ。この様子を男性視聴者がどう思うのか? 疑問もわくが、これは現代の女性にとってごく自然なライフスタイルなのかもしれない。

主要キャストが最大限に生きる、好配役

 物語が絶妙に面白く新しい、という見どころに加えて“主要キャストたちが浮き上がってくる配役”がある。

『恋母』では木村佳乃さん&小泉孝太郎さん、吉田羊さん&磯村勇斗さん、仲里依紗さん&阿部サダヲさん、という6人が主要キャストだ。一般的なドラマならこの周囲を、視聴者が「ああ、この人知っている!」と言えそうな“バイプレイヤー”が囲んで、物語が成立する。

 ところが『恋母』では、例えば仲さんや木村さんの夫役という、割と主軸に触れるキャストも、他の作品ではあまり見かけない俳優陣が演じている。でも私が知らないだけで、おそらく各所で“バイプレイヤー”としては活躍しているのだろう。演技は完璧で、絶妙に存在感を消して、“しれっと”主要6人を抜群に引き立たせている。これが見どころであり、見やすさの理由だ。群像劇の正しいお手本だといえるかもしれない。

 そしてこの演者のフォーメーションには、昭和や平成の香りがする。思い返せば『ふぞろいの林檎たち』(TBS系・1983年)や、『愛という名のもとに』(1992年)、『ひとつ屋根の下』(1993年・ともにフジテレビ系)も同じように、放送当時は無名の“バイプレイヤー”たちが主要キャストの脇を支えていた。今のドラマよりも、メインとバイプレイヤーの境界線がくっきりとしていた記憶がある。

 そんな昔のキャスティングの風味を踏まえているのだろうか? 『恋母』の主題歌は松任谷由実さんが担当している。タイトルは「知らないどうし」。この流れ方も特徴的で、エンディングで物語の展開も気にすることなく、間髪入れずにダダン! とユーミンの歌声が聞こえる。彼女が担当したドラマ主題歌といえば『誰にも言えない』(TBS系・1993年)の「真夏の夜の夢」。これはいい平成の香りが漂ってくると、しみじみしてしまった。

 新しい不倫妻スタイルを提示しながら、どこかに団塊ジュニアたちが喜ぶ要素を落とす。そんなハニートラップにかかったような『恋母』は、今夜22時に第5話が放送予定だ。6人の恋がまた進む。

【プロフィール】こばやし・ひさの/静岡県浜松市出身のエッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。

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