「タメ口接客」がイケてる店の証だった昭和時代 アラ還記者が回顧

「タメ口接客」がイケてる店の証だった昭和時代 アラ還記者が回顧

『おちょやん』を見てオバ記者が思ったこととは?(写真/公式HPより)

 体当たり企画でおなじみの、女性セブンのアラ還ライター“オバ記者”こと野原広子が、世の中で話題になっているトピックにゆる〜く意見を投げかける。今回は、NHKの朝ドラ『おちょやん』に関するお話です。
 
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 コロナ禍になって以来、ロクなことはないと思っていたけれど、NHK連続テレビ小説だけは別ね。

 前回の『エール』では、キャスティング担当者が、出てほしい役者に片っ端から声をかけまくって、みんな叶ったのでは?と思ったほど、出演者の顔ぶれが充実していた。

 それから、エキストラの数の多さね。今回の『おちょやん』の舞台になっている大阪・道頓堀の賑わいを、カメラが“引き”で見せるたび、「おぉ、おぉ」と言いつつ、目で通行人の数を数えたりするから、忙しいったらない。

 それに前にも書いたけど、『おちょやん』って、自分の過去といろいろとつながるのよ。

 たとえば、18才になった竹井千代(杉咲花)は、「おちょやん」とからかわれると、「誰が“おちょやん”や!?」と怒る。「おちょやん」は「小さい女中さん」の意味で、大阪では「おちょぼさん」とも言ったそうな。

 そりゃあ、子供とはいえ、8年も芝居茶屋で働いたら中堅どころ。「あてには、千代というちゃんとした名前があるんじゃ。名前で呼ばんかい!」と言いたいんだよね。

 で、振り返れば私も、1年間働いて、とうとう名前で呼ばれなかった職場があるの。

 高卒で靴屋の住み込み店員になり、1年で退職した後、夜はマスコミの専門学校に通いながら、昼は喫茶店のウエートレスをしていたときのこと。

 茨城なまりが出ないように必死だった19才の私にとって、都心の喫茶店は驚くことばかりよ。

 ビルの上階が大手芸能プロダクションだったんだよね。芸能プロダクションが何をするところかはわからないけど、テレビで見ていた人が、カウンターに座って焼きそばをすすっている。アイドルが深刻な顔して、マネジャーに仕事の不満をぶつけている。そういえば、飛ぶ鳥を落としていた私と同世代のアイドルに、からまれたこともあったっけ(笑い)。

 最初はそのたびに顔を引きつらせていたけど、店の美人経営者(当時36才にして「ママ」と呼ばれていた)は「フンッ、芸能人っていっても、ふつうの人間よ」と平気の平左。そのうち私も慣れてきたんだね。誰がドアを押して店に入って来ても気にならなくなったの。

 だけど、いつまでたっても慣れないのが、私の呼び名よ。喫茶店はママとカウンターを仕切っているМさん(34才)の2人で切り盛りしていて、その両方が私を「彼女」と呼ぶんだわ。

「彼女、はい、コーヒー、3番テーブルね」
「彼女、先にご飯、食べちゃって」
「彼女、ちょっと買い物行ってきてくれる?」

 いつになったら名前で呼んでもらえるのかなと思っていたけど、とうとう1年後に店が閉じるまで呼ばれなかった。美人経営者は何度もお寿司を食べに連れて行ってくれたし、Mさんからは洋服をもらったりして、何くれと気にかけてくれた。感謝しかないんだけどね。でも、名前で呼ばれたかったな、という思いはどこかに残っている。

 呼び名といえば、1970年代の半ば頃にもこんなことがあった。原宿のブティックに入ったら、「彼女、それ、すごく似合う。買っちゃいなよ、ちょっとだけなら、値引きしてやるからさ」と店の奥からくわえたばこで出てきた長髪で茶髪のお姉さんにこう言われたの。

 もしいま、こんな口をきく販売員がいたら、ネットでさらされて、袋叩きにあうに違いない。いや、くわえたばこの段階で通報か。

 だけど当時は、職場も客もない“ため口接客”が、イケてるブティックや美容院の証だったのよね。時代の風とはいえ、恐ろしい。できれば平成生まれの若い人には、ひた隠しにしたいよ。これがなぜ通ったのか、説明のしようがないもの。

 その後、私は念願かなって、20才のとき、男性社員ばかりの出版社にアルバイトとして潜り込み、やっと名前で呼ばれるようになった。さすがは理性と知性の出版界? いやいや、名字ならそう思ったけど、いきなり呼び捨てで、「ヒロコ」ってどうよ。「彼女」よりマシかどうか微妙だよね。

 次にバイトした出版社では、先輩編集者は私と面と向かって話すときは「ヤマザキさん」(私の旧姓)だったけど、その人が取材先と電話で話すときは「女の子」になる。

「いまから写真をいただきに女の子を行かせますから、よろしくお願いします」と、先輩は真っ赤なマニキュアで染めた指先で、黒電話のコードをくるくると巻きながら話していたっけ。

 風がまた変わったのは1980年代後半ね。バブル絶頂期、はずみで立ち上げた編集プロダクションで、アシスタントに雇った若い女性を「うちの女の子」と言ったら、「人権無視だ。みっともない」と仕事仲間から猛反発を受けたのよ。

 下働きの女子の呼び方ひとつとってもそう。時代が変わると、やたら古びた感じがする言葉があるように、“コロナ禍”“感染者数”“PCR検査”も、古めく日がきっと来るって。そう思いたい。

※女性セブン2021年1月28日号

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