中古「検温カメラ」から顔画像流出…その原因、個人情報・悪用されるリスクは? 専門家が解説
2023年09月30日 06時00分TOKYO FM+
モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。9月20日(水)放送のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「コロナ対策の検温カメラから顔画像が流出 政府が注意喚起」。情報社会学が専門の城西大学 助教・塚越健司さんに解説していただきました。

◆中古の検温カメラ(サーマルカメラ)に大量の顔画像データが
新型コロナウイルスが感染症法上の「5類」に移行した後、検温に使う「サーマルカメラ」の撤去が進んでいます。こうしたなか、サーマルカメラに大量の顔画像が保存されたまま転売されていることが問題になっています。政府の個人情報保護委員会は9月13日(水)、サーマルカメラを使う事業者や製造販売業者に対し、注意喚起をおこないました。
吉田:まずは、サーマルカメラについて解説していただけますか?
塚越:「サーマル」とは「熱の、温度の」を意味する単語です。(熱作用の強い遠赤外線を検知し、対象物の体表面温度を測定できる)「サーマルカメラ」は、文字通りカメラを通して検温ができるカメラです。
なかには体温が表示されたり、音声で「正常です」と教えてくれたりするものもあります。コロナ禍で一気に設置台数が増えたのですが、コロナの「5類」移行に伴い、企業や飲食店などで撤去が進んでいます。
ところが撤去後に処分されず、ネットなどで転売されたサーマルカメラには顔画像が記録されているものが多かったことが判明しました。顔画像を消去しないまま廃棄したり転売したりすると、個人情報保護法に抵触する恐れがあります。
サーマルカメラの国内市場は2020年以降、年間4~5万台売れており、そのうちの7割は顔画像を取得しているとされています。コロナが収まりつつあるなかでカメラを廃棄したり、あるいはフリマアプリやオークションサイトなどで中古のものが販売されたりすることが増えてきました。
もともとは20~30万円で売られていたものが、中古だと数万円、物によっては数千円で売られるケースもあります。報道によれば、それらを購入したところ、おそらく企業や子ども関連施設などで利用されたとみられる数千枚の顔データが残っているものが多くあったということです。
◆顔画像が流出することで考えられるリスクは?
吉田:顔画像が悪用されると、どういったリスクが考えられますか?
塚越:専門家によれば、リスクとしては大きくわけて2つあります。
1つ目が「個人が特定されること」。撮影時刻などのデータもあるので、そこから個人の行動パターンが推測され、つきまといなどの被害につながるリスクがあるということです。
2つ目が「ネット上で顔データが悪用されること」です。顔データをネットの別の画像と組み合わせた「フェイク画像」がつくられるということと、ネットに顔画像が流れてしまうと顔データだけで個人を判明するリスクも増えてしまいます。さらに現在は顔データから感情や体調など、精度にもよりますが、いろいろな情報が取得できてしまうということが問題です。
さらに問題なのは、顔データを収集するサーマルカメラの機能を、設置事業者がよく理解していないということです。(説明書などに)「サーマルカメラに顔データが保存されるという」記述があっても、よく考えずに廃棄したり、転売したりしてしまう企業がいるという問題があります。
もう1つは、販売業者の問題です。サーマルカメラの説明書のなかで顔データに関する記述が少なかったり、場合によってはデータを保存しているのに、保存や消去の方法について説明書に書かれていなかったりするケースもあったということです。こうした設置事業者や販売業者の問題もあり、一般市民にとって大きなリスクが残る状況になってしまいました。
ユージ:この問題について、政府はどのような注意喚起をおこなったのでしょうか?
塚越:政府の個人情報保護委員会は9月13日、サーマルカメラを利用する事業者や、販売製造業者に対して注意喚起をおこなっています。顔データを取得するカメラを利用する「事業者」は、その事実を掲示して説明する、あるいは廃棄や転売の際にはデータを消去することを求めています。同時に「製造販売業者」には、顔データを取得することやデータの消去方法を説明書でしっかり記載することを要請しました。
◆社会全体で「個人情報保護」を進める方向へ進むことが必要
ユージ:この問題を塚越さんは、どうご覧になりましたか?
塚越:コロナでいろいろと大変だったと思うのですが、最初にルールをきっちり定められなかったことが大きいのかなと思います。
ユージ:(当時はサーマルカメラの設置の)スピードを求めていましたからね。
塚越:そうですね。例えば「IoT推進コンソーシアム」(※経済産業省と総務省が、産官学連携でIoT(モノのインターネット)に関係する技術開発や新たなビジネス創出の推進を目的に2015年に設立した組織)が、2021年に事業者向けに「配慮事項」というものをまとめて、(カメラを使って)顔データを収集する際には、そのことを明記することが「望ましい」としたルールにしました。
しかし、望ましいという表現は義務ではありません。そのため結局は(街中などに設置されている)サーマルカメラには「検温実施中」と書いてあるだけで、顔データを収集していることについては、ほとんどの方が知らないまま進められてしまいました。
実際、フランスではコロナ禍の2020年に学校や役所に入る際に利用するサーマルカメラの違法性が問われて、フランスの最高裁判所にあたる国務院で個人情報保護法に違反すると判断されています。データ保護の観点から厳しい判断がされたのですが、日本ではなかなかそうなりませんでした。事業者としても、売ってしまったり転売したりしたサーマルカメラは、回収できないですよね。
なかなか厳しいのですが、今あるものは何とかしてもらい、これを機に、我々の個人情報は国全体・社会全体として気を付けて守っていくという方向へ進むことが必要だと思います。

<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/one/

※写真はイメージです
◆中古の検温カメラ(サーマルカメラ)に大量の顔画像データが
新型コロナウイルスが感染症法上の「5類」に移行した後、検温に使う「サーマルカメラ」の撤去が進んでいます。こうしたなか、サーマルカメラに大量の顔画像が保存されたまま転売されていることが問題になっています。政府の個人情報保護委員会は9月13日(水)、サーマルカメラを使う事業者や製造販売業者に対し、注意喚起をおこないました。
吉田:まずは、サーマルカメラについて解説していただけますか?
塚越:「サーマル」とは「熱の、温度の」を意味する単語です。(熱作用の強い遠赤外線を検知し、対象物の体表面温度を測定できる)「サーマルカメラ」は、文字通りカメラを通して検温ができるカメラです。
なかには体温が表示されたり、音声で「正常です」と教えてくれたりするものもあります。コロナ禍で一気に設置台数が増えたのですが、コロナの「5類」移行に伴い、企業や飲食店などで撤去が進んでいます。
ところが撤去後に処分されず、ネットなどで転売されたサーマルカメラには顔画像が記録されているものが多かったことが判明しました。顔画像を消去しないまま廃棄したり転売したりすると、個人情報保護法に抵触する恐れがあります。
サーマルカメラの国内市場は2020年以降、年間4~5万台売れており、そのうちの7割は顔画像を取得しているとされています。コロナが収まりつつあるなかでカメラを廃棄したり、あるいはフリマアプリやオークションサイトなどで中古のものが販売されたりすることが増えてきました。
もともとは20~30万円で売られていたものが、中古だと数万円、物によっては数千円で売られるケースもあります。報道によれば、それらを購入したところ、おそらく企業や子ども関連施設などで利用されたとみられる数千枚の顔データが残っているものが多くあったということです。
◆顔画像が流出することで考えられるリスクは?
吉田:顔画像が悪用されると、どういったリスクが考えられますか?
塚越:専門家によれば、リスクとしては大きくわけて2つあります。
1つ目が「個人が特定されること」。撮影時刻などのデータもあるので、そこから個人の行動パターンが推測され、つきまといなどの被害につながるリスクがあるということです。
2つ目が「ネット上で顔データが悪用されること」です。顔データをネットの別の画像と組み合わせた「フェイク画像」がつくられるということと、ネットに顔画像が流れてしまうと顔データだけで個人を判明するリスクも増えてしまいます。さらに現在は顔データから感情や体調など、精度にもよりますが、いろいろな情報が取得できてしまうということが問題です。
さらに問題なのは、顔データを収集するサーマルカメラの機能を、設置事業者がよく理解していないということです。(説明書などに)「サーマルカメラに顔データが保存されるという」記述があっても、よく考えずに廃棄したり、転売したりしてしまう企業がいるという問題があります。
もう1つは、販売業者の問題です。サーマルカメラの説明書のなかで顔データに関する記述が少なかったり、場合によってはデータを保存しているのに、保存や消去の方法について説明書に書かれていなかったりするケースもあったということです。こうした設置事業者や販売業者の問題もあり、一般市民にとって大きなリスクが残る状況になってしまいました。
ユージ:この問題について、政府はどのような注意喚起をおこなったのでしょうか?
塚越:政府の個人情報保護委員会は9月13日、サーマルカメラを利用する事業者や、販売製造業者に対して注意喚起をおこなっています。顔データを取得するカメラを利用する「事業者」は、その事実を掲示して説明する、あるいは廃棄や転売の際にはデータを消去することを求めています。同時に「製造販売業者」には、顔データを取得することやデータの消去方法を説明書でしっかり記載することを要請しました。
◆社会全体で「個人情報保護」を進める方向へ進むことが必要
ユージ:この問題を塚越さんは、どうご覧になりましたか?
塚越:コロナでいろいろと大変だったと思うのですが、最初にルールをきっちり定められなかったことが大きいのかなと思います。
ユージ:(当時はサーマルカメラの設置の)スピードを求めていましたからね。
塚越:そうですね。例えば「IoT推進コンソーシアム」(※経済産業省と総務省が、産官学連携でIoT(モノのインターネット)に関係する技術開発や新たなビジネス創出の推進を目的に2015年に設立した組織)が、2021年に事業者向けに「配慮事項」というものをまとめて、(カメラを使って)顔データを収集する際には、そのことを明記することが「望ましい」としたルールにしました。
しかし、望ましいという表現は義務ではありません。そのため結局は(街中などに設置されている)サーマルカメラには「検温実施中」と書いてあるだけで、顔データを収集していることについては、ほとんどの方が知らないまま進められてしまいました。
実際、フランスではコロナ禍の2020年に学校や役所に入る際に利用するサーマルカメラの違法性が問われて、フランスの最高裁判所にあたる国務院で個人情報保護法に違反すると判断されています。データ保護の観点から厳しい判断がされたのですが、日本ではなかなかそうなりませんでした。事業者としても、売ってしまったり転売したりしたサーマルカメラは、回収できないですよね。
なかなか厳しいのですが、今あるものは何とかしてもらい、これを機に、我々の個人情報は国全体・社会全体として気を付けて守っていくという方向へ進むことが必要だと思います。

吉田明世、塚越健司さん、ユージ
<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/one/
記事にコメントを書いてみませんか?