【漢字トリビア】「師」の成り立ち物語

【漢字トリビア】「師」の成り立ち物語

【漢字トリビア】「師」の成り立ち物語

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「恩師」「師匠」の「師」。わが師の恩に感謝をこめて、卒業の季節にひもといてみたい漢字です。



「師」という漢字の左側は「シ」「タイ」と読み、軍隊が出征するとき、無事を祈って神へ供える二枚の肉の形を表しています。
古代中国では戦の際に必ず、守護霊としての力をもつ乾した肉を携えて出かけたのです。
向かって右側のつくり(?)は刀の形。
戦略によって軍隊を分け、別行動をさせるときは、お守りとしての肉を切り分けて持たせます。
この儀式を行う権限をもつ者を表した漢字が「師」。
もとは「将軍」を意味し、おもに氏族の長老がその役割を担っていました。
やがて現役を引退した長老は、戦術の指導者として若手の育成にあたります。
そこから「師」という漢字が「先生」としての意味をもつようになったのです。

大正時代に創刊された児童向け文芸誌『赤い鳥』には、当時の文壇をにぎわせていた一流作家たちの小説が次々と掲載されました。
その中の代表作ともいえるのが、有島武郎の短編「一房の葡萄」。
小学校の国語の教材としていまだに使われている、おなじみの名作です。
この物語には、過ちを犯した生徒をひとりの人間として尊重し、こまやかな配慮で成長へと導く女性教師が登場します。

同級生が持っていた美しい色の絵の具をポケットに入れてしまった少年。
教師は泣き続ける彼の心中を察して責め立てることをせず、自分のしたことを自ら受け止める時間を与えます。
そして同時に、絵の具を盗まれた生徒と和解する道筋を作るのです。
事件の翌日、教師は笑顔で握手をかわす二人の生徒に、窓の外からもぎとった一房の葡萄を半分に切り分けて与えたのでした。

少年の性格や本音をするどく見極め、ありきたりな教育的指導とは違ったやり方を選んだ教師。
果たしてその出来事を境に、少年は新たな一歩を踏み出してゆくのです。
「師」が生徒に与えた言葉や知識は、卒業後の人生を生きていくためのお守りのようなもの。
それは、戦の途中で別行動をとることになった一行に、将軍が守護霊の宿る乾し肉を分け与える行為と同じ。
まさに「師」という漢字の成り立ちそのものです。

ではここで、もう一度「師」という字を感じてみてください。

将軍は軍隊での現役を退いた後、おもに戦術を教える「師」となります。
戦乱とは言わないまでも、混乱した時代を生きる私たちは、様々な戦術を身につけて世間を渡っていくしかありません。
学校を卒業して社会に出たら、自ら「師」を見つけて教えを請う。
そうした自覚を持つだけで、出会う人すべてが「師」となってくれます。
読書や旅のさなかから、自分にあった「師」を見つけ出すこともできます。
まだまだ伸びしろはある、学びたいことも山ほどある。
そう思える人生は、なんと楽しいことでしょう。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『白川静さんに学ぶ漢字は楽しい』(小山鉄郎/著 白川静/監修 文字文化研究所/編 共同通信社)
『日本児童文学名作集(下)』(桑原三郎、千葉俊二/編 岩波文庫)所収「一房の葡萄」(有島武郎/著)

3月10日(土)の放送では「松」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。


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聴取期限 2018年3月11日(日) AM 4:59 まで

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<番組概要>
番組名:感じて、漢字の世界
放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット
放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)
パーソナリティ:山根基世
番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/

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