【漢字トリビア】「蛍」の成り立ち物語

【漢字トリビア】「蛍」の成り立ち物語

【漢字トリビア】「蛍」の成り立ち物語

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「蛍」、「蛍雪の功」「蛍光灯」の「蛍(ケイ)」とも読む漢字です。



「蛍」という字の古い字体(螢)は燃える「火」という字をふたつ並べ、その下にカタカナの「ワ」に似た「わかんむり」を書いて「虫」と書きます。
ふたつ並んだ「火」が表しているのは松明の形。
火の粉が飛び散って光る様子を、蛍が飛び交う姿にたとえたのが「蛍(螢)」という漢字です。
蛍の卵は水辺のやわらかな苔や草むらに産み付けられ、羽化して幼虫になると水中へ移動し、脱皮を繰り返して成長します。
その後一斉に地上へあがり、土の中でさなぎの時期を過ごし、この世に生を受けてからおよそ一年をかけ、ようやく成虫となって飛び立ちます。
湿った草むらの間から蛍が舞い上がる様子を、いにしえの人はこう表現しました。
「腐草蛍と為る(くされたるくさ ほたるとなる)」。
新暦六月十日からの五日間を示す、七十二候の言葉です。
古代中国の人々は、蛍が水辺で腐った草の生まれ変わりだと信じていたようです。

街灯も電灯もなかったいにしえの頃、夜は漆黒の闇が広がるばかり。
人々はそこに魑魅魍魎の世界を想像し、畏怖の念を抱いていました。
でも、初夏の風がおだやかな数日の間だけ、里山には特別な夜が訪れます。
清流のそばに腰掛けて待っていると、無数の蛍が飛び交い始めるのです。
消えては光る命の炎、新月の空にまたたく星たち。
現実の世界では思うように生きられないわが身だけれど、今夜は魂を身体から取り出して、蛍と自由に遊ばせてみよう。
蛍の季節は、人々を恍惚の宇宙へといざないます。

ではここで、もう一度「蛍」という字を感じてみてください。

闇夜で浮遊する青白い光が、恐るべき存在だった古代。
やがて平安の世になると、貴族たちは夏の風物詩として蛍を愛で、恋の炎に身を焦がすわが身の分身として見るようになります。
恋多き女流歌人・和泉式部は、こんな歌を詠みました。
「もの思へば 沢の蛍もわが身より あくがれ出づる 魂(たま)かとぞ見る」
口にはできない恋心は、油断すると身体の外へあふれ出し、群れ飛ぶ蛍の一団からも離れて、天高く舞い上がります。
やがて源平の合戦のあとには、戦いに敗れた武士の魂がこの世に戻り、再び戦いに挑む様子が蛍の乱舞に見立てられることもありました。
蛍の点滅が、この世とあの世を行き来する人間の魂を思い起こさせます。
あなたの魂がからだを離れ、出てゆこうとする憧れの場所がどこなのか……、真実を確かめに出かける、平成の蛍狩り。
くれぐれも、蛍の恋路は邪魔なさいませぬように。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『蛍の里 西川祐介写真集』(西川祐介/写真 東方出版)
『蛍の本』(田中達也/著・写真 日本写真企画)

6月10日の放送では「降」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。


<番組概要>
番組名:「感じて、漢字の世界」
放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット
放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)
パーソナリティ:山根基世
番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/


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