【テレビの開拓者たち / 井上由美子】「昼顔」「キントリ」脚本家が明かす2つのこだわり

【テレビの開拓者たち / 井上由美子】「昼顔」「キントリ」脚本家が明かす2つのこだわり

いのうえ・ゆみこ=1961年生まれ、兵庫県出身

テレビ局勤務を経て脚本家デビューを果たし、以降、NHKの朝ドラや大河ドラマ、民放の連ドラ、WOWOWのドラマWなどなど、実に数多くの話題作を送り出してきている脚本家・井上由美子氏。現在大好評を博し、6月15日(木)にいよいよ最終回を迎える「緊急取調室」シーズン2など、そのリアリティーあふれる作風から“社会派”の作家という評価を受けることも多い彼女だが、自身にはその意識は全くないという。そんな井上氏に、これまで手掛けた主な作品を振り返ってもらいつつ、脚本作りのこだわりについて聞いた。

■ 「北条時宗」は、定番の題材ではないからこそ面白いんだって自分を励ましながら書き上げました

──脚本家になる前はテレビ東京にお勤めだったそうですね。

「もともとテレビドラマが大好きで、テレビに関わりたいというミーハーな感じで入社したんですが、営業事務というドラマ制作とは無縁の部署だったので、数年で退社させていただいて。そのときはドラマを作りたいと思っていたので、何が何でも脚本家というわけではなく、プロデューサーや監督になりたいとも思っていたんです。でも、昔から向田邦子さんや山田太一さんのドラマを見ていて、脚本家に対する憧れは強くありましたし、ドラマの最初の設計図を作るのは面白そうだなと思って、シナリオスクールに通い始めたんです」

──'91年に脚本家としてデビューされて、早くも'96年には朝ドラの「ひまわり」(NHK総合ほか)を手掛けられています。

「連ドラ自体が初めてなのに、いきなり週6話で半年間も続く朝ドラなんて自分に書けるのかなって、本当にわけも分からないまま始まったんですけど、終わってみたら、『なんとかやり通せた。私、脚本家としてやっていけるかも』って自信がついて。作品の内容というより、分量的な部分での自信ってことなんですけど、ともあれ『ひまわり』は、すごく大切な作品の一つですね」

──その後、「きらきらひかる」('98年フジ系)で初の民放連ドラのメーンライターを務め、それを機に、数々の作品を手掛けられるようになるわけですが、'01年には大河ドラマ「北条時宗」(NHK総合ほか)で、今度は1年間という長丁場のお仕事に臨まれて。

「思い出すだけで汗をかきそうです(笑)。時宗は、例えば(源)義経とか(織田)信長みたいな歴史物の定番の題材ではないし、資料もあまりなければ、講談にもなっていないんですね。クライマックスも蒙古襲来という視聴者にとってイメージしにくいものだったので、その辺はやっぱり難しかったです。でも、だからこそ面白いんだって自分を励ましながら書き上げました」

■ “今っぽさ”は常に作品の中に出したいと思っています

──そして、「白い巨塔」('03年フジ系)という不朽の名作のリメークで、また半年間の長丁場に…。

「大河ドラマを1年書き終わった後だったので、半年ということには抵抗はなかったですね。それよりも、作品自体に対する恐さの方が大きかった。絶対に過去の『白い巨塔』('78〜'79年フジ系、脚本=鈴木尚之)と比べられますから。私自身も好きなドラマで思い入れもあったし、山崎豊子さんの原作小説も、初めて自分のおこづかいで買った本だったので、『なぜ私に?』なんて思いましたけど、でもこれは絶対にやりたいなと思いました」

──このころからでしょうか、社会派の脚本家という評価が定着してきたように思いますが、井上さんご自身の意識としては…?

「自分では、社会派を売りにしているつもりはないんです。ただ、常に、今でこその題材…と言いますか、“今っぽさ”は常に作品の中に出したいと思っています。たとえ時代劇でも、今との接点を見られるのがテレビの醍醐味だと思うので」

──今の時代の“アイテム”ではなく、今の時代の“空気感”を描くということですね。「14才の母」('06年日本テレビ系)もセンセーショナルな作品でした。あのタイトルは、志田未来さん演じる「14才の母」のことでもあり、田中美佐子さん演じる「14才(の娘)の母」のことでもあるのかなと思いましたが…。

「そうです、そうです。ダブルミーニングなんですよ。それと、本来は新聞の表記では“歳”にしないといけないらしいんですけど、敢えて“才”にしたんですよね。『才能』の“才”ということで、世の中のお母さんたちに、いろんな才を持って子育てしてほしい、という願いを込めて」

──そういえば、最終回で北村一輝さん演じる週刊誌の編集長が一度「歳」と書いてから「才」に書き直す、というシーンがありましたね。

「私の中では、あのシーンには、まさに今言ったような思いが込められていて。ただ、ドラマの中でわざわざせりふとして表現するのはどうかなと思って、あのぐらいにとどめておきました(笑)」

──社会派の枠にとどまらない愛情あふれる目線ですね。一方で、連続ドラマWの第1作「パンドラ」('08年WOWOW)は、まさに“THE社会派ドラマ”という骨太な作品でした。

「私としては『パンドラ』も、社会派と気負うより、エンターテインメントのつもりで書いたんですけどね。あるパーティーでお会いしたWOWOWのプロデューサーの青木(泰憲)さんから、『ウチでドラマを書くつもりなんてありませんか?』って聞かれて、『WOWOWでオリジナルの連ドラができたら、面白そうですね』なんて盛り上がったんです。そしたら、すごく動きの早い方で、数日後に『やりましょう』とお電話をいただいて」

■ 面白いな、愛おしいな、恐いなと思える“人間”を描くことが私のこだわりかもしれません

──「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」('14年フジ系)は、不倫を題材にしたドラマとして注目を集めました。

「それまでラブストーリーをほとんど書いたことがなかったんですよ。『GOOD LUCK!!』('03年TBS系)は恋愛要素もありましたけど、基本は職業ドラマですし。そんな思いがあって、一度は挑戦してみたいと思ったんですが、木曜夜10時枠ということで、若者のラブストーリーではなく、結果的に大人のメロドラマになりました。不倫というテーマについては、批判もないわけではなかったけれど、今ほどではなかったと思います。“ゲス不倫”っていう流行語が生まれる前でしたしね(笑)。『昼顔』に関しては、役者の皆さんがそれぞれのキャラクターに奇跡的なぐらい見事にハマったのが、書いている私も楽しかったです」

──また、「お母さん、娘をやめていいですか?」('17年NHK総合)では、斉藤由貴さん演じるヒロインの母の“毒親”ぶりも話題に。

「あれは、ここ5年くらいずっと書いてみたかったテーマだったんです。『14才の母』のときにちょうど14歳だった私の子供が、この作品で波瑠さんが演じたヒロインと同じ25歳になるんです。『14才の母』のときは自分の子にあんなスキャンダラスなことが起きたら恐いな、なんて思いながら書いてましたけど、今は自分が毒親になったら恐いなという思いをモチベーションに書きました」

──さて、現在放送中の「緊急取調室」も、いよいよ最終回を迎えます。

「刑事ドラマというのは、事件を解決する物語という意味で、どうしてもパターンが決まってきてしまう。そのパターンをどう崩すかが、25年間やってきて一番難しかったところかもしれませんね。シーズン1('14年)のときは、取り調べの可視化がまだ始まる前でしたけど、今回はもう始まっていたので、その辺の説明を省けたのはよかったですけど。刑事ドラマって本当に面白いジャンルですよね。事件を解決するというストーリーの軸さえ押さえておけば、いろいろな挑戦ができる。シーズン3があるかはまだ分かりませんが、事件が終わっても有希子(天海祐希)たちの人生は続いているわけで、またいつか“キントリ”チームを描けたらいいですね」

──そんな風に数多くのドラマを世に送り出してきた井上さんですが、脚本作りにおいて最もこだわっていることは?

「そんな大げさなことはないんですが、とにかく面白い作品を書いて『やっぱり、ドラマって面白い』と思っていただくことですね。私は、よく『節操がない』なんて言われるんですよ。職業ものなのか、ミステリーなのか、ラブストーリーなのか、どれかにジャンルを決めた方がいいんじゃないか、って。『何でも屋は、何でもない屋だよ』なんて言われたりするんですけど、でも、私の中では全てつながっているつもりだし、ジャンルを決めようとは思わないんですよね」

──井上さんの中でつながっている軸とは?

「その時々で、面白いな、愛おしいな、恐いなって思えるような“人間”を描く、ということ。それと、さっきも言った“今っぽさ”をどこかに入れること。この二つですね。それが、私の脚本家としてのこだわりなのかもしれません」

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