又吉直樹「オイコノミア」を語る『先生たちは芸人っぽい』

又吉直樹「オイコノミア」を語る『先生たちは芸人っぽい』

カメラマンに少しほほ笑みを見せてくれた又吉直樹

NHK Eテレで放送中の「オイコノミア」(毎週水曜夜10.00-10.45)は、日常生活の疑問や悩みを経済学の観点から解き明かす番組。今回、放送開始からMCを務める又吉直樹に、番組に対する思いや文学と経済学の共通点を聞いた。

■ メリットもデメリットも知ってから選ぶ

――これまでの放送で印象的だったのはどの回ですか?

「家」の回ですね。「家を買うのと借りるのではどっちがいいんですかね?」っていう議論って、いろんなところでするじゃないですか。結局のところ拮抗(きっこう)してるというか、人によって、生活とか将来のプランに合わせて選ぶっていうのがいいっていうお話だったんですけど。そういうのを聞くと、得した気持ちになりますね。

あとは「ギャンブル」の回で、“損失回避性”(得た時よりも、失った時の方がつらさが大きいので、さらに大きな利益を得ようとしてしまい、損切りができない人間の心理を表す言葉)っていう考え方を習ったんです。

1回もらったもん返すのって嫌なんですよ、もともとは同じやのに。「こんだけ負けたら次勝てるやろ」って絶対思ってしまうんです。それを聞いた時に、失敗してるのって大体これやなと。

――その話を聞いて、又吉さん自身はどうされましたか?

生活プラス自分の性格に合わせて家買おうかなと思いました。というかもう買ったんですけど。番組内では「買え」とも「買うな」とも言ってなかったんですが、買った方が得っていう声の方がややでかいと思ってたんです。でも話を聞いていくと、そうでもなくて。買わなくても得するメリットも分かってきて。

確かに、買うとどんどん古くなっていくけど、買わなければその家賃で新しい家に住み続けることもできると、そういうのも面白いなと思いました。

デメリットがあるんだということを分かってて買うことで、後で知った時のショックがないというか、ちゃんとそれを踏まえた上で考えることができました。

■ 理にかなっていても、感情に反していることは実践できない

――又吉さんは、知ったことは実践するタイプですか?

ほとんどのことは実践できると思います。ただ、例えば恋愛とか、絶対無理と分かってても、「好き」っていう気持ちは「あ、無理やから諦めよ」とはならないじゃないですか。引きずってしまうし、そこは迷い続けるしかない部分もあると思うんです。

そういうこと以外で、いろんな人の意見を聞いて判断したいなっていうことは、番組で学んで考えを整理できたなと思うんですけどね。

――認識や行動などで変わった部分はありますか?

番組の中で、こういう状況の時に僕がどういう行動をとるかっていう実験をすると、普通とは違う結果になることが多いんです。普通はこうなるけど、僕はこうなったっていう部分から自分の癖や特性が分かるので、そこ気を付けようと意識はしましたね。

ただ、もしこの番組を見て生き方を完全に変えてる人がおったら、そこまではやらなくていいと伝えたいです。自分のやり方がまずあって、有効に使えるものを活用していってもらえれば、毎日が楽しくなるんじゃないかと思いますね。

■ 文学と経済学は時代の転換期をなかったことにしない

――経済学と文学の共通点はあると思いますか?

そうですね。経済学は、どういうふうにすれば格差がなくなるかとか、いろんな問題点が解決するかっていうことを突き詰めて考えていきますよね。

文学でも、人間関係とか格差の問題を扱えるでしょうし、いろんな問題に関して誰かが考えていく。そこに答えを見つけるっていう感じではないんですけど、文学の中で問題提起をしたり、考えたりする姿を「こういう人物がいる」と書くという部分では共通するのかなとは思いますけどね。

――文学の“答えを出さない”という部分に、魅力を感じているんでしょうか?

それももちろんありますね。僕が文学の「ここが好きだ」という部分は、それが経済学の説明にもなるような気もしてて。説明が難しいんですけど、例えば縄文時代から弥生時代に変わる瞬間って年表で見たら翌日、弥生時代になったみたいになっていますよね。

でも実はそうじゃなくて、ゆるやかに移行していってる。僕はその転換期とかに興味があるんですよ。

僕らの高校時代って、運動部は水を飲まない方がいいってなっていたんです。今はそれ間違ってて、水飲んだ方がいいと言われている。これってもうちょっと時間がたって年表になったら、何年頃まではってただの線で引かれますよね。

僕らの頃は、雑誌では水飲んだ方がいいって書いてあるのに、現場では絶対飲ませてもらえなくて、自分が信じられへんことをやらされていてきつかったんです。

こういうことなんですよ。そういう人たちのことが経済学でも文学でもなかったことにはならないし、そこが僕は面白いなと思っています。

ドラマで描かれる家族の風景と、それを実家で見ていた僕の家族は違うわけじゃないですか。平成の大阪には“ぼっとん便所”の家はないって言われる可能性があるんですけど、僕の家では中学2年か3年までぼっとんやったんですよ。

シャワーもなかったし、風呂もカチカチカチ(バランス釜式)っていうやつで。そういう家は実はいっぱいあるわけじゃないですか。番組ではいろいろな所に取材に行って、話を聞いて、そうするといろんなことが見えてくるんで、面白いですね。

――共演している先生たちとのエピソードはありますか?

最初は、賢くて知識が豊富で、何かそういう「先生!」って方に教わるんやって思ってたんです。でも今は、もちろん知識も豊富やし、考えるスピードも速いんですけど、割と個性的で芸人っぽい先生も多いということが分かりました。

みんな冷めてないというか、言葉に熱を持っているんです。本気だから、「こうなんじゃないですか」って僕が言っても、反論してくる。それに、僕が質問したことが分からんかったら、簡単には答えへん。

「それどうなんでしょうね」って言って、すぐその場で調べたり、次にお会いしたときに「あれって…」って、こっちが忘れてることでも教えてくださったり。さすがですよね。その辺は僕と反対で、僕もその場では調べてみようって思うけど、絶対調べないんです。

――番組の今後の展望などはありますか?

僕自身は正直具体的に展望は持ってないんですけど、いつも面白いテーマをみなさんが出してくれるんで、先生と、まだこんなことがあったんやって体験できることがうれしいです。

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