【テレビの開拓者たち / 岡田惠和】「いつか『ひよっこ』の続きを書いてみたいです」

【テレビの開拓者たち / 岡田惠和】「いつか『ひよっこ』の続きを書いてみたいです」

おかだ・よしかず=1959年2月11日生まれ、東京都出身

9月25日より、いよいよ最終週に突入した「連続テレビ小説『ひよっこ』」(NHK総合ほか)。「ちゅらさん」(2001年)、「おひさま」(2011年ともにNHK総合ほか)に続く3作目の“朝ドラ”として本作の脚本を書き上げたのが、岡田惠和氏だ。

この3本の朝ドラのほかにも、「彼女たちの時代」(1999年フジ系)、「最後から二番目の恋」(2012年フジ系)といった作品で、ごく普通の人々の喜怒哀楽を丹精に描く一方、「イグアナの娘」(1996年テレビ朝日系)や「泣くな、はらちゃん」(2013年日本テレビ系)、「ど根性ガエル」(2015年日本テレビ系)など、ファンタジー色の強い作品も数多く発表してきた岡田氏。果たして彼は、どのような思いを込めて、それぞれの作品を作り出しているのか。「ひよっこ」の思い出と併せて語ってもらった。

■ 視聴率はいつも気にしてます。それだけに『ひよっこ』の序盤はちょっとヘコみました(笑)

──まずは、「ひよっこ」の最終週を書き終えた今の心境をお聞かせください。

「僕としては、全26週というより、全156話の作品を1話1話書いてきた感覚なんです。だから、まさに毎回が戦いで、前2作よりもはるかに大変でしたね。過去に朝ドラを2本やっているからといって、そんなことは決してアドバンテージにはならないんだなと痛感しました(笑)。でもその分、かなり密度の濃いものになったという気はしていて。現時点での自己ベストは出せたかなと思っています」

──今作を書かれる上で「大変」だったのは、どのような点ですか?

「一番苦労したのは笑いのシーンですね。当時(1960年代)と今とを比べると、笑いの感覚がまったく違っていて。何が違うかというと、当時は“ツッコミ”という文化がなかったんですよ。おそらく、これはビートたけしさんの登場以前と以降で分かれると思うんですけど、少なくとも1960年代の東京には、何か面白いことを言ったりやったりした人に対してツッコミを入れる人はいなかった。古い日本映画なんかを見ると、『こんなベタなセリフで笑わせてるつもりなの?』みたいなシーンがけっこうありますけど(笑)、でもその当時はみんな、そのシーンを面白いと感じていたわけですよね。だから、そのへんのベタな感覚みたいなものは相当意識したし、今の笑いのセンスは持ち込まないようにも気をつけました。その塩梅が難しかったですね」

──では、書いていて楽しかったエピソードは?

「実は、朝ドラを書く一番の醍醐味は、“何もない回”を書くときなんですよ。つまり、特に事件も起こらず、物語が動かない回。そういうエピソードが書けるのは、半年間の長丁場で、しかも1話15分の朝ドラだからこそ許される、ある種の贅沢だと思っています。例えば、漫画家の2人がいなくなった、という回がありましたけど、あの回は本当に書くのが楽しくって。…そんなことを言うと、『脚本家がラクをしてる』と思う方もいるかもしれませんけど、でも実は、何もない回の方が、脚本家の技術が必要なんですよ。書く側にとっては、すごくハードルが高い作業なんです。もちろんその分、やりがいも大きいわけですけど。特に今回に関しては、役者さんたちがみんな芸達者だったので助けられましたね」

──「ひよっこ」は、ツイッターでも非常に大きな反響を呼びました。こうしたネット上での反応というのは、以前に岡田さんが朝ドラを書かれていたときにはなかった現象だと思うのですが。

「確かにそうですね。今回まず思ったのは、朝ドラって、こんなにも視聴率が取りざたされるものだったのか、という(笑)。序盤が少し苦戦していたこともあって、毎日のように『今日も20%の大台に届かず』とか何とかつぶやいてる人がたくさんいて、ちょっと不思議な感じがしましたね。内容に対する感想のツイートは、オンタイムで見るのが面白かったです。その場面が放送されている瞬間に、みんながどんな反応をしているのかを見る、というのは初めての経験でしたから」

――ちなみに岡田さんは、ご自分の作品の視聴率は気になりますか?

「はい、いつも気にしてますよ。気にしても仕方がないんですけどね、どうやったら視聴率が獲れるかなんて誰にも分からないし。でもだからこそ、僕は毎回、『これで数字を獲りたい』と思って脚本を書いています。それだけに、『ひよっこ』の序盤はちょっとヘコんだんですけど(笑)」

――でも現在は、20%台の視聴率を連発していますよね。

「ええ、おかげさまで。今回みたいに、スタートしたときからだんだん数字が上がっていく方が、作品が浸透していっていることが実感できて、作り手として喜びは大きいですね」

■ “普通の人”を魅力的に描くことが脚本家としての自分の役割なのかなと

──今作では、有村架純さん演じるヒロインのみね子に共感する声もたくさん集まっています。従来の朝ドラのヒロインは、夢に向かって生きる女性や、大きな目標を達成する女性であることが多いのですが、みね子は、どこか現代の若い女の子にも通じるような、等身大のキャラクターでした。

「確かに、朝ドラのヒロインとしては少し珍しいキャラクターかもしれないけど、人物像としては珍しくも何ともない、普通の女の子なんですよね。でも、自分が愛せる人、感情移入できる人ってどんなタイプだろう、と考えると、僕の場合はやっぱり、みね子みたいな普通の人が思い浮かぶんですよ。前向きにリーダーシップを取るタイプでもなく、臆さず無謀な行動を取るような破天荒な人物でもない。他愛ない日常の中で、つらい思いを抱えたり、喜びを感じたりしながら生きている、みね子のような人が、僕はやっぱり一番好きだし、そういう人の話を書きたいんです。ただ『ひよっこ』に関しては、ヒロインを演じるのが有村さんだから成立したんだと思っていて。ストーリーの流れを他の登場人物が持っていっても埋没しないだけの力のある女優さんなので、僕としては安心して、書きたいように書くことができました」

──“普通の人を描く”というのは岡田さんの作品に通底しているテーマでもありますよね。

「ええ、そうですね。さらに言うならば、それは脚本家としての自分の役割なのかもしれない、と思っています。もちろん、普通であれば何でもいいわけじゃなく、その普通の人たちをどう面白く、魅力的に描くのか、それが自分に課せられた役割なのかなと」

──そういう自覚を持たれるようになったのは、何かきっかけが?

「僕が脚本家としてデビューしたころは、まず“月9”のようなトレンディードラマがメインストリームにあって、また、野島伸司さんの作品のようなエッジの利いたドラマも人気を博していた時代で。そんな中、僕が初めて原作付きではなくオリジナルで書いた連続ドラマが『若者のすべて』(1994年フジ系)という作品だったんですけど、これは川崎の町に住む普通の若者たちの話で、書きながら『これからも僕はこういう人たちを描いていくんだろうな』という感覚が強くあって。もしかしたら、こんなふうに普通の人を描くことが、自分の作家的な立ち位置なのかなと。そしてまた一方で、『南くんの恋人』(1994年テレビ朝日系)という作品で、ファンタジーの世界を連続ドラマとして落とし込むという描き方を経験したときに、僕は強烈なフィクションの中でこそ自分らしさを発揮できるんじゃないか、とも思ったんです。この2作をほぼ同じ時期に書いているのが、ある種運命的なんですけど、普通の人を描くものと、ファンタジー性の高いもの、その2つが自分の2本柱だと考えるようになったのはそのころからですね」

■ 若い作家と同じフィールドで、攻めの姿勢を貫いていきたい

――他に、ご自身のターニングポイントとなった作品はありますか。

「ターニングポイントではないかもしれませんけど、最近で言うと、『奇跡の人』(2016年NHK BSプレミアム)は自分にとって大きな作品になりましたね。あの作品を書いているとき、何か得体の知れない充実感みたいなものがあったんです。峯田和伸くん(主演)との出会いも刺激的でしたし。何より、『まだまだ自分はこういうエネルギーのあるものが書けるんだ』という自信につながりました。『ひよっこ』の前に『奇跡の人』をやれたことは、すごくいい助走になった気がします」

――では、岡田さんが脚本を書かれる際、常に心掛けていることは?

「登場人物を作品の都合で動かしたくない、ということですね。どのキャラクターも、生きている意味のある人として描きたいんです。どんな作品を書くときも、そこはいつも意識しています」

──「ひよっこ」がフィナーレを迎えた後、10月からは新作「ユニバーサル広告社〜あなたの人生、売り込みます!〜」(テレビ東京系)もスタートしますが、これからの展望をお聞かせください。

「朝ドラを3本手掛けてきて、それぞれがその年齢なりの自分の作品として納得のいくものになったという自負はあるんですね。だからこれからは、自分が60歳になったときにどんなものを書くのかをゆっくり考えていきたいなと(笑)。といっても、ベテラン仕事ではなく、常にチャレンジをしていたい。攻めの姿勢は貫いていきたいですね。まぁ、この先、自分の作風がガラッと大きく変わったりすることはないんでしょうけど、ともあれ、若い作家さんたちと同じフィールドで勝負していけたらと思っています。もちろん、視聴率という結果にもちゃんとこだわりながら戦っていきたいです(笑)。それと、実は『ひよっこ』で登場人物たちの4年間しか描けなかったということに、ちょっとだけ心残りがあるんですよ。ですから、いつか続きを書いてみたいです」

──ちなみに、「ひよっこ」と同時期に、倉本聰さん脚本の帯ドラマ「やすらぎの郷(さと)」(テレビ朝日系)が放送されていましたが、意識はされていましたか?

「『ひよっこ』を書くのに忙しくて、失礼ながら、ちゃんと見ることはできていないんですが、もちろん時々拝見してました。本当にすごいドラマだと思います。正直、どっちがおとなしいかと言ったら『ひよっこ』の方がおとなしいわけで…。自分が倉本さんの年齢になったときに、あんなパンクな作品を書けるだろうかということも含めて、刺激をいただきました。後輩の脚本家として、『ひよっこ』が『やすらぎの郷』と同じ時期に放送されたということを誇りに思います」

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