【テレビの開拓者たち / 横井雄一郎】「クレイジージャーニー」演出家が画策中の新企画とは…?

【テレビの開拓者たち / 横井雄一郎】「クレイジージャーニー」演出家が画策中の新企画とは…?

よこい・ゆういちろう=1981年6月6日生まれ、神奈川県出身

今、最も勢いのあるバラエティーの作り手として注目を集めるTBSディレクター・横井雄一郎氏。「学校へ行こう!MAX」(2005〜2008年)、「リンカーン」(2005〜2013年)といった人気番組を経て、自ら企画した「クレイジージャーニー」で才能を開花させた横井氏に、番組作りへのこだわりを聞いた。

■ 「ごっつええ感じ」の笑いは本当に斬新で、ものすごく影響を受けました

――横井さんがテレビマンとして最初に携わった番組は何でしょうか?

「最初の1年はドラマ班に配属されて、田村正和さん主演の『夫婦。』(2004年)や、野島伸司さん脚本の『あいくるしい』(2005年)などに参加させてもらったんですが、当然、ADという末端中の末端のポジションで。地獄のように忙しい日々を送ったおかげで、いつでもどこでも一瞬で寝られるし、10分寝たら2時間回復できる、そんな強靭な肉体を手に入れることができました(笑)」

――その後、自ら志願してバラエティーの制作に移られたわけですか。

「僕は元々笑うことが好きで、この世界に入ったんですね。ですから、自分がADで入っているドラマに芸人さんが出演するときは、『僕、本当はバラエティーがやりたいんです』なんて話し掛けたりしてました。今でもよく覚えているのが、ピースの綾部(祐二)さん。『僕も頑張るから横井くんも頑張ってね』と言ってくれたんですけど、その翌年に僕が『学校へ行こう!MAX』に異動になったとき、番組の前説をやっていたのがピースだったんですよ。その後、『リンカーン』で僕がディレクターを担当した企画に、ピースの2人に出てもらったこともありました。感慨深いものがありましたね」

――「元々笑うことが好き」とのことですが、影響を受けた番組や芸人さんは?

「何といっても松本人志さんですね。『(ダウンタウンの)ごっつええ感じ』(1991〜1997年フジ系)が、僕が中高生のときにやっていて、世代的にどストライクなんですよね。あの番組の“笑い”は本当に斬新で、これまで見たことがなかった。次の日、学校で『俺はあの笑いを理解できたぞ』って友達と競い合うようにしてしゃべるのが楽しくてね(笑)。僕らの世代は全員、あの番組から何がしかの影響を受けていると思うんですけど」

――その後、「リンカーン」で憧れのダウンタウンのお二人と一緒に仕事をすることになるわけですね。

「『リンカーン』は途中からの参加で、番組が始まったときは、僕はまだ『学校へ行こう!MAX』をやってたんです。だから、いわば部外者だったんですけど、第1回目の収録を見学に行ったんですよね、ダウンタウンさん見たさに」

――(笑)。「リンカーン」での横井さん渾身の企画は?

「楽しかったのは、巨大化シリーズ。元々“巨大カップやきそば”があって、僕は“巨大リップクリーム”を担当したんですが、収録中ずっと、テレビでしかできないことの極みに挑戦しているという充実感がありました(笑)」

■ 藤井健太郎さんを見て、「あっ、こんなに自由にやっていいんだ」と(笑)

――これまでのキャリアで、ターニングポイントとなった番組はありますか?

「『水曜日のダウンタウン』で、僕の一つ上の先輩の藤井健太郎さんと一緒に仕事をしたことは、僕にとってはかなり大きな転機でしたね。藤井さんとは元々、食事なんかは一緒に行ったりしてたんですが、仕事をするのは初めてで。そこで藤井さんの番組の作り方を目の当たりにしたときに、とにかく彼自身が楽しんでいるのが伝わってきて、『あっ、こんなに自由にやっていいんだ』と思ったんですよね(笑)。というか、バラエティー番組を作るときに、ここまで作り手の“好きなこと”を前面に出してもいいんだと教えられたような気がして。それ以来、番組作りの意識は間違いなく変わりました。僕は器用ではないので、“本当に自分が好きなこと”をうまく生かして、自分が視聴者として見たいと思えるような番組を作りたいなと」

――藤井さんや横井さんは、90年代後半から「学校へ行こう!」や「ガチンコ!」(1999〜2003年)といったヒット番組を立ち上げ、“バラエティーのTBS”の時代を築いた元プロデューサー・合田隆信さんの“合田イズム”の継承者として紹介されることも多いですよね。横井さんご自身にも“合田イズム”を受け継いでいるという自覚はあるのでしょうか?

「もちろんありますよ。僕がバラエティー班に来たときは、合田さんは編成部に移っていたので直接仕事をしたことはないんですが、企画書がなかなか通らなくてうまくいかない時期に、『お前が好きなことをもう一度冷静に突き詰めて考えてみろ』って言ってくれたのが合田さんだったんです。僕が作った『クレイジージャーニー』の企画書を見て、これは面白いと最初に動いてくれたのも合田さんですし。合田さんがよく言うのは、幅広い層に支持されて高い視聴率を獲る番組は当然大事だけど、個性的で熱量があって、深く刺さるような番組も大事なんだと。その考えがあるから、僕ら現場の人間も頑張りがいがあるというか。高視聴率番組の『ぴったんこカン・カン』と分け隔てなく、『水曜日のダウンタウン』や『クレイジージャーニー』もちゃんと評価してくれるので、藤井さんも僕も、おのずとテンションが上がるし、その恩に報いたいという気持ちになる。そういう空気があるからこそ、TBSならではのバラエティーがいくつも生まれているんだと思います」

――では、横井さん企画の初レギュラー番組「クレイジージャーニー」について。これはやはり、松本人志さんと番組をやりたいというところから企画された番組なのでしょうか。

「ずっと松本さんの番組を考えてて企画を出しまくっていた中で、たまたま形になったのが『クレイジージャーニー』だったんですよ。僕は昔から旅行が好きで、いろんな国の文化の違いを楽しむような企画も考えたんですけど、松本さんは飛行機とかの長時間移動があんまり好きではないらしい、という話を聞いて。そこで、僕らが各国のディープな場所にロケに行って、そのVTRを松本さんに見せるのはどうだろうと思い付いたんです。松本さんが世界の現実を見たときに、絶対に面白い反応をしてくれるに違いない、と。そんな自分が好きなものを掛け合わせて生まれたのがこの番組です」

■ 笑えて知的好奇心を満たす番組を作るのが理想です

――松本さんとお仕事されてみて、いかがでしたか?

「松本さんという人は、笑いの天才でありながら、今でも笑いを作ることに対してものすごくストイック。『リンカーン』のときも、新企画を作る事前の打ち合わせをとても入念にされていて、バラエティー番組とは本来こうやって作っていくものなんだなと、すごく勉強になりました。驚いたのは、普段は非常に常識的な方だということ。発想力がぶっ飛んでいる芸人さんは他にもいらっしゃると思うんですけど、松本さんは、誰も思い付かないようなぶっ飛び方をするかと思うと、ちゃんとしてるときは、ものすごくちゃんとしている。これってある意味、人として一番クレイジーだと思うんですよね(笑)。

そういう意味では、設楽(統)さんも小池(栄子)さんも、MCは3人ともクレイジーかもしれません(笑)。設楽さんなんて、朝の情報番組の司会をやってるのに、バナナマンのコントライブで見せる顔は、狂気以外の何物でもないですから。普段は常識的なだけに、よけいすごいというか。常識と狂気を両方併せ持っている人はやっぱり最強だなと」

――番組を演出する上で心掛けていることは?

「ジャーニーの皆さんと各国の文化に対して、リスぺクトを持って接することですね。いい部分も悪い部分も。単なる物珍しい人、という紹介の仕方はしたくないし、例えば、スラム街とかでも、そうなる背景があるわけで、ただ『汚い』とか『ダメだ』ということではなく、なぜ汚くなってしまっているのかも含めて伝えるのが、僕らスタッフの仕事だと考えています」

――先ほど「自分の好きなことをうまく番組作りに生かしたい」とおっしゃっていましたが、横井さんが今、いつか番組にしたいと思っている“好きなこと”はありますか?

「日本の歴史が大好きなんですよ。休みがあれば、お城や合戦の跡地を見に行ってますし、家に帰って必ず見る番組は『歴史秘話ヒストリア』(NHK総合)で(笑)。ベタですけど、特に好きなのが織田信長。松本人志さんしかり、既存の常識をぶっ壊すヒーローに、僕ら凡人は憧れるわけですよ(笑)。その破天荒さも、実は緻密な計算に裏付けされていたりするところにもシビれますし。そういうワクワクをうまく企画にして、歴史に興味がない人でも楽しめる番組を作れないかと今、画策しているところです。男臭い番組になりがちですが、切り口を工夫して、歴史上こんなすごい事実があったんだという面白さを、なんとか表現できないかと思ってるんですけど」

――ネット配信などが増える中、テレビというメディアのこれからの可能性について、横井さんはどのように考えられていますか?

「それでも本当に面白ければ見ていただけると思うんです。サッカーに例えると、C.ロナウドやジダンはどのチームに移籍してもしっかり活躍してますよね。要するに、ネットがどうこうというのは言い訳にしかならないのではと。今だって『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)みたいに面白い番組はちゃんと20%を取ってるわけですから。僕らはもう、ひたすら純粋に面白いものを作るべく頑張る以外ないんじゃないかなと。

その意味では、ネットで検索するだけで、簡単にいろいろ知れたり、見れたりする時代ですけど、それを単なる情報としてではなく、うまくエンターテインメントと融合させて、笑えて知的好奇心を満たす、そんな番組を作るのが理想ですね」

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