本屋大賞ノミネート記念! “大泉洋主演”の超異色小説『騙し絵の牙』の魅力とは? 【筒井康隆×塩田武士対談】

本屋大賞ノミネート記念! “大泉洋主演”の超異色小説『騙し絵の牙』の魅力とは? 【筒井康隆×塩田武士対談】

本屋大賞ノミネートの『騙し絵の牙』著者塩田武士が筒井康隆とSP対談!

小説のジャンルとスタイルの改革者・筒井康隆氏。そして、出版界を舞台に、実在の俳優・大泉洋を“あてがき”した小説『騙し絵の牙』(KADOKAWA)を昨年8月31日に発表し、話題沸騰中の塩田武士氏。本作の“本屋大賞ノミネート”を記念して、筒井康隆氏×塩田武士氏、奇跡の作家対談をWEBザテレビジョンで再掲載。

■ 筒井康隆「僕ね、大泉君の大ファンなんですよ」

――お二人が初めて会ったのは、山田風太郎賞の選考会だと伺っています。

筒井 私は今、文学賞の選考委員を二つやっているんです。谷崎(潤一郎)賞ではその年の最先端の純文学を候補作として読んで、それから風太郎賞のほうでその年の最高のエンタメの作品を読んでいるんですが、去年の風太郎賞に推挙したのが塩田君の『罪の声』でした。

塩田 山田風太郎賞にノミネートされた時点でまず何が嬉しかったかというと、僕の小説を筒井先生に読んでいただけることだったんです。僕も先生と同じ関西の人間ですし、生まれた時からずっと「筒井康隆」という大きな存在を感じ続けて生きてきたので……。選考会のパーティーでお会いして「読みましたよ」と言ってくださった時は、感動に打ち震えました。さらにまた、新作までお読みいただけているというのはまったく想定外で。

筒井 前作以上の傑作ですよね。面白いし、巧い。(『騙し絵の牙』の表紙を指差して)これに騙されましたね。大泉(洋)君がいつ出てくるんだろう、いつ出てくるんだろうと思っていたら、なかなか出てこない。

塩田 そうですね(笑)。大泉さんを主人公・速水のモデルにしていますが、小説の中に「大泉洋」は出てこないです。ただ、出版界を含む日本のメディア産業の現在を描こうとした作品でもあるので、出てきてもおかしくなかったかもしれません。

筒井 メタフィクションなのかな、と思ったんですよ。大泉君に気を取られていたからね、まさかこういうどんでん返しがあるとは予測していなかった。

塩田 この企画自体は、もともと大泉さんと親しい編集者が持ってきた話なんです。「主人公に大泉洋を“あてがき”した小説を書きませんか?」と。当初から映像化を視野に入れた企画でもあったので、編集者やマネージャーさんの意見を聞いて、「どんな大泉洋が観たいか?」とみんなで話しながら作品を作っていったんです。

筒井 僕ね、大泉君の大ファンなんですよ。彼が出ている「真田丸」(NHK総合ほか)は全部観ました。コマーシャルに出ている時の、コミカルな演技も好きですね。

塩田 実は今回、大泉さんとも何度か打ち合わせをさせてもらったんです。そこではプロット上のアドバイスをいただいたんですね。大泉さんは「万人性」をテーマにされている方なので、多くの人に受け入れやすいものを意識してほしい、と。そこからプロットを立て直したおかげで、よりエンターテインメント性の高い作品を完成させることができたと思っています。

■ 塩田氏の原点は「漫才」そして「筒井作品」

筒井『騙し絵の牙』にはメタフィクション的なところがあるでしょう。僕の『大いなる助走』(1979年単行本刊)は出版業界をネタにした小説で、『巨船ベラス・レトラス』(2007年単行本刊)ではその当時までの状況を新たに総括したんだけれども、「それ以後」の状況の変化が『騙し絵の牙』に書かれている。

塩田 そう言っていただけると本当に嬉しいです。この本は完成まで4年かかっているんですが、その間はとにかく徹底的取材をしたんです。取材方法としては、実際にアポを取ってインタビューすることもありつつ、「『騙し絵の牙』を書いています」ということを一切黙って、出版業界に関するあれこれを相手から聞き出して、それをそのまま書くという非常にひどいこともしています。

筒井 僕の『大いなる助走』の時とおんなじだ。

一同 (笑)

――塩田さんは『騙し絵の牙』を執筆するうえで、『大いなる助走』の存在は意識されましたか?

塩田 これを書く前にもちろん、読み直しましたね。調べてみたら、僕が生まれるちょっと前に発表されているんですよ。

筒井 そうでしたか。

塩田 にもかかわらず今読んでも面白いし、いろいろと衝撃的で……。やはり僕は先生の笑いの部分に影響を受けたんだな、と感じました。僕は高校の時に事務所に入って漫才をしていまして、ずっと台本を書き続けていたんです。舞台の笑いを経験してきたんですが、活字による笑いはまたまったく違う。そこを筒井先生の作品を通して、ひたすら勉強してきたんです。

■ 「ジブリアニメ化」のデマで再ヒット

――30年前に発表された筒井さんの『旅のラゴス』(1986年単行本刊)の文庫版がここ最近、空前の大ヒットとなっています。「本はいつか、いつだって発見され得る」という事実は、出版業界の人々に勇気を与えたと思うのですが、ご自身はどのように分析されてらっしゃいますか?

筒井 あれはねえ、僕も最初はなんで売れ出したのか分からなかった。編集者に調べてもらったら、きっかけはtwitter なんですよ。「スタジオジブリが、『旅のラゴス』をアニメ化したいと言って筒井のところへやって来た。筒井はイヤだと言って断った」っていう、デマがtwitterで広まったんですね。そのデマを、書店でポップに立てた人がいるんだよ。それで売れ始めた。

塩田 えー!!

筒井 真相を知って、新潮社に「すぐスタジオジブリへ連絡してくれ」って。「あれはデマです、と伝えてくれ」と言っといた。でも、それから話はないんだよ。スタジオジブリがアニメ化してくれるなら、こっちは御の字なのにさ。

塩田 僕は今、フェイクニュースとかポストトゥルースについて自分なりに考えた、〈後報〉シリーズという連作を書いているんです(『小説現代』不定期連載中)。いや、まさかフェイクニュースでこんなに得をした方が出版界にいらっしゃるなんて!

筒井 僕はフェイクニュースとか炎上で、得ばっかりしてるよ。

一同 (笑)

■ 「助走」を見せることでワクワクさせる

塩田 筒井先生がかつておこなわれていたことを、形を変えて今やるとしたらどうなるだろうとたまに考えるんですよ。例えば『朝のガスパール』(1992年単行本刊)は、パソコン通信を通じて読者と?がり、読者の意見を小説に反映されていったじゃないですか。今は「親近感」と「透明性」に好感度が集まる時代だと個人的に思っているんですが、『朝のガスパール』はまさにそれでした。

筒井 今やるとしたら、twitter でしょうね。

塩田 そうですね。twitterと、Webメディアと。『朝のガスパール』とまったく同じことをやるのは難しいなと思うので、新作小説の創作過程を開放していったらどうだろうかと妄想しています。いわば「助走」の部分を見せることで、「どんな本になるんだろう? 本が出たら読んでみたい!」と。『騙し絵の牙』でも結局、自分は何を一番読者に提示したかったかというと、そういったワクワク感なんですよ。

筒井 それを実行するとしたらtwitter を利用して、まず炎上させなきゃダメですね。お手伝いしますよ?

一同 (笑)

――残念ながら、終了のお時間が来てしまいました。

塩田 炎上もそうですし断筆宣言も、何でも創作に反映させられる先生の強さは、僕の根本のところで心の支えになっています。今日は本当にありがとうございました。

筒井 いくら市場が縮小しようが、文の芸術としての小説というものは細々とながらもずっと残ると思いますよ。

塩田 たくさん勉強させていただきました!(ザテレビジョン・取材・文:吉田大助)

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