最優秀作品賞は「3年A組―」 福井雄太P『菅田将暉は“真面目で一生懸命”の権化』【ドラマアカデミー賞】

最優秀作品賞は「3年A組―」  福井雄太P『菅田将暉は“真面目で一生懸命”の権化』【ドラマアカデミー賞】

第100回ドラマアカデミー賞で最優秀作品賞を受賞したのは「3年A組―今から皆さんは、人質です―」

「3年A組―今から皆さんは、人質です―」(日本テレビ系)が「第100回ザテレビジョン・ドラマアカデミー賞」で最優秀作品賞を始め、主演男優賞、助演女優賞、監督賞、脚本賞の5部門を制覇。「熱量の高さに圧倒された」「この時代に道徳を説くドラマが支持された」「SNSが真犯人という、現代に問いを投げかけた意欲作」と評価された。スタッフ、キャスト共に若いチームを率いた日本テレビの福井雄太プロデューサーに、このドラマに懸けた思いを語ってもらった。

■ 若いキャスト・スタッフで作り上げた「今しかできない作品」

――作品賞を受賞されたご感想をお聞かせください。

作品賞と5部門獲得ということで、本当にうれしく思っています。放送時からたくさんの人に後押ししていただいた感触があって、こうして受賞できたことで、やってきた証になりました。スタッフとキャスト全員、この物語を生み出してくれた脚本の武藤将吾さんに感謝しています。

――監督賞を受賞された3人も福井さんの同期と後輩で30代前半。スタッフ・キャストともに若い世代のチームだったわけですね。

そうですね。ただ、気を付けたのは、僕は現役の高校生から見たら30歳過ぎのおっさんであるということ。今の10代のことを分かると思って作ったら痛い目にあったでしょうね。そのぐらい今の若い子は頭が良いし、最新のコミュニケーションツールを使いこなしている。そんな若い人たちに伝えたいことを上から目線でなく共有していけたらいいなと考えました。

そして、結果的にですが、『まだ10代のことが理解できるんじゃないか。いや、おじさんとして伝えたいことを言うべきじゃないか』と葛藤しながら作ったことで、僕にとっても今しかできない作品になったのではと思います。

■ 「『本当は言いたい。本当は聞きたい』気持ちを表現するのがフィクション」

――主人公の一颯(菅田将暉)のセリフ、「悪意にまみれたナイフで汚れなき弱者を傷つけないように変わるんだよ」という言葉が印象的でした。

局内でもよく「お前の作るドラマは説教くさいな」と言われるんですが(笑)、今回もそうだったと思います。そんな強い思いが上滑りしてしまうか、『Let's think』(考えよう)というメッセージを受け取ってくれるかで、ドラマの価値が全然違ってきますから、見た人がその思いをキャッチしてくださったのが本当にありがたい。

もちろん、普段のつきあいで一颯のように説教をしたら嫌がられるけど、人間にはどこかで『本当は言いたい。本当は聞きたい』という気持ちもあるはず。それをまっすぐに表現するのがフィクションの役割だと思っています。最終回で一颯が言う「誰かひとりにでも伝わればいい」という言葉のとおり、一撃で大きな変化を起こすのは不可能だけれど、「涓滴(けんてき)岩を穿つ」というように、何かを変えるきっかけになることはできるんじゃないか。そういう気持ちでした。

――その訴えの動機を、SNSのバッシングに追い詰められて自殺した澪奈(上白石萌歌)という題材にしたのはなぜでしょうか。

もともと、社会的な事件からダイレクトに影響を受けてドラマを作るタイプではないのですが、考えるきっかけはありました。脚本の武藤将吾さんと「今の子たちって、こういうことに悩んでいるよね」というディスカッションをし、「僕にもいろいろ思うところがあるんです」と話しているうちに、SNSによって苦しめられる澪奈という人物ができました。

ただSNSだけではなく、劇中では同級生たちが「俺たちは悪くない」と思ってやっていたことも澪奈を追い詰めていたわけです。無自覚に誰かを苦しめている人に気付きを持ってほしいなという思いがあり、他人の心の痛みを想像する感覚が薄れてきてしまっていることへの寂しさというか、それを訴えたかったところはあります。

――架空のSNS「マインドボイス」はどうやって作り出したのでしょうか。

投稿内容のテキストは助監督たちが作ってくれました。最初の段階では、僕がそれをチェックして「SNSではこんな言い方しないよ」とダメ出ししたり、「いや、逆に今だから使うか」とOKしたりしました。というのも、僕にはネット民なところがあって(笑)、リアリティーを追求したかったんです。

ただ、マインドボイスがリアルに見えたのは、演出の勝利だと思います。台本に書いてあることをビジュアル化するとき、既存のSNSに似すぎてもいけないし離れすぎていてもいけない。さらに、ユーザーたちが事件を対岸の火事として楽しんじゃっているように見せるのは難しいと思いました。だから、小室Dが第1話で東京の街をコメントが覆い尽くす場面を作り上げたとき、すばらしい発想だと思いました。現実のSNSでは完成したテキストが投稿されるけれど、1文字ずつ出てくることで、ユーザーが今まさに発信しているという感じが出ていましたね。

■ “魂の人”菅田の演技に「リハーサルの段階で普通に泣いちゃいました」

――主演男優賞を獲得した菅田将暉さんについてはいかがでしたか。

菅田くんとは以前から個人的にも付き合いがあって、もちろん表現者としてリスペクトをしています。彼は“魂の人”だと思うので、そういう役をやってほしいということで、一颯という命懸けで生徒にメッセージを伝える教師のキャラクターができました。

そして、いざ撮影が始まると…もうリハーサルの段階で普通に泣いちゃいましたね。彼が演じて見せてくれるものにも泣けるし、菅田将暉という人物がここまで表現をするんだということへの感動があって、「これをあと10回見られるんだ」と思うとワクワクしました。ドラマを作るパートナーとして彼以上に頼もしい人はいないですよ。

――菅田さん演じる一颯が爆弾を使って生徒を教室に閉じ込めるが実は…というトリッキーな作りのドラマでもありましたよね。

企画段階から「菅田将暉が教師をやる」という時点で普通の教師ではないなと思いました。第1話の時点ではまだ一颯が何をするつもりか分からないから、その言動にめちゃくちゃ違和感があるんですよね。見ている人は「生徒を人質に取っているのに『変わってくれよ』なんて、何言っているんだ」と思ったでしょう。菅田くんと話し合っていたのは、やっぱり一颯は生徒に対してすごく愛情を持っているということ。それを感じさせてくれる芝居をしてくれました。間違いなく、菅田将暉という役者の腕力で成立していたキャラクターで、彼でなければできなかったですよね。

――菅田さんの主演男優賞のインタビューでは、病で弱っていく一颯を体現するため10キロほど体重を落としたということでした。

それはこちらからはひと言もお願いしていなくて、菅田くんが役者としてやってくれたことですね。病気でなければ一颯はこんなことはしなかっただろうし、彼が最後にどう命を燃やすのかというテーマに沿って、自分を追い込んでくれたんだと思います。今回、生徒役のオーディションでも、真面目で一生懸命な人ということを重視して選んだのですが、それがダサいとされる世の中でも、最後に勝つのはそういう人だと思っているんです。そして、“真面目で一生懸命”の権化が菅田将暉なんです。

■ 「見る人の共感を呼ぶ“とっかかり”を作ってくれたのは永野芽郁」

――最終回、屋上で一颯が最後の授業を行なった後、警察に連行されるというラストになったのはなぜですか。

そもそも脚本の武藤さんが、教師がSNSの声とリアルタイムで議論するというゴールを考えてくれ、それは面白いというのがそもそもの企画でもあったので、第1話からそこに向かってドラマを展開していきました。

その後、一颯が屋上で手錠をかけられ、生徒たちが「先生!」と悲しい顔で見送る。その後、連行されていくシーンは、最初はいらないんじゃないかとも思ったんですよ。蛇足にならないために、生徒役のキャストに「君たちが先生を求めているのは屋上までで終了です。地上に降りてきたときは、僕たちはもう大丈夫だからねという顔を見せてください」とお願いしました。

それで、生徒たちも本当に良い表情になって、一颯からもそう言われるし「卒業おめでとう」とも言ってもらえる。そのときの一颯もすごく良くて、手錠をかけられている人間の笑顔が取れると思わなかったので、そこでも菅田将暉はさすがだなと思いました。

――助演女優賞を受賞した永野芽郁さんはいかがでしたか?

このドラマの難しいところは、一颯がいくら正しいことを言っても、監禁しているわけですから法的には犯罪者じゃないですか。それでも先生が正しいと思えるのは“さくら”(永野)がいるから。さくらが心の底から信じている人を見る目で一颯を見ているから、自然と「それでいいんだ」ということになるんですよね。

さくらを永野さんではなく、違う人がやっていたら、一颯の言葉があそこまで浸透したのかなと考えると、見る人の共感を呼ぶ数センチの“とっかかり”を作ってくれたのは、間違いなく永野芽郁。僕としては感謝しかないですね。

■ 「ダメだとされていることを全部集めた」異色の作品作り

――キャリア10年目の福井さんにとっても今作は一つの到達点ということになりますか?

脚本の武藤さんも「自分の世界を自分で勝手に閉じ込めていた」と言っていたんですが、僕も含めてテレビマンにはある種のタブーがあるんですね。「学園ドラマは当たらない」とか「年齢が上の人に見てもらわないと視聴率が…」と考えてしまったり、「1話完結で見やすいものを」「原作があって、店構えがわかりやすいものを」と求められる傾向があった。それを今回は全部、裏返したわけです。

「3年A組―」は学園ものであり、若い人に向けたもの。原作なしのオリジナルだし、連続して見ないと展開が分かりにくい。ダメだとされていることを全部集めて、ダメじゃないと証明しに行きました。プロデューサーである僕としても存在の証明が懸かっていて、「これが失敗したら辞めよう。たぶんドラマ作りに向いてないんだ」とまで思っていました。

同時に、6年越しの念願として一緒に組むことができて、民放GP帯の連続ドラマ単独初主演という場を預からせてもらった菅田将暉を不幸にしたくないという気持ちも強くありました。だから、本当に覚悟を決めるタイミングだったんだと思いますね。

――旋風を巻き起こした「3年A組―」を経て、今後はどんなドラマを作ろうと思っていますか?

今回はキャストとスタッフ、みんなの力を借りてひとつの財産になる作品をやらせていただいたのですが、ダサいやつにはなりたくないというか、10年経っても「俺、『3年A組―』を作ったんだ」と言っていたくはない。だから、また別の面白いドラマを作りたいなと思います。

本当に今回は、SNSでの反応や直接のお便りをいただいて、街角でも「3年A組―」のことを話しているのが聞こえてきました。「つまらない」「面白い」のどちらでもいいけれど、とにかく声を出してもらえる作品で、寂しい思いをせずにドラマを作れました。ただ逆に。反応がなくて寂しい気持ちになってしまう場合も自己責任なわけで…(笑)、やっぱり毎回ラストダンスというか、覚悟を持ってやらなきゃいけないんだなと実感しましたね。その意味では、今後も「3年A組―」のように寂しい思いをしないドラマを作っていきたいと思います。(ザテレビジョン・取材・文=小田慶子)

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