<いだてん>金づちだった大東駿介、水泳選手を熱演し「脳より体の方が信頼できる」

<いだてん>金づちだった大東駿介、水泳選手を熱演し「脳より体の方が信頼できる」

日本水泳界初の金メダリスト役として、見事な泳ぎを披露している大東駿介

宮藤官九郎が脚本を務める大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」(毎週日曜夜8:00-8:45ほか、NHK総合ほか)。

日本とオリンピックの歴史を描く本作では、水泳をこよなく愛する新聞記者・田畑政治(阿部サダヲ)を主人公とした第2部を放送中。現在は、そんな田畑が水泳日本代表チームの総監督となり、1932年のロサンゼルスオリンピックに挑む物語を展開している。

田畑率いる水泳チームの一人で薩摩隼人の水泳選手・鶴田義行を演じているのは大東駿介。鶴田は1928年のアムステルダムオリンピックで日本水泳界に初の金メダルをもたらした選手だ。

演じる大東は、放送では見事な泳ぎを見せているが、もとは全く泳げない“金づち”だったという。「この役を演じたことで、できないことってないんじゃないかと思えるようになりました」と語る大東に、出演を引き受けるまでの気持ちや、作品にかける思いを語ってもらった。

■ 意外と体が解決してくれることはあるんだなと実感できた

――今回、金メダリストを演じる上でどんな役作りをされたんでしょうか。

実際に写真が残っている時代劇は初めてだったので、せっかくなのでというか、鶴田選手の写真に近づけることを目標にしました。でもそれは別に役作りとかじゃなくて、自分が作品に携わるモチベーションとして、やれるところまでやってみようという思いでやったことです。役作りっていう言葉、あんまり好きじゃないんです。

あと、僕は泳げなかったので。本当に金づちで(笑)。ディレクター陣も「まぁ大丈夫だよ」と言ってくれてたんですけど、最初の水泳練習の時に全く前に進まない僕の平泳ぎを見て、顔を見合わせてましたね。

「なんでオファー受けたの?」って思う人もいるかもしれませんが、できると思ったんです。僕が自分の可能性を信じて、「やってやろう!」という気持ちが誰にも負けへんかったら、オリンピック選手として立っていいんじゃないかなぁと思ったんですよね。

だから、NHKから水泳練習の時間を用意してもらってたんですけど、その3倍は個人的な練習を先生にお願いして、その時間もやっぱり鶴田選手を演じる上での後押しにもなりました。

これは役者としてだけじゃないんですけど、個人的にこの役を演じたことで、できないことってないんじゃないかと思えるようになりました。苦手意識から脳で「出来ない」って思ってることって、意外と体が解決してくれることはあるんだなと実感できたんです。

僕は学生時代、「俺は別に水泳もできないし、球技もできないし」とかよく言ってたんです。でも、今は「とりあえず一カ月ください!」っていう気持ちです。どんなものでも一カ月あったらスタートラインには立てると思います。

今回は、自分の人生において、かなり幅が広がった演劇体験をさせてもらってるなっていう印象です。

■ 失敗を恐れる選択をしたくないなぁ

――全く泳げなかったところからのスタートとは思えない泳ぎを披露されていますが、演じるには苦労が多かったでしょうし、役を引き受けたということも、かなりの決断に思えます。

ちょっと前の自分やったら、もちろん大河ドラマに出させてもらうことは光栄やけど、責任があるぶん、鶴田選手を演じるのは水泳できる人の方がいいんじゃないかって思ったかもしれないです。

でも、僕が初めて出演した大河ドラマ「平清盛」(2012年)で、中井貴一さんとご一緒させてもらった時に、「大河ドラマっていうのは役者人生のターニングポイントに訪れる」と言われたことを思い出して。

それは僕が25歳の時だったんですけど、貴一さんも25歳の時に初めて大河ドラマに出ていて、僕と共演したときは50歳だったんです。だから、初出演から25年を経て、25歳で初めて大河に出演する人の親父役をやってるということがすごく感慨深いっていう話をしていただいて。

僕にとって「いだてん」は、役者人生のターニングポイントにただ訪れてきたわけじゃなく、意識的に何か一本旗をさすような気持ちで臨みたいなって思ったんです。だからこそ、「泳ぎができないからやらない」って言いたくなかった。

今って、失敗にとても厳しい時代だと思うんですが、時代は失敗が築いてきたんじゃないかなと思うんです。だから、自分は失敗を恐れる選択をしたくないなぁと思ってます。

泳げないままで、増量失敗してガリガリで、お腹とか壊して現場に臨むことになってしまったらどうしよう…っていう不安はもちろんありました(笑)。でもこのドラマは、オリンピックへの挑戦を題材にしていますから。特にそういう挑戦を受け入れてやってみようと思いました。

――水泳はどれくらい練習されたんですか?

自分の性質上、練習している最中じゃなくて、練習終わったあとのほうが身になると思ったので、先生をつけて個人練習して、その後にみんなと練習して、またそのあとに一人でプールに行って復習するみたいな感じでした。

なんかすごい真面目なやつみたいに思うけど、別にそんなことないんですよ。

ほんま最初は恥ずかしいんですよ。「こいつ、いつまで前に進めへんねやろ」って見られてるの分かってしまうので。でも、どこかで「見とけよ、絶対変わるから」ってほくそ笑んでる自分もいて。そしたら本当に練習を始めて2カ月後くらいから進むようになって、みんなと競争できるくらいになってきて…体、信頼できるなと思いましたね。脳より体の方が意外と信頼できるというか。

結構泳ぎましたね。本当に水怖かったですからね。ゴーグルもないので、水の中で目を開けるのなんか恐怖でした。

飛び込み練習とかは水が怖くなくなったあとだったので、すんなり進んでいったんですけど、水泳をやる前は「飛び込みってあんなもん人のするもんじゃない」と思ってましたよ! 

でも、やってみたら本当に面白かったですね。最初は飛び込みもへたくそやったんで、水にビンタされるような感じやったんですけど、途中からとても上質な羽毛布団に入るかのように感じるようになりました(笑)。

――共演者の方々からも、「大東さんの筋肉は本当にすごい」という声が挙がっていますが、トレーニングはどんなふうにしていったんですか?

クランクインする前は夜中にステーキ食べたり、ご飯も2、3号食べたり、一日7食くらいにして、食事をとにかく過剰にとってました。もともと食べるのは好きだったので、意外と苦じゃなかったです。それで一回増量して、ウエイトトレーニングですね。

こういう話も恥ずかしくて嫌なんですけど、週7でジムに行ってましたね。でも、そういう鍛え方はあんまり良くないそうです。ちょっとバカなんですね(笑)。本当に自分は単純で得したなと思った期間でした。

結果的にタンクトップのシーンがすごく増えて、メークさんも僕の体をオイリーにしてくれて(笑)…モニター見て、「大東君、テカってない?」って言われるほど。

そこまで体大きくできたっていうのは、別に筋肉が好きなわけじゃないんですけど、うれしかったですね。鶴田さんのところまでちょっとは近づけたかな、おこがましいですけど。

■ 本当に素晴らしい作品に携わらせてもらっていると感じていました

――水泳チームの皆さんはすごく仲良かったそうですが、現場の雰囲気はいかがでしたか?

体動かすことってアドレナリンがちょっと出てるから、みんながみんな前向きに進みますよ。それに、目に見えて頑張ってる人たちのことを誰も否定しないから、とてもいい現場だったなと思いましたね。

あと、第2部なので積み重ねてきたもののバトンを受け取ったという責任もあったように思います。

話しがちょっとずれちゃうんですけど、監督とお食事しているときに、「このドラマはみんなが失敗していくんだ。主人公は挫折したり失敗していくけど、それでも進んでいくんだ」というお話をしていて。僕は、それがすごく今の日本に欲しいものだと思ったんです。

田畑さんも、「日本に明るいニュースを」っていう思いで血眼になっていますし。それでも、失敗してしまう。その失敗が先の日本に残した功績っていうのは大きいから、この作品が僕は大好きなんです。

大河ドラマって日本の歴史、ロマンです。それを自分たちが噛み締めて、進めるという最高な舞台だと思っているので、まさにそれを実感しながら撮影できて…うん、楽しかったな。

本当に素晴らしい作品に携わらせてもらっていると感じていました。

――若くて勢いのある小池(前田旺志郎)の練習台と言われた鶴田と、同じく選手としてのピークを過ぎたと言われていた高石(斎藤工)の会話のシーンには、グッと来るものがありました。

僕も順風満帆ではないし、敗北を感じたこと、悔しい思いをしてきたこともいっぱいあって、でもくさったことってなかったんですよね。

僕の人生を思い返してみると、失敗して得たことの方がたくさんあって。人に優しくできていることも、自分が失敗したときに大笑いされて辛い思いしたり、敗北を感じたとき、他にそういうやつがいたら、絶対僕と同じ思いさせたくないなって思ったからだったり。

まさに今回、鶴田さん、高石さんに、改めて考えさせられたというか。

敗北や辛い経験は、のちの誰かのためになるんじゃないかと思うんです。現に鶴田さんと高石さんは諦めなかったですしね。

――水泳チームを率いる田畑を演じている、阿部さんにはどんな印象を受けましたか?

阿部さんはシャイな方なので、あまりコミュニケーション取らないんですけど、僕は阿部さんがすべてを作ってくれてるなって実感はありましたね。主役の器を見ました。

何を感じたかって、まず大河ドラマでこの芝居すんねやっていう。(皆川)猿時さんもそうですけど、見たことなかったんですよ、こんな勢いのある芝居。そこに、新しい時代を感じました。

何でもやっていいんやって阿部さんの演技を見て感じましたし、“らしく”やらなきゃいけないとかっていう余計な足かせを排除して、好きなことをやれる準備をしておいてくれたように思います。

あのせりふ回しってすごいですよね。あの速度で、あれだけ聞き取りやすくて、思いも乗っかってて、あの演技に背中を押された部分はあります。

めちゃくちゃ考えるタイプの人やと思うんですけど、現場では「俺何も考えてないよ」って懐を広げといて、付け入る隙を与えてくれてるという感じもあって、すごいです。

調子乗って、水泳チームのみんなで宅配ピザを山ほどとって、請求書だけ阿部さんに渡したりもしたんですけど、「全然いいよ、全然いいよ」って言ってくださったんです(笑)。いろんな懐の広さを感じましたね。めちゃくちゃ楽しかったです!

こんなほめてばっかりいたら気持ち悪いですけどね、でもほんまにそう思いますね。

■ ロス五輪のシーンは「夢のような時間やったな」

――さまざまな苦労を乗り越えて、オリンピック2大会連続の金メダル獲得という大記録を達成するロサンゼルスオリンピックのシーンを撮影したときの心境を教えてください。

プールを貸し出してくれた大学の方が、僕の泳ぎを見て、「本当にあの時代の泳ぎをしている」って言ってくださったんですよ。その言葉に感動して、あの(ロス五輪の)クライマックスのシーンは胸を張って泳げたと思います。

映像で誤魔化してほしいという気持ちはなく、自分がここまでやってきたことに自信を持ってやろうっていう気持ちになれたんです。

ロス五輪のシーンについては、よく水泳のメンバーとも話すんですけど、「夢のような時間やったな」って。(ロス五輪の最後の日本水泳チームで披露する)エキシビジョンの撮影の日、めちゃくちゃ寒くて。本当に死ぬんちゃうかなってくらい。僕ら日本泳法とか練習してきて、集大成やのに、水の中入った時に寒すぎて手足いっこも動かなくて…。

そんな過酷な状況の撮影だったんですけど、オリンピックの舞台を撮影しているということが、本当に夢のような時間でしたね。

(演出の)大根(仁)さんがドローンで水泳の撮影をしていたところを、撮影を止めて泳いでいた僕らを呼んで、「ちょっと見てみな」って撮ったばかりのドローンの映像を見せてくれたんですよ。

それが、かっこよく撮っていただいたんですよね、本当に。「これをDVDにして持ち歩きなさい」って言われました。一生もんだからみんなに見せなさいって。とても希望的で愛のある座組で撮影できたなと思いましたね。(ザテレビジョン)

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