鼻につくインタビューも貴重な個性……発売日を迎えても発売されない音楽専科社「Pick-up Voice」の思い出

鼻につくインタビューも貴重な個性……発売日を迎えても発売されない音楽専科社「Pick-up Voice」の思い出

株式会社音楽専科社公式サイトより。

 9月20日、帝国データバンクの倒産速報記事にアップされた記事によると、「株式会社音楽専科社」が9月20日付けで事業を停止し、自己破産申請の準備に入っているとのこと。負債は約4億円だという。 音楽専科社と言えば、音楽誌「SHOXX」を発刊する出版社であり、「ヴィジュアル系」という言葉を定着させた功労者だ。そして何よりも、当サイトの声優誌レビューでもお馴染みの「Pick-up Voice」を発刊する出版社でもある。

 事業停止の発表に先んじて、音楽専科社の公式ツイッターをはじめ、「Pick-up Voice」など同社各媒体の公式ツイッターも9月15、16日を最後に沈黙(9月27日現在)。そして、何のアナウンスもないまま、「Pick-up Voice」11月号の発売日であった9月26日を迎えるが、同誌が書店に並ぶことはなかった。

 発売日当日、大手書店の店員に話を聞いてみたところ、「現時点で『Pick-up Voice』11月号は届いておらず、今後入荷があるかどうかも分からない」との回答が。同誌10月号の次号予告では、11月号は宮野真守が2年7ヵ月振りに単独表紙を飾ることになっていたが、このまま刊行されずに廃刊となってしまうのだろうか(Amazonなどでも“品切れ”となっている)……。

 同誌の存続については、9月27日現在では明らかになっていない。しかし“音楽専科社「Pick-up Voice」”の歴史は、ひとまずここで終止符を打つことになる可能性が高いだろう。そこで、約2年半にわたって同誌を追いかけてきたことでもあるし、簡単ではあるが「Pick-up Voice」の思い出を振り返ってみたい。

 そもそも「Pick-up Voice」は2007年に創刊し、翌年に「hm3 SPECIAL」を統合する形で月刊化された。声優専門誌は各社から発行されているが、現在、月刊誌として続いているのは「声優グランプリ」「声優アニメディア」と、この「Pick-up Voice」の3誌だけである(隔月、季刊誌は複数あり)。

「Pick-up Voice」の特徴は、何と言っても音楽誌を主力とする音楽専科社ならではの切り口だったと思う。ライター陣も音楽に造詣が深かったのだろう、音楽専門用語が平然と飛び交うインタビュー記事は、ほかの声優誌とは一線を画していた。

 当レビューでも、その専門用語をネタにしたことがたびたびあった。たとえば、2014年9月号では「アッパーでワクワク」「キレイなファルセット」「サウンドがカラフル」「コンセプチュアルな一枚」など、インタビュアーから次々と繰り出される“こなれた感”に対し、皮肉めいた指摘をしたこともある。ただ、こうした特徴は“似たり寄ったりになりがちな声優総合誌”のなかでも、ひときわ異彩を放つ「Pick-up Voice」独自のカラーでもあった。

 良くも悪くも多くの声優誌は、アイドル声優を全面に押し出した“ミーハー感”が強く、グラビアページにもキャッチを多用する傾向が見られた。しかし、「Pick-up Voice」のグラビアページは、余計なキャッチを用いないほか、ノンブル(ページ番号)も入れず、徹底して写真だけを見せる構成にこだわっていた(近年、「声優アニメディア」はキャッチを入れないグラビアページを増やしているが)。

 一方で、水樹奈々のインタビューでは必ずと言っていいほど阪神タイガースネタが登場したり(しかも唐突に)、Kiramuneをはじめとした男性声優陣の多用、連載ページを極力抑えてひとりひとりを掘り下げる少数精鋭方式……など、声優誌のなかでもしっかりと差別化されていたのが「Pick-up Voice」だった。

 それだけに、今回の出版社破産は非常に残念なニュースだ。同社の破産について、帝国データバンクは記事内で「ネットやスマホといった新たな情報媒体の台頭が財務面を苦しめた」と分析しており、事実、音楽専科社はほかの出版社と比べてもWEBメディアへの対応が後手に回っていたと言わざるを得ない。

 ライバル誌である「声優グランプリ」は「声グラWEB」、「声優アニメディア」は姉妹誌を含む「超!アニメディア」など、ネットユーザーを意識したサイトを運営していたが、「Pick-up Voice」にはそういったコンテンツがなかったのも悔やまれる。

 とは言え、これで「Pick-up Voice」が完全終了というのはあまりに惜しい。どこかの出版社が編集部ごと吸収、編集部が独自に新規WEBサイトを立ち上げる……など、何らかの形で存続してくれることを願ってやまない。
(文/神楽坂隆)

関連記事(外部サイト)