追悼 田中邦衛さん〜“五郎さん”も“青大将”も永遠に……

【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第987回】

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。

4月2日、田中邦衛さんの訃報が伝えられました。

加山雄三主演の映画『若大将』シリーズ、故高倉健さん主演の『網走番外地』シリーズや『仁義なき戦い』シリーズなど、数々の作品で存在感あるキャラクターを演じて親しまれて来た、昭和を代表する名優の死は日本国内にとどまらず、台湾、香港、中国などアジア各国でも速報で伝えられ、多くの人に驚きと深い悲しみをもたらしています。

そこで今回は、近年の映画出演作とともに、田中邦衛さんの俳優人生を振り返ります。

俳優・田中邦衛 フジテレビ系ドラマ「北の国から2002 遺言」出演=2002年8月29日 写真提供:産経新聞社

『みんなのいえ』『福耳』〜温かな笑いが心に沁み入るコメディ映画

田中邦衛さんと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、何と言ってもドラマ「北の国から」。北海道富良野の雄大な自然を背景に、主人公・黒板五郎と子どもたちの生き様を21年にわたって描いた連続ドラマの金字塔です。

不器用ながらも、大自然のなかで息子・純と娘・蛍の成長を温かく見守る、その朴訥とした父親像は日本中を感動で包み込み、黒板五郎役は田中さんの“当たり役”のひとつとなりました。

そんな不器用ながらも人情味がある“五郎さん”を彷彿させる好演で印象的だったのが、映画『みんなのいえ』。三谷幸喜監督が自らの家造り体験をもとに、次から次へと起こるドタバタ騒動をコミカルに綴ったコメディ映画です。

新進気鋭のインテリア・デザイナー(唐沢寿明)と、妻の父親で頑固な大工(田中邦衛)。性格も仕事に対するポリシーもまるで正反対の2人が繰り広げる丁々発止のやり取りが実に滑稽で、経験に技に熟練している棟梁の姿を通じて、俳優・田中邦衛の演技巧者ぶりも楽しめます。

本作の制作当時、三谷幸喜監督にインタビューさせていただいたとき、「邦衛さん演じるお父さんは『若大将』シリーズの青大将をイメージした」とおっしゃっていたのを記憶していますが、一生懸命ゆえの可笑しさが滲み出るチャーミングな役どころは、田中邦衛さんの得意とするところでした。

※写真は『福耳』より 画像提供:アルゴ・ピクチャーズ

『福耳』〜田中邦衛さんの優しい演技に魅了される、隠れた名作

田中邦衛さんの出演作のなかでも“隠れた名作”とも言えるのが、『福耳』。

高齢者の豊かな人生をテーマに、ひとりの青年とこの世に悔いを残して幽霊となってしまった老人との交流をユーモラスに描いたファンタジック・コメディです。

田中さんが演じたのは、生前好きだった女性のことが諦めきれず、主人公の体に乗り移って想いを遂げようとする老人・藤原富士郎。本作が映画初主演となった宮藤官九郎との息の合った芝居が痛快で、劇中でみせるペアルック(現代風に言うとペアコーデ!?)も愛嬌たっぷり。

“目に見えないものを信じる大切さ”を教えてくれる映画だけに、田中さんがお亡くなりになったいまこそ観て欲しい1作です。

※写真は『隠し剣 鬼の爪』より (C) 2004 松竹/日本テレビ/住友商事/博報堂DYメディアパートナーズ/日販/衛星劇場

『最後の忠臣蔵』『隠し剣 鬼の爪』〜名匠に愛された名優

名匠と呼ばれる演出家から愛され、バイプレーヤーとして輝きを放っていた田中邦衛さん。『男はつらいよ』シリーズや『学校』シリーズで知られる山田洋次監督の作品にも数多く出演。

山田洋次監督による藤沢周平3部作のひとつ『隠し剣 鬼の爪』では、主人公の叔父・片桐勘兵衛役でわずかな出演シーンながらも貫禄ある演技を披露。また『学校』では、夜間中学に通う生徒・イノさんを熱演し、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞しました。

※写真は『最後の忠臣蔵』より (C)「最後の忠臣蔵」製作委員会

そして、タイトルどおり“最後の”出演作となった『最後の忠臣蔵』。

赤穂浪士の吉良邸討ち入り事件で生き残ったふたりの武士のその後を描いた本作では、赤穂旧家臣の奥野将監を演じ、武士の矜持を体現。作品に重厚感を与える名演をみせています。

その後、田中邦衛さんは表舞台から遠ざかり、残念ながらこれが遺作となってしまいました。しかし、メガホンを取ったのが「北の国から」の杉田成道監督であることを思うと、この『最後の忠臣蔵』という作品から、田中さんと杉田監督との言い知れぬ縁を感じる人も多いのではないでしょうか。

改めまして、田中邦衛さんのご冥福をお祈り申し上げます。

■みんなのいえ(2001年公開)

Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中

出演:唐沢寿明、田中邦衛、田中直樹、八木亜希子、伊原剛志、白井晃、八名信夫、野際陽子、清水ミチコ、中井貴一
脚本・監督:三谷幸喜
音楽:服部隆之
製作:宮内正喜、高井英幸
企画:石丸省一郎、島谷能成
エグゼクティブプロデューサー:石原隆、増田久雄
プロデューサー:佐倉寛二郎 空閑由美子、重岡由美子
撮影監督:高間賢治(J.S.C.)
照明:上保正道
録音:瀬川徹夫
美術:小川富美夫
編集:上野聡一
助監督:酒井直人
演出補:白井美和子
アソシエイトプロデューサー:臼井正明
製作担当:久家豊
スクリプター:杉山昌子
音響効果:倉橋静男
ミュージックエディター:浅梨なおこ
スーツアクター:永田朋裕、岡野弘之
現像:IMAGICA
製作協力:プルミエ・インターナショナル、クロスメディア
製作:フジテレビ、東宝
配給:東宝

Amazon Prime Videoにて配信中
https://www.amazon.co.jp/dp/B00H91LO8A/

※写真は『福耳』より 画像提供:アルゴ・ピクチャーズ

■福耳(2003年公開)

デジタル配信中

出演:宮藤官九郎、田中邦衛、司葉子、高野志穂
監督:瀧川治水
脚本:冨川元文
画像提供:アルゴ・ピクチャーズ

■学校(1993年公開)

DVDリリース デジタル配信中

出演:西田敏行、竹下景子、萩原聖人、中江有里、裕木奈江、田中邦衛
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、朝間義隆
撮影:高羽哲夫、長沼六男
音楽:冨田勲
配給:松竹

※写真は『隠し剣 鬼の爪』より (C) 2004 松竹/日本テレビ/住友商事/博報堂DYメディアパートナーズ/日販/衛星劇場

■隠し剣 鬼の爪(2004年公開)

Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中
Blu-ray:5170円(税込)/DVD:4180円(税込)
発売・販売元:松竹
(C) 2004 松竹/日本テレビ/住友商事/博報堂DYメディアパートナーズ/日販/衛星劇場

出演:永瀬正敏、松たか子、吉岡秀隆、小澤征悦、田畑智子、高島礼子、田中邦衛、倍賞千恵子、田中泯、小林稔侍、緒形拳
監督:山田洋次
プロデューサー:深澤宏、山本一郎
原作:藤沢周平「隠し剣鬼ノ爪」「雪明かり」
脚本:山田洋次、朝間義隆
撮影:長沼六男
美術:出川三男
音楽:冨田勲
照明:中岡源権
録音:岸田和美
編集:石井巌
衣裳:黒澤和子
音楽プロデューサー:小野寺重之
ラインプロデューサー:斉藤朋彦
スチール:金田正
監督助手:花輪金一
製作主任:相場貴和、井汲泰之
製作担当:峰順一
美術監修:西岡善信
製作協力:松竹京都映画株式会社、映像京都株式会社
配給:松竹

Amazon Prime Videoにて配信中
https://www.amazon.co.jp/dp/B00FW5SW1M/

※写真は『最後の忠臣蔵』より (C)「最後の忠臣蔵」製作委員会

■最後の忠臣蔵(2010年公開)

Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中

出演:役所広司、佐藤浩市、桜庭ななみ、山本耕史、風吹ジュン、田中邦衛、伊武雅刀、笈田ヨシ、安田成美、片岡仁左衛門(特別出演)
監督:杉田成道
原作:池宮彰一郎『最後の忠臣蔵』(角川文庫刊)
脚本 :田中陽造
音楽:加古隆 サウンドトラック(avex-classics)
撮影監督:長沼六男
美術監督:西岡善信
美術:原田哲男
照明:宮西孝明
録音:中路豊隆
整音:瀬川徹夫
音響効果:柴崎憲治
編集:長田千鶴子
衣装デザイナー:黒澤和子
装飾:中込秀志
スクリプター:中田秀子
殺陣:宇仁貫三
題字:柿沼康二
パブリシティ:ファントム・フィルム
現像:東京現像所
製作総指揮:ウィリアム・アイアトン
スーパーバイザー:角川歴彦、成田豊
製作:小岩井宏悦、服部洋、椎名保、酒井彰、名越康晃、井上伸一郎、喜多埜裕明、川崎代治、大橋善光
企画:鍋島壽夫
プロデューサー:野村敏哉、岡田渉、宮川朋之
製作:「最後の忠臣蔵」製作委員会(ワーナー・ブラザース映画、電通、角川映画、日本映画衛星放送、レッド・エンタテインメント、角川書店、Yahoo! JAPAN、メモリーテック、読売新聞)
製作協力:松竹京都撮影所
製作プロダクション:角川映画
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)「最後の忠臣蔵」製作委員会

Amazon Prime Videoにてレンタル・購入配信中
https://www.amazon.co.jp/dp/B00US8OBYU/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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