『ドライブ・マイ・カー』米アカデミー賞国際長編映画賞受賞! その国際的に愛される所以

【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第1050回】

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。

日本時間の3月28日、アメリカ・ハリウッドで第94回アカデミー賞の授賞式が行われ、『ドライブ・マイ・カー』が国際長編映画賞を獲得しました。

日本映画が受賞するのは、今回で2度目。2009年に受賞した滝田洋二郎監督作品『おくりびと』以来、13年ぶりの快挙となります(受賞当時の名称は「外国語映画賞」)。

そこで今回は、アメリカ映画界最高の栄誉に輝いた日本映画『ドライブ・マイ・カー』 をクローズアップ。本作が国際的に愛される理由に迫ります。

※写真は、第94回アカデミー賞授賞式レッドカーペット (C)Academy of Motion Picture Arts and Sciences credit: Mark Von Holden / A.M.P.A.S.

『ドライブ・マイ・カー』 〜喪失と再生、作品に息づく普遍的テーマ

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、超厳戒態勢のなかで開催された、2021年の第93回アカデミー賞授賞式。縮小傾向にあった授賞式から一転、2022年は徹底した感染対策を心がけ、従来どおりドルビー・シアターで開催。ショーを進行する司会者も4年ぶりに復活し、往年の華やかさが戻ったかのような盛り上がりをみせました。

その一方で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなかで開かれることとなった、今回の第94回アカデミー賞授賞式。セレブリティのなかには、青と黄の“ウクライナカラー”のバッジや、ウクライナ支援を記すブルーのリボンを身につけるなど、衣装を通じてウクライナとの連帯を示す姿も。

式典中にウクライナへ黙祷を捧げる場が設けられたことも、印象に残る授賞式でした。

『ドライブ・マイ・カー』

そんななか、今年度アカデミー賞で最大の目玉となったのが、『ドライブ・マイ・カー』。

2021年に開催された第74回カンヌ国際映画祭で、日本映画では初となる脚本賞をはじめ4冠を獲得したのを皮切りに、国内外で数々の賞を受賞。

全米、ロサンゼルス、ニューヨークなど主要な映画批評家協会賞で作品賞を獲得するだけでなく、アカデミー賞の前哨戦と言われるゴールデン・グローブ賞でも非英語映画賞に輝くなど賞レースを席巻し、日本の実写映画としては珍しいほどの称賛の嵐を巻き起こしました。

これほどまでに本作が観客を魅了する理由は、一体どこにあるのでしょうか?

『ドライブ・マイ・カー』

まずひとつは、小説とは違う“映画”として完成させたこと。

原作は、世界的な人気を誇る作家・村上春樹の短編小説。村上春樹の小説が映画化されるとなれば、きっと世界中のハルキストが興味をそそられるはず。そんなドリームプロジェクトで、濱口監督は「ドライブ・マイ・カー」以外の短編小説もモチーフに加えながら、何と179分という長尺で本作を制作したのです。

舞台を東京から広島、北海道、さらに韓国へと広げたり、“多言語演劇”という要素を取り入れたりと大胆に脚色を施しているにもかかわらず、原作小説のエッセンスは確実に落とし込まれており、その完成度の高さにはただただ驚かされるばかり。小説とは異なる色合いを持たせながら、その底辺には村上春樹が綴る物語の普遍性を息づかせているのです。

これこそが、映画『ドライブ・マイ・カー』の真髄であり、観る者を惹きつける所以と言えるのではないでしょうか。

『ドライブ・マイ・カー』

そしてもうひとつは、普遍的な人間ドラマが描かれている作品だということ。

西島秀俊演じる舞台俳優兼演出家が、自身の専属女性ドライバーとの出会いを通じて、妻を亡くした喪失感から再生して行く様子を描いた『ドライブ・マイ・カー』。

コロナ禍や格差、分断が広がる世の中で、誰もが癒しや希望を求めている現代。孤独や心の傷と向き合う登場人物たちの姿に、各々の観客が、自分自身の置かれている現実を重ね合わせて行く……。

誰もが感じ得る。そういった共感の連鎖が、言語や文化の違いをも超えた支持へとつながって行ったと言っても過言ではないでしょう。

※ 写真は、第94回アカデミー賞授賞式より (C)Academy of Motion Picture Arts and Sciences credit: Blaine Ohigashi / A.M.P.A.S.

第94回アカデミー賞では作品賞・監督賞・脚色賞・国際長編映画賞の全4部門にノミネートされ、見事、国際長編映画賞を受賞した本作。他部門での受賞は叶わなかったものの、脚色賞、作品賞のノミネートは日本作品としては初めて。

そして監督賞ノミネートは、『乱』(1986年)の黒澤明監督以来で、実に36年ぶりのこと。本作が米アカデミー賞に、日本映画として大きな足跡を残したことは、間違いないでしょう。

歴史的快挙を成し遂げた『ドライブ・マイ・カー』チームの皆さん、オスカー受賞おめでとうございます!

『ドライブ・マイ・カー』

『ドライブ・マイ・カー』

大ヒット上映中
Blu-ray & DVDリリース、Amazon Prime Videoにてデジタル配信中
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生
原作:村上春樹「ドライブ・マイ・カー」(短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介、大江崇允
音楽:石橋英子
製作:『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント、ビターズ・エンド
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
英題:Drive My Car
配給:ビターズ・エンド
(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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