新内眞衣と学ぶSDGs 水の都・熊本で行われた「アジア・太平洋水サミット」とは

4月から新内眞衣がパーソナリティに就任したニッポン放送『SDGs MAGAZINE』。リニューアル第2回の後半では、当サイトの記事から今回のテーマ、目標6「安全な水とトイレを世界中に」に関連する話題をピックアップ。東京大学大学院工学研究科の沖大幹教授が解説した。

新内眞衣

■「アジア・太平洋水サミット」とは

番組では毎回、「SDGs MAGAZINE」サイトに掲載されている記事を紹介しているが、今回は目標6「安全な水とトイレを世界中に」にまつわるものとして4月23、24日に熊本市の熊本城ホールで開催された国際会議「第4回アジア・太平洋水サミット」の話題を取り上げた。

市民の水道水源を100%天然地下水で賄う日本一の地下水都市・熊本で開催された、この「水サミット」は「持続可能な発展のための水〜実践と継承」がテーマとなり、日本を含む30の国と地域が参加。気候変動で悪化する水災害などの現状を踏まえ「水と食料」「地下水を含む健全な水循環」といったテーマや、災害被害の軽減、安全で安価な飲料水の確保などに向けた話し合いが行われた。

淡水資源に乏しい太平洋島諸国が集まった会合では、気候変動に伴う海面上昇や干ばつで地下水や雨水の確保が脅かされている現状が報告され、岸田文雄首相は日本の先進技術を活用した質の高いインフラ整備の後押しするため「今後5年間で約5000億円の支援を実施する」と表明した。

新内 「今回、『水サミット』というものが行われたということで、初めて日本で行われていると聞いてびっくりしました。」

沖 「『アジア・太平洋水サミット』は今回が4回目で、第1回(2007年)は大分で行われました。その後、タイ、ミャンマーで開催され、また日本に戻ってきました」

新内 「この『水サミット』は、どういった意味合いがあるのですか」

沖 「話し合われた内容は(上述の)説明の通りですが、こういう会議って何を話し合うかというより、話し合うこと自体に意味があるんです。つまり、岸田首相や各国の首脳が水に関心を向ける。思いを寄せて、話を聞いて、この分野は何をしなくてはいけないのか、改めて認識を新しくするということが、ものすごく大事なことだと思います」

新内 「気候変動による水災害や水質の悪化などは、人間にはどうにもできないことではないのでしょうか」

沖 「人間がどうにもできない自然の変動に加えて、私たちが温室効果ガスを出してしまったことによる気候変動もあるので、やっぱりそれを押さえなきゃいけないよねということになる。あるいは、気候変動が多少進行して洪水が増えても、被害が出ないようにする対策を取ろうとか、海面が上昇しても高潮で危ないところには住まないようにしようとか、干ばつが深刻になったらそこに水を供給する施設を整備しようとか、できることはありますよね。質の高い社会をつくるためには、質の高いインフラの整備が必要だろうというのが、今回の熊本で行われた『水サミット』の主眼・テーマといえます」

沖大幹教授

■「熊本宣言」と「熊本水イニシアチブ」

「第4回アジア・太平洋水サミット」の首脳級会合では、水災害対策や水環境改善で各国に取り組み強化を求める「熊本宣言」を採択。2023年3月に開催される「国連水会議」での議論への反映を目指すこととなった。また、岸田首相は同会議の演説で、水問題における日本の貢献を盛り込んだ「熊本水イニシアチブ」を打ち出し、治水技術の提供や水道施設の整備などに取り組む考えを示した。

新内 「『熊本宣言』や『熊本水イニシアチブ』は、どういうものなのでしょうか」

沖 「『熊本宣言』にはSDGsの達成に向けて気候変動やコロナが邪魔をしている状況を何とかしなきゃいけない中で、ガバナンス、投資、科学技術が大事だということが書かれています。その『熊本宣言』で大事だといった事柄に対し、実際に日本政府はこう行動に移しますというものを並べたのが『熊本水イニシアチブ』ということになります。いわゆるインフラの整備だけではなく、例えば人工衛星による雨がどこにどれくらい降っているかといった情報を地上の観測網があまりない途上国に提供するとか、そうしたものを洪水がどこで起こりそうかなどの情報に変換してお伝えするとか、ソフト面の支援もしていこうというのが『熊本水イニシアチブ』の心だと思います。情報を受け取っても、うまく避難などに結びつかないような場所には、それが結びつくようにコミュニティ自体を強くする支援もしていこうということです」

新内 「海外への支援に対して、日本国内の水のインフラはどうなのでしょう。古いものが多かったりはしないのですか」

沖 「良いこと言いますね。実はその通りで、一番身近な水インフラである水道管だと、前の東京オリンピック前後、60年くらい前に整備されたんです。60年くらい経つと、ちょうど替え頃ですが、お金がかかる。でも、みんな反対するので、あまり水道料金は上げたくない。水道関係者の方々は、適切に新しい管に置き換えていきたいのですけど、なかなかそれができなくて、最近水道管の爆発とか実は増えているんです」

新内 「確かに、水道管破裂ってニュースで見る気がします」

沖 「気のせいではないです。少し前の統計では大体、年間500件という数字が出ているので、毎日、日本全国どこかで起こっている計算です。下水管の埋没はもっと多くて、その10倍くらいといわれています。破裂する前に交換するのが良いのですが、それができていないというのが、実は日本の水道界の大問題になっているんです」

新内 「SDGs以前に……」

沖 「それも込みでSDGsといってもいいですね。問題があるからサミットなどを行うわけで、みんなが気にしないでいられるのは実は幸せなことですよね」

新内 「考えていかないといけない問題なんですね」

沖 「ですから、水で困らない社会を50年後、100年後の世代にも残していくためには、適正な水道料金を払って、うまく更新していくことが大事なんじゃないかなと思います」

新内眞衣

■日本の水道料金って高いの? 安いの?

新内 「日本の水道料金は、世界的にどれくらいの基準なんですか」

沖 「真ん中くらいですね。高い国は高いし、安い国は安い。ところで、1000リットルあたりで、どれくらい払っているかご存知ですか」

新内 「考えたことがないですけど、うちの水道料金は2カ月で5000円くらいだから・・・」

沖  「単価200円です。ペットボトルに比べると1000分の1くらい」

新内 「そう考えると、安い気がします」

沖 「例えば、ペットボトルの水でお風呂に入るというぜいたくをすると、1回あたり1万円くらいになります」

新内 「ワオ! でも、水道代って蛇口をひねって出たものに加えて、下水も一緒に払っているじゃないですか」

沖 「そうです。よくご存じで」

新内 「それを考えると、安く感じてしまいます」

沖 「そうですね。携帯電話代やガス、電気代などと比べると、大抵の家庭では水道代が一番安いのではないかなと思います。それでも、安ければ安い方が良いと、つい思ってしまうところを我慢して、50年後、100年後の日本でも安全な飲み水が好きなだけ飲める社会にしておこうと思うのが良いんじゃないですかね」

新内 「私たちは生まれてからお水で苦労したことがないというか、水に対して当たり前という感情があるからこそ考えたことがなかったですけど、これは確かに考えていかなくてはいけない問題なのかもしれないですね」

沖 「おっしゃる通りで、だからこそ、こうやって『水サミット』を開催すれば、いろいろな人に関心を持ってもらえるし、岸田首相が『水イニシアチブ』を出したとなるとニュースにも載る。関心を起こすというのが、こういう会議の一番大事な点なんです」

写真提供:日本水フォーラム 画像出典:https://apwf.org/kumamoto-2022-jp/4apws-official-photos/

■大切なのは何を話すかより関心を起こすこと

また、「第4回アジア・太平洋水サミット」の開会式には、天皇、皇后両陛下がオンラインで臨席された。水問題の研究を長くされてきた天皇陛下は、英語でご挨拶をされただけでなく、「人の心と水―信仰の中の水に触れる―」と題した約30分間の記念講演にも臨まれた。

沖 「天皇陛下は、水に関する民俗信仰などについてお話をされました。陛下は、ご自分で文献をお読みになり、現場に足を運ばれ、写真を撮って、講演資料もつくられているんです」

新内 「素敵ですね。われわれが水に関心がなくていいのかと思うくらい、すごくありがたいことです。ところで、『水サミット』では支援について5年間で5000億円という話しが岸田首相からあったとのことですが、これは国内だけでなく、国外にもということですか」

沖 「主に国外です」

新内 「先ほど、日本で水道管の問題などもあると伺った中で、それだけの支援を海外にする余裕はあるのでしょうか」

沖 「私たちの税金なんだから、私たちのために使えという考えもあると思いますが、“情けは人のためならず”みたいなことです。つまり日本の支援でなくてはならない水、なかったら3日も生きられるか分からない水が安定して得られるようになった地域があるとします。その地域は経済的にも発展するでしょうし、子供は学校にも喜んで行けるようになる。発展したら日本の物やサービスを買ってくれることもあるかもしれないし」

新内 「確かに、そうですね」

沖 「実は日本って、水分野の支援では世界一なんです。水って戦争とかと一番遠いところにある。そういうことでアジアの国、アフリカ、全世界に水を通じた支援をするようになっているんです」

■プノンペンの奇跡

新内 「例えば、どのような支援を行っているんですか」

沖 「先ほどのような水道の敷設もありますし、井戸を掘るのというのもある。カンボジアのプノンペンでは、内戦からの復興の時に北九州市上下水道局の人が行って、水道を一からつくったんです。一からつくると日本と同じものができて、結果、プノンペンの水道では蛇口から直接水を飲めるようになったんです」

北九州市上下水道局は、プノンペン水道公社などとタッグを組み、WHO (世界保健機関)基準を満たす水道水の 24 時間 365 日供給を実現。世界の水道関係者からは「プノンペンの奇跡」と呼ばれている。

新内 「すごい技術ですね」

沖 「すごいでしょ。暑い国だから、途上国だからではなく、やればできる」

新内 「知りませんでした。気候や気温の問題で難しいのかと思っていましたけど、整備をちゃんとすればできるんですね」

沖 「そう、日本と同じように飲める水を供給できる。水道局の方にお話を伺うと、国内で新しい事業ってなかなかなくて、技術がうまく引き継がれないという問題があるのだけど、そうしたことを途上国でやると、職員が訓練されるという話も聞きますね」

新内 「日本だと、既にできあがっていますからね」

沖 「そうなんですよ。先ほどの話ではないですが、日本もここからどんどん水道管を更新していく必要がある。維持管理していく時のノウハウが今まさにつくられようとしているのかなとも思います」

新内 「ゼロから一を国外でやって、日本はまた更新していくことを目標にしていく」

沖 「100点満点にしていくところを海外でやって、100点満点を維持するところを国内で頑張ろうとしているという感じですかね」

■「琵琶湖の水、止めたろか」は通用しない!?

新内 「あとは、記事の中でも気候変動という単語が出てきますが、これからの地球の水の未来はどうなっていくのでしょう」

沖 「残念ながら人為的な気候変動はもう生じています。大雨が増えるとか、干ばつの地域が増えるとか、それで食料が取れなくなるとか、あるいは熱中症で脱水症状になって命を失うとか、気候変動の悪影響って大体、水を通じて私たちに影響が来るんです。気候変動の悪影響は水の問題なんです。これを何とかするのも、私たち水文学者の役割だと思っています」

新内 「それだけ水が重要となってくると、水の奪い合いみたいなことは起こったりしないんですか」

沖 「実際、小さいところでは起こっているのですが、戦争にまではなかなかならないと思うんです。水くらいのことで戦争するのは、とても引き合わない。ただ、今世の中で起こっていることを見ると、合理的に考えていることばかりではない気がするので、そういう意味では水を巡っても戦争が起こってしまう可能性もあるかもしれない。ただし、地域によっては水ってとても大事なので、よくケンカをするんですよ。隣の国同士、上下流の国同士、日本国内でも上流の県と下流の県とか。東京と神奈川だって多摩川を挟んでいますが、多摩川の水、実は東京が全部使っていて、神奈川県の人たちは不満に思っています」

新内 「県単位とかだと、もやもやした部分があったりするんですね」

沖 「水の問題って、そういう気持ちの問題が強いので、なかなか解決が大変です」

新内 「よく滋賀の方が怒ったら『琵琶湖の水、止めたろか』とか言うじゃないですか。あれ、実際に止められたら結構、大変じゃないですか」

沖 「止められると京都は水がなくなりますし、奈良も大阪も。兵庫は神戸の辺りまで、琵琶湖から水がいっています。なので、確かに困るんですけど、止めちゃうと水位が上がって滋賀が洪水になってしまう。それはそれで、滋賀も大変です(笑)」

新内 「そうなんですね(笑)。実は、そのあおり文句はあまり使えない・・・」

沖 「『伝家の宝刀、抜いたら終わり』という感じです。でも、そういう意味では琵琶湖の水を関西の水がめにしたので、水を通じて関西圏って何か団結している気はします」

新内 「そこは、いい循環なんですね」

沖 「でも最近、滋賀の方に聞くと、琵琶湖の水を使えるようにするときは下流の大阪、京都、神戸の人たちが一生懸命ちやほやしてくれたのに最近冷たいよね、と(笑)」

新内 「あれ(笑)。ちょっとすねちゃっているんですか。かわいらしい」

沖 「やっぱり水って、そういう気持ちの問題がつきまとう気がします」

新内眞衣

■第2回放送を終えて新内眞衣が思うこと

新内 「大切だし、なくてはならないものですからね。最後に日本人が一人一人意識すべきことはありますか」

沖 「例えば、さっきの水道の管路施設を更新していくことに関しても、それが必要だと思ったら、ちょっと高い水道料金も長い目で見れば自分、あるいは自分たちの子孫のためだと思って払う。より良い世の中をつくるために貢献している取り組みや、そういうことを一生懸命やっている企業を応援するということが、世の中を水に限らず良くしていくんじゃないかなと思います」

新内 「私も水のことは大事にしてきたつもりですが、より考えていかなきゃなと思いました」

沖 「普段、水を気にせずに済むというのはありがたいことですけれども、時々は水の恵みと災いについて思いを馳せていただいて、うまく水の恵みを受けられない人、水の災いに遭っている人のことを考えて、そういう状況が少しでも明日は良くなるように、ちょっとずつでもいい世界になっていくようにというふうに考えていただいたらいいかなと思います」

新内 「本当に思いを馳せていきたいと思います。沖大幹先生でした。ありがとうございました」

沖 「ありがとうございます」

SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」について掘り下げていったリニューアル2回目の『SDGs MAGAZINE』。新内さんは「今日も、すごく勉強になりました。水が自分の人生に不可欠なものと分かってはいたつもりなんですけど、当たり前にあるのが幸せなことだったということに改めて気付きました。これから50年、100年と持続可能にしていくためには今から考えなきゃいけないですね」とし、行動に移すことの重要性に言及。さらに「最後に、沖先生が『水の恵みと災い』と言っていたのも、すごく印象的で、水って災いも起こす可能性があるんだなと思い、その辺も調べてみたくなりました。今日も本当に『勉強になった』しか言っていませんが、すごく実のある時間になり、楽しかったです。ぜひ、また沖先生とお話しできたらなと思います」と、すっかり「水」に心を動かされた様子だった。

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