三原の名物駅弁「元祖珍辨たこめし」は、なぜ「珍辨」なのか?

元祖珍辨たこめし

メディアは「珍しい」ものが大好きです。珍名、珍現象、珍獣……。駅弁にも「珍弁」があります。広島・三原駅の「元祖珍辨たこめし」です。たこめしはあまり珍しくないのに、なぜ「珍辨」なのか? その背景には、駅弁屋さんの社長さんが大切にしていた思い出がありました。駅弁膝栗毛の恒例企画、「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第35弾は、「株式会社浜吉」編。この「元祖珍辨たこめし」の製造に密着しました。

500系新幹線電車「こだま」・N700S新幹線電車「のぞみ」、山陽新幹線・福山〜新倉敷間

「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第35弾・浜吉編(第1回/全6回)

東海道・山陽新幹線の最新型車両・N700S「のぞみ」が、広島・福山駅をあとにしながら、人気者の500系「こだま」とすれ違います。ノンストップの「のぞみ」なら、約35分の岡山〜広島間。「こだま」のなかには、新倉敷・福山・新尾道・三原・東広島の各駅に10分以上停まって、1時間半近くをかける列車もあります。まるで昔ながらの汽車旅のような風情もあって、ホームに降りて「駅弁」の1つでも買い求めたくなります。

三原駅

山陽新幹線・岡山〜広島間にある、福山・三原の両駅で駅弁を手掛けているのは、三原市を拠点に駅弁を製造している「株式会社浜吉(はまきち)」です。三原駅に降り立つと、さっそく「たこ」のモニュメントがお出迎え。三原市は「たこ」のまちとして知られています。浜吉にもたこを使った、昭和28(1953)年発売のロングセラー駅弁があって、世代を超えて幅広い支持を受けています。

元祖珍辨たこめし

浜吉が誇るロングセラー、「元祖珍辨たこめし」(1080円)。浜吉・5代目の濱中弌彦(かずひこ)社長が、先代のお父様・珍彦(うずひこ)さんと、小さいころ、たこ釣り船に乗って、一緒に海の上で食べた漁師料理の思い出を駅弁に仕上げたものです。それゆえに、お父様の名前「珍彦」から一字を冠して“珍辨”を名乗ります。のちに、6代目の赤枝俊郎(しゅんろう)社長が、たこにちなんで八角形の容器にアレンジして、いまに至ります。

元祖珍辨たこめしの調理風景

調理場にお邪魔すると、もう甘辛のいい香り! まずはサッと湯通しして、灰汁やぬめりを取り、1日をかけてたこに味を付けていきます。そのたこを醤油・酒などの調味料と一緒に、最初は強火、途中から弱火で30〜50分じっくり煮込んでいきます。煮物を担当している佐藤さんによると、上質のたこを仕入れているので、とくに加工することはなく、“冷めてもやわらかい”たこを、実現できているそうです。

元祖珍辨たこめしの調理風景

一方、炊飯エリアではたこの炊き込みご飯が炊きあがってきました。こちらもふたを開けた瞬間から、いい香りが広がります。ご飯も、前日に細かく刻んだたこと、調味料を混ぜて、仕込んだものを、ガス釜で45分ほどかけて炊き、15分ほど蒸らして完成します。その後、急速に冷却、保存に耐えうるようにします。通常は自動炊飯システムを使っていますが、需要に合わせて、丸釜の炊飯器で炊き上げる日もあるそうです。

元祖珍辨たこめしの盛り付け

十分に冷却された「たこ」と「たこめし」は、製造レーンに運ばれてきて盛り付けに入ります。まずは、たこめしが詰められて、錦糸玉子が敷かれ、その上に自慢のたこが載せられます。たこは1つ1つ形が異なるため、食材の配置や彩りがよくなるように、気を遣うとのこと。ちなみに、昔の「元祖珍辨たこめし」は、イイダコ3匹ほどをまるごと入れていたそうですが、「見た目がグロテスク」という若いお客様の声があり、いまの切り身になったと言います。

元祖珍辨たこめしの製造風景

椎茸、筍などの煮物やうずらの卵が載せられ、香の物が入って、八角形の蓋がされると、ここでもうひと手間。出荷係の皆さんが、駅弁の伝統・十字の紐がけを行って、これにて「元祖珍辨たこめし」の完成となります。

元祖珍辨たこめしの製造風景

現在、浜吉の駅弁もスリーブ式の包装が主流ですが、「元祖珍辨たこめし」と幕の内弁当各種(浮城、福山)では、紐がけを残していて、担当になった方は、スピーディーに出荷できるように、日々、練習を積んでいるそうです。

元祖珍辨たこめし

【おしながき】
・たこめし
・たこの旨煮
・海老煮
・玉子焼き
・椎茸煮
・筍煮
・山菜煮
・うずらの卵
・香の物

元祖珍辨たこめし

八角形の蓋を開けると、パッと晴れやかになる彩りのいいたこめしが現れます。冷めてもやわらかく、味がよくしみ込んだたこの旨煮は、何度いただいても飽きの来ない味。じつは私、昔はたこが苦手だったのですが、「元祖珍辨たこめし」をいただいたことをきっかけに、たこの美味しさに気付かせてもらった思い出の駅弁でもあります。加えて、魅力的なのが、焦げ目の入った厚切り錦糸玉子。程よい甘みを提供してくれて、箸がどんどん進みます。

113系電車・普通列車、山陽本線・尾道〜糸崎間

しまなみ海道の因島大橋を横目に、山陽本線の普通列車が尾道から糸崎に向かいます。糸崎駅はその昔、山陽本線の要衝として栄えました。いまも、その糸崎駅前を拠点として駅弁を作り続けている「株式会社浜吉」。この「元祖珍辨たこめし」が生まれるはるか前、浜吉はどのようにして、鉄道の構内営業と関わっていくようになったのか? 次回からは、浜吉・6代目の赤枝俊郎代表取締役に、たっぷりとお話を伺ってまいります。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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