追悼・古谷一行さん 色気あふれるダンディな名優

【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第1074回】

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。

俳優の古谷一行さんが8月23日に死去していたことが、9月2日、明らかになりました。78歳の名優の死。

ドラマ「横溝正史シリーズ」「名探偵・金田一耕助シリーズ」の金田一耕助役で人気を博し、「金曜日の妻たちへ」「失楽園」「混浴露天風呂連続殺人」など、代表作が多いことでも知られる古谷さん。

2011年に肺がんを発症するも、手術を受けて復帰。その後も病と闘いながら、精力的にドラマ・映画・舞台と活動を続けていらっしゃっただけに、突然の悲報に日本中が驚きに包まれています。

そこで今回は、古谷一行さんの出演作とともに俳優人生を振り返ります。

映画「金田一耕助の冒険」で熊谷美由紀(松田美由紀)が女優デビュー 左から江木俊夫、古谷一行、熊谷、田中邦衛=1979年4月25日 都内 写真提供:産経新聞社

当たり役・金田一耕助 明るく飄々とした新たな “金田一像”

数多ある代表作のなかでも古谷一行さんの当たり役と言えば、やはり金田一耕助。俳優人生において、実に29年もの長きにわたってひとつの役を演じ続けられたことには驚かされるばかりです。

いま改めて調べてみると、金田一耕助役に挑戦した俳優さんは、何と20名以上。そんななかで、古谷さんが金田一耕助を演じた作品は、ドラマ・映画合わせて48本。

出演作品数がダントツに多いことからも、古谷一行さんがいかに視聴者から支持されたかが窺い知れます。

ひょうひょうとしていて一見頼りなさそうに見える探偵の金田一耕助に扮する俳優・古谷一行=1977年2月 写真提供:産経新聞社

ボサボサの髪の毛に、よれよれの袴姿。げた履きで全力疾走し、寝るときは大いびき。そして推理に行き詰まると、逆立ちをする……。

古谷さんがつくり上げた金田一耕助像は、自由奔放で茶目っ気たっぷり。いま観ても、その人間味あふれる人物像に魅了される人も多いのではないでしょうか。

“原作にもっとも忠実な金田一像”として人気が高く、横溝正史ワールド特有の薄気味悪さと緊迫感が際立っていた印象がある古谷一行バージョン。全シリーズ、もう一度見直したい! そう思っているのは、きっと私だけではないはず。

※写真は、『マチネの終わりに』より (C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

あわせて観て欲しい! 古谷一行さん近年の出演作 ~『マチネの終わりに』

東京、パリ、ニューヨークを舞台に、音楽家とジャーナリストの愛の行方を描いた、映画『マチネの終わりに』。本作において、クラシックギタリストの祖父江誠一役に挑んだ古谷一行さん。

コンサートのシーンでは、一流の演奏家らしい貫禄ある佇まいを、また、ストリートミュージシャンとのセッションシーンでは、開放的で快活な姿を披露。俳優としてだけでなく、ミュージシャンとしての古谷さんの魅力も堪能できる1作となっています。

古谷さんと言って特筆すべきはやはり、年齢を重ねても滲み出る大人の色気。本作でも、「金曜日の妻たちへ」や「失楽園」といったメロドラマでみせた色男ぶりを彷彿させるものがあります。

そう言えば、連続ドラマ「ひよっこ」出演時には「ヒロインのおじいちゃん役にもかかわらず、古谷さんから色気が半端なく溢れ出ている」と、若い世代の女性視聴者をも虜にしている……というニュースが流れて、話題になったこともありました。“大人の色気”は、俳優・古谷一行の代名詞と言っても過言ではありません。

※写真は、連続ドラマW「監査役 野崎修平」より (C)2018 WOWOW INC.

連続ドラマW「監査役 野崎修平」

バブル経済が崩壊し、金と権力が渦巻く1990年代末。時代の波に抗ってでも正義を貫こうと奮闘する銀行員・野崎修平の活躍を描いた連続ドラマW「監査役 野崎修平」。

監査役という役職が初めてドラマの主人公となった本作で古谷さんが演じたのは、おおぞら銀行頭取・京極雅彦。一見すると、物腰の柔らかい紳士。しかし、時折見せる鋭い目つきや振る舞いからは得も言われぬ威圧感が垣間見え、その細やかな表現力は流石の一言。

果たして彼は、主人公の敵なのか味方なのか。古谷さん演じる京極の存在が、ドラマをより見応えあるものとしていたことは言うまでもありません。

※写真は、『おもいで写眞』より (C)「おもいで写眞」製作委員会

『おもいで写眞』

古谷一行さんの遺作となった映画『おもいで写眞』。東京での夢に破れて故郷に戻った主人公が、シニア世代を対象にした“おもいで写真”を撮り続けるなかで、生きがいを見い出していくヒューマンドラマです。

古谷さんが演じたのは、足が悪く、重い過去を背負った老人・柏葉雅俊。その人物が内包する悲しみ、苦しみ、後悔。言葉で語らずとも観る者に伝わってくる演技は、年輪を感じさせる味わい深いものがありました。深みのあるお芝居に、いま改めて触れてみたい1作です。

名探偵から色男、頼れる上司、そして枯れてもなお、色気のあるおじいちゃん……。人間味あふれる演技と確かな存在感で、観客を魅了し続けた古谷一行さん。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

世界社『富士』第5号(1952)より横溝正史  PD

世界社『富士』第5号(1952)より横溝正史  PD

【ドラマ】
横溝正史シリーズI(1977年放送)
第1作「犬神家の一族」
第2作「本陣殺人事件」
第3作「三つ首塔」
第4作「悪魔が来りて笛を吹く」
第5作「獄門島」
第6作「悪魔の手毬唄」横溝正史シリーズII(1978年放送)
第1作「八つ墓村」
第2作「真珠郎」
第3作「仮面舞踏会」
第4作「不死蝶」
第5作「夜歩く」
第6作「女王蜂」
第7作「黒猫亭事件」
第8作「仮面劇場」
第9作「迷路荘の惨劇」

名探偵・金田一耕助シリーズ(1983年~2005年放送)
第1作「本陣殺人事件」(1983年)
第2作「ミイラの花嫁」(1983年)
第3作「獄門岩の首」(1984年)
第4作「霧の山荘」(1985年)
第5作「死仮面」(1986年)
第6作「香水心中」(1987年)
第7作「不死蝶」(1988年)
第8作「殺人鬼」(1988年)
第9作「死神の矢」(1989年)
第10作「薔薇王」(1989年)
第11作「悪魔の手毬唄」(1990年)
第12作「魔女の旋律」(1991年)
第13作「八つ墓村」(1991年)
第14作「悪魔が来りて笛を吹く」(1992年)
第15作「女怪」(1992年)
第16作「病院坂の首縊りの家」(1992年)
第17作「三つ首塔」(1993年)
第18作「迷路の花嫁」(1993年)
第19作「女王蜂」(1994年)
第20作「悪魔の唇」(1994年)
第21作「悪魔の花嫁」(1995年)
第22作「呪われた湖」(1996年)
第23作「黒い羽根の呪い」(1996年)
第24作「幽霊座」(1997年)
第25作「獄門島」(1997年)
第26作「悪魔の仮面」(1998年)
第27作「悪霊島」(1999年)
第28作「トランプ台上の首」(2000年)
第29作「水神村伝説殺人事件」(2002年)
第30作「人面瘡」(2003年)
第31作「白蝋の死美人」(2004年)
第32作「神隠し真珠郎」(2005年)

【映画】
金田一耕助の冒険(1979年公開)

※写真は、『マチネの終わりに』より (C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

■マチネの終わりに(2019年公開)

Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中

出演:福山雅治、石田ゆり子、伊勢谷友介、桜井ユキ、木南晴夏、風吹ジュン、板谷由夏、古谷一行
監督:西谷弘
原作:平野啓一郎「マチネの終わりに」(文春文庫)
脚本:井上由美子
音楽:菅野祐悟
クラシックギター監修:福田進一
制作プロダクション:角川大映スタジオ
配給:東宝
(C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

※写真は、連続ドラマW「監査役 野崎修平」より (C)2018 WOWOW INC.

■連続ドラマW「監査役 野崎修平」(2018年放送)

Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中

出演:織田裕二、岸谷五朗、松嶋菜々子(特別出演)、古谷一行、ユースケ・サンタマリア、瀧本美織、駿河太郎、小林且弥、三浦誠己、利重剛、松尾諭、小市慢太郎、本田博太郎、勝部演之、田島令子、山本圭、甲本雅裕、西田尚美、宇梶剛士、光石研
原作:周良貨・能田茂「監査役野崎修平」(集英社刊)
脚本:前川洋一
監督:権野元
音楽:羽岡佳
制作協力:角川大映スタジオ
製作著作:WOWOW
(C)2018 WOWOW INC.

※写真は、『おもいで写眞』より (C)「おもいで写眞」製作委員会

■おもいで写眞(2021年公開)

Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中

出演:深川麻衣、高良健吾、香里奈、井浦新、古谷一行、吉行和子
監督・脚本:熊澤尚人
脚本:まなべゆきこ
音楽:安川午朗
原作:熊澤尚人「おもいで写眞」(幻冬舎文庫)
主題歌:安田レイ「amber」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:小林栄太朗、渡辺和則、有馬一昭、岡田美穂、平体雄二
プロデューサー:平体雄二、瀬島翔
撮影:月永雄太/照明:尾下栄治
美術:稲垣尚夫/録音:田中博信、反町憲人
音響効果:柴崎憲治/装飾:遠藤剛
ヘアメイク:持丸あかね/スタイリスト:神恵美
キャスティング:北田希利子
写真:千葉高広
助監督:小野寺昭洋
製作担当:守田健二
「おもいで写眞」製作委員会:テンカラット、ソニー・ミュージックエンタテインメント、イオンエンターテイメント、関西テレビ放送、スタジオブルー
製作プロダクション:スタジオブルー
配給:イオンエンターテイメント
(C)「おもいで写眞」製作委員会

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