”シティ・ポップ”の世界のトレンド化と新たなジャンル”アジアン・ポップ”【後編】

”シティ・ポップ”の世界のトレンド化と新たなジャンル”アジアン・ポップ”【後編】

ここ数年、全世界で注目を集める日本のシティ・ポップ。今回、音楽プロデューサーであり、大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻教授、経産省監修「デジタルコンテンツ白書」編集委員を務める脇田敬さんが、シティ・ポップの世界でのトレンド化と、それに続く日本発音楽のグローバル化のアプローチについての考察を寄稿してくれました。豊富なライブやマネジメント現場の経験とデジタル時代の音楽ビジネス知識を活かしたマネジメント、プロデュース、プロモーションを行い、また音楽ビジネス知識を広める発信や著述活動を行う脇田さんが見据える”シティ・ポップ”の世界のトレンド化と新たなジャンル”アジアン・ポップ”とは?前後編にわたってお送りします。

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前回、”シティ・ポップ”がどのように、世界の音楽シーンでトレンド化したのかについて、考えてみました。今回は”シティ・ポップ”以外の音楽ジャンルや、更に今後発展していくだろう世界のトレンドの中での日本に注目してみようと思います。

■日本の音楽を世界へ、新たなジャンル・カテゴリー”アジアン・ポップ”

2022年4月アメリカ、カリフォルニア州にて、コロナ禍によって3年ぶりの開催となった世界で最も影響力を持つ音楽フェス『コーチェラフェスティバル2022』のメインステージに日本から宇多田ヒカルが出演し大きな話題となりました。このステージは、アメリカのレーベル/メディア88rising(エイティ―エイトライジング)のスペシャルショーケースとして行われました。88risingはアジア系のアーティストを全米ヒップホップ/R&Bチャートにランクインさせ注目を集めた人気レーベル。中国系ラップグループのHIGHER BROTHERSやインドネシア系ラッパーのRich Brian、日系R&BシンガーのJojiなどが有名。コーチェラでは、宇多田ヒカルや伝説のK-POPグループ2NE1のサププライズ再結成など、世界中のSNSトレンドをジャックしました。今やメインストリームのジャンルであるブラックミュージックやラテンミュージックに続き、次の音楽トレンドとして”アジアン・ポップ”の存在を全世界に宣言したステージとなったのではないでしょうか。

私たちは、韓国や中国、はたまたタイ、インドネシアを同じアジアの仲間として意識するよりも、言語が違い、文化的にも共通点より違いに目が行くことが多いと思います。しかし、アメリカで暮らす人にとっては、日々「アジア系」と意識することが多いのでしょう。英語を共通語とし、アメリカ社会の中で「多様性」の在り方について議論するZ世代が、自分たちの思考や感情にフィットする音楽をサブスクやYouTube、TikTokなどでシェアしていく流れを捉えているのが88risingです。このステージで、宇多田ヒカルは、「First Love」「Automatic」といった日本語歌詞曲、世界トップクラスのEDMアーティストであるスクリレックスとコラボした「Face my tears」といった英語の曲を歌いました。日本のトップアーティストとして活躍する彼女はロンドン在住で、日本で一線で活動しながらも海外からも評価の高いアーティストの顔も持ちます。後に続く日本のアーティストにとって、またアジアのアーティストにとっても”レジェンド”である姿を見せました。

他にも、意外なところで世界の音楽トレンドに「日本」は存在します。ヘッドフォンをした女の子が机に向かい勉強している画像と共に、メランコリックでチルなヒップホップ調のトラックが流れるYouTubeチャンネルをご覧になったことがある方は多いでしょう。いわゆる”ローファイ””チル”といったBGM系音楽は世界的に人気です。実はこの音楽トレンドが、日本と密接なことは意外と知られていないと思います。音楽ルーツとして言われるのが日本人トラックメイカーのNujabesです。彼の作るJazzy HipHopは、世界で人気となった日本のアニメ『サムライチャンプルー』によってアメリカを中心に大人気となりました。”ローファイ・ヒップホップ”は、当時新しかったメランコリックな旋律のJazzy HipHopをルーツとしているのです。サムネイル画像がアニメ風なのは、そのことと関係あると言われています。また、元はジブリのアニメの画像を無許可で使用していましたが、注目が高まった後、差し替えた経緯もあります。アジア・カルチャー、アジア・ポップスへの注目の機運の中で、日本への関心は高まっています。NetFlixやAmazon Primeなど映像サブスクでのアニメの人気は高く、音楽と結びついた盛り上がりも今後期待されます。

K-POPの人気や、日本カルチャーへの注目、また、様々な人種や文化が交わるアメリカで生まれた”アジアン・ポップ”の流れが、どのように世界中に影響を与え、次の時代を創り出していくのか楽しみであると同時に、私たち日本人、日本の音楽シーンも、このわくわくする展開に参加していきたいと感じます。

■男性グループも世界に挑戦

日本発の男性グループも今後、注目される分野かもしれません。5月にLDHとタイのHIGH CLOUD ENTERTAINMENTのパートナーシップ契約が発表され、第1弾プロジェクトとしてBALLISTIK BOYZとPSYCHIC FEVERが、6か月間タイに活動拠点を移し武者修行します。東南アジアの中でも特に親日国で知られるタイでの現地に根を下ろした取り組みがどんな化学反応を起こすのか注目したいと思います。ジャニーズ事務所のTravis Japanも2022年3月よりアメリカLAに無期限留学し、現地の人気オーディション番組『Americas got tarent』に出演するなど、海外での活躍を志しています。

京都出身、関西圏で活動する男性4人組ヴォーカル・パフォーマンスグループのWITHDOMが、先日、7月20日に、”シティ・ポップ”の定番中の定番である山下達郎の「RIDE ON TIME」をカバーしリリースしました。男性グループによる”シティ・ポップ”のカバーというユニークなアプローチが注目され、YouTube Musicの公式プレイリストJ-SOUL/R&B On The RiseやAWAの公式プレイリストJapanese R&B/SOUL、Apple MusicとSpotifyのtuneTracksなど、多数のプレイリストにセレクトされています。男性グループと”シティ・ポップ”の合わせ技は、私たち日本人にとっては異ジャンルの配合と感じますが、海外のファンにとっては、”日本らしい”組み合わせかもしれません。どこかの国の若者が、TikTokでWITHDOMの「RIDE ON TIME」カバーを使って、ユニークな動画を投稿し、思わぬヒットに繋がるかもしれません。

WITHDOMは2022年4月にリリースされたEP『JUK3BOX』で、先行シングルの「Tetris」が、ローファイ・ヒップホップ的な音数の少ないサウンドとダンスポップサウンドを掛け合わせた異色のサウンドが注目され、日本のSpotify公式プレイリストのDance Pop Japanにもセレクトされました。さらに日本だけでなく、インドネシアのスラバヤのDJFMで6月JPOPパワープレイに選ばれ、JPOP週間チャート6/11初登場10位、6/18は8位、6/25ランキング5位、3週連続でチャートインして、最高位5位を記録。Tetrisのインドネシアでのチャートインニュースが、世界のWEBで、フランス、ドイツ、メキシコ、ブラジル、アメリカ、タイ、インド、インドネシア、韓国、香港、日本在住外国人向け日本サイトでニュースとして掲載されています。

”シティ・ポップ”や”ローファイ・ヒップホップ”そして”アニメ”といった大きく”日本”をイメージさせる文化トレンドは、国内とは違った広まっていく歴史を辿ってきたことが多いです。TikTok以降のショート動画時代において、グローバルとネットの歴史、その文脈を理解し、新しいアプローチを生み出していくことで新しい日本の音楽カルチャーにとって夢のあるチャンス溢れる時代となるよう願っています。

(原稿:脇田敬)

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