将棋女流名人リーグ初参加 藤田綾女流二段の願い「いつか娘に…」

将棋女流名人リーグ初参加 藤田綾女流二段の願い「いつか娘に…」

藤田綾女流二段

 里見香奈女流名人(27)への挑戦権を争う第46期岡田美術館杯女流名人戦(主催=報知新聞社・日本将棋連盟、特別協賛=(株)ユニバーサルエンターテインメント)の女流名人リーグが11日、開幕した。Eテレ「NHK杯テレビ将棋トーナメント」(日曜・前10時半)の司会として知られる藤田綾女流二段(32)が初参戦。昨年9月に第1子の長女を出産したばかりのママは「いつか娘に『お母さんは頑張ってきたんだよ』と胸を張って言えるような女流棋士になりたいです」と夢を語る。

 「現役生活21年」という重厚なフレーズが全く似合わない笑顔で、藤田は語る。「女流名人戦のリーグは中学校の時に落ちて以来で…とっても久しぶりなので、すごくうれしいです」。初々しさは若手、むしろ新人の空気さえ漂わせる。

 2000、02年度以来17年ぶり3度目のリーグ入りだが、当時はA・B級の2リーグ制時代の後者。女流名人挑戦者を決める最高峰の舞台に初めて立つことになった。「リーグ表を見ると、入れただけですごいことだなあと思いますけど…参加するからには良い結果を残したいので、頑張って残留したいです」

 母親になったことが盤上に好循環を生んだ。昨年9月に長女を出産し、早期の復帰戦となった同12月の予選1回戦で上川香織女流二段に勝利すると、相川春香女流初段、本田小百合女流三段、室田伊緒女流二段を次々と破って予選を突破した。「産後、頭が回らなくなったので、テーマにしたのは『決断良く指すこと』でした。考えても分からないものは分からないと、迷わずに」

 現役女流棋士66人のトップ10人がひしめくリーグ。中でも2学年下の上田初美女流四段(30)には特別な敬意を抱いている。「上田さんもお子さんが2人いて、昨年も出産を挟んでも休まずに好成績を残された。実力も姿勢も情熱もすごい方。自分が出産して、上田さんの本当のすごさが分かりました」。小学生時代から切磋琢磨した盟友でもある。「小さい頃も今も上田さんは変わらないです。将棋会館の道場で良く指しました。昔は今よりヤンチャだったかも(笑)」

 幼少期から愛棋家の父・悟さんに教わり、自然と将棋の道を歩み始めた。「小学2年生くらいで始めて、すぐ本格的に取り組むようになりました。NHK杯を毎週録画して見るような家庭で。父は厳しかったので他のテレビを見る時間もないくらいでした。詰将棋に棋譜並べ…当時はパソコンもなかったので、将棋年鑑や週刊将棋の棋譜を並べたりするのが日課でした。将棋連盟の道場にも通って」

 1998年、小学6年で女流棋士になって「天才少女」と騒がれた。11歳6か月での女流2級昇級は現在も破られていない史上最年少記録である。「最初の頃は『タイトルを取りたい』とも口にしていましたけど…」

 思うようにはいかない時期が続いた。期待に応えられないことがもどかしくて、高校生の頃は将棋から心が離れそうになった。「でも指さないとさみしくなって、また指し始めて」。普及面で活躍すればするほど「もっと将棋で結果を残さなきゃ」という思いを膨らませた。

 昨年2月に結婚。環境の変化、家庭を持つことの充足を力に変えた。春先には初めて女流王位リーグにも進出した。「限られるからこそ、時間を有効に使えるようになりました」。特に貴重なのはNHK杯の収録日。トップ棋士の将棋を、トップ棋士の解説を聞きながら目の前で見られる幸福感を毎回感じている。

 「控室では対局前の空気感を味わえますし、感想戦も間近で聞けます。解説していただいて『なるほど』を何度も言ってしまいます…。ほとんど将棋ファンの方と同じ目線になってしまっている瞬間もありますよ。例えば昨年度にしても、ベスト4の羽生(善治)先生、郷田(真隆)先生、森内(俊之)先生、丸山(忠久)先生は私が将棋を始めた頃にNHK杯の放送で見ていた方ばかりですから…」

 対局日は夫が娘の面倒を見てくれる。「主人の支えはとてもありがたいです。将棋が好きな人で、よく6枚落ちで指したりしてます。リーグ入りも『おめでとう!』と喜んでくれて。『お祝いしようね』と言ってくれたのに、まだしてもらっていないですけど…(笑)。娘も、対局に向かう朝は別れ際に泣いたりせずに笑って送り出してくれます。最近、ようやく寝返りを打ってお座りもできるようになってきたんですよ」

 藤田の開幕戦は、25日の中村真梨花女流三段戦。勝負の年が始まる。「いつか娘に『お母さんは頑張ってきたよ』と胸を張って言えるような女流棋士になりたいです」

 育った家庭と同様に、NHK杯のオンエアを見るのが家族の恒例行事だが、長女はまだ、テレビに映る女性がママだとは分かっていない。「家族のためにも頑張りたいです」。愛する娘が「戦うママ」を誇りに思う日も、すぐにやってくるだろう。(北野 新太)

 ◆藤田 綾(ふじた・あや)1987年3月24日、東京都大田区生まれ。32歳。西村一義九段門下。98年、史上最年少の11歳6か月で女流棋士(女流2級)に。三間飛車と向かい飛車を得意とする。2016年4月からNHK杯の司会を務める。18年2月、20代一般男性と結婚。同年9月に長女を出産。独特のタッチのイラストでも知られ「画伯」の愛称がある。著書に「親子で楽しむはじめての将棋」。