市川猿之助&中村隼人ダブル主演「新版オグリ」、世代異なる演劇記者3人の感想は

市川猿之助&中村隼人ダブル主演「新版オグリ」、世代異なる演劇記者3人の感想は

照手姫を演じた坂東新悟(左)と猿之助

 市川猿之助(43)、中村隼人(25)のダブル主演で6日に開幕したスーパー歌舞伎2(セカンド)「新版オグリ」(東京・新橋演舞場、11月25日まで)が話題を呼んでいる。91年に市川猿翁(79)=当時猿之助=が梅原猛氏と生み出したスーパー歌舞伎の名作を令和版に大胆リメイク。主役のWキャスト方式に合わせ、今回の特集面は世代の異なる演劇記者3人の「見た」で紹介する。同じ演目でも感じ方が大きく違うことに、おそらく驚かれるでしょう。

 ◆有野(40歳)は「見た」

 猿之助主演を鑑賞。猿之助が小栗判官を、隼人が遊行上人を勤めたが、特に印象に残ったのは照手姫を演じた坂東新悟(28)だ。細身でスラッとした長身。何よりよく通る声が魅力的で照手のけなげさがうまく表現されていた。照手が魅力的であるほど、オグリの男らしさが際立つ。

 オグリは一度は殺され、地獄に落ち、重い病に侵され熊野を目指す。一方の照手も牢輿(ろうごし)で流されたり、女郎屋に売られるが明るさを失わない。女性の一代記を描いた朝ドラ(NHK連続テレビ小説)を見ているような爽やかさを覚えた。オグリが心身ともにボロボロの状態のときも、照手が一途(いちず)に励まし、その後の展開へ続く原動力になる。このとき照手はオグリと気づいていないのだが。

 第1幕、嫁入りの行列から小栗党にさらわれた照手が「結婚したいのはオグリ様」と告白する場面が象徴的だ。この時代に女性から直球の告白をすること自体、斬新に映る。その無邪気なキャラクターを見ながらドラマ「東京ラブストーリー」の鈴木保奈美を思い出した。あくまで主役はオグリだが、照手の明るさはどんなときもブレることがなく、物語全体を貫く柱に感じた。

 スーパー歌舞伎2は、猿翁が作り上げたスペクタクルな新作歌舞伎を猿之助が進化させたもの。見た目の派手さが目立つが、猿之助は観客の共感を呼べるよう無数の工夫を凝らしている。オグリは突出した孤高の存在ではなく、小栗党の面々とはあくまで力を合わせる仲間というスタンス。照手の人物像も魅力的なキャラクターとして描き、その分、クライマックスの感動も大きい。(有野 博幸・40歳)

 ◆増田(25歳)は「見た」

 お堅い歌舞伎をイメージしたが伝統芸能ではなくエンターテインメントとして肩肘張らずに楽しめた。私と同じく25歳で、小栗判官こと藤原正清役を勤める隼人は、まさにはまり役だった。若手注目株の隼人はフォトブック「HAYATO」(16年)を出すほどのイケメン。一方、小栗判官の設定は、京都の上級貴族・藤原兼家を父に持ち、武者以上の武芸の達人で、才色兼備なカリスマ。役の設定も相まって同い年とは思えない堂々たる演技は、男でもほれるような凛々(りり)しさだった。

 「新版オグリ」では、田舎の豪族の娘・照手に愛をささやくシーンが多い。序盤では優雅な甘い言葉、終盤の生にしがみつきながらの青臭いセリフが飛び交う。そんな中、全身全霊で芝居に挑む実直なエネルギーが、鑑賞する側のこっぱずかしさを吹き飛ばす。

 新版ならでの衣装は映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」の主人公・ジョニー・デップがするようなドレッドヘア。キャップをかぶり、フード付きの上着はストリート系ファッションをほうふつとさせる。和洋折衷の“歌舞いた”衣装も着こなすいで立ちに同世代ながら感服した。

 歌舞伎と言えば「型」にはまった様式美というイメージがあったが、それは覆された。特に第2幕での老人たちが全員手に持っていたスマートフォン。観客席はざわついたが、写真を撮りまくる老婆の姿に会場は爆笑だった。舞台のスクリーンに投影されたツイッターの投稿画面には「草・w」や「(戒め)」などネットスラング満載で、若い人はニヤニヤだろう。

 ディズニーランドのような水の演出には度肝を抜かれた。特に奇想天外な白を基調とした地獄で、血の池地獄の決戦。赤ではなく白い水にも驚いたが、それ以上に観客席にまで飛ぶ水しぶきの多さに腰を抜かした。前3列目までに置かれていたビニールシートを不思議に思っていたが、スプラッシュ対策だったとは…。

 ラストには観客を巻き込んでの仕掛けも。リストバンドが光り、映画の応援上映さながらの盛り上がりを見せ、大団円でオールスタンディングの幕が下りた。この舞台そのものが小栗判官ではないか。圧巻のパフォーマンスでした。(増田 寛・25歳)

 ◆内野(52歳)は「見た」

 猿翁版を京都・南座で見ているが「オグリ」は、和製「ロミオとジュリエット」ともいわれる。「赤きバラとは、とこしえの熱い思い」。オグリが照手姫に思いを伝えるときのセリフ。試しにつぶやいてみてほしい。照れが介入したら恥ずかしくてとても言えないセリフだ。それがいっぱい出てくる。これをリアリティーを持って伝えられるか。役者の力量の見せどころ。猿翁がかつて熟考を重ねたセリフ回しを猿之助が踏襲し素晴らしい。明瞭でリズムがあり、鶴屋南北のセリフを聞くようだ。

 しかし、まさに似て非なるもの。あまりにも変わっており終演後、しばらくぼう然。オグリが鮮やかに手なずける暴れ馬は、超合金(この言葉を使うだけで世代がばれる)のようなロボット風のデザインでびっくりした。今更のように、オグリは架空の人物であることを再確認した。

 1986年。スーパー歌舞伎は「あれは邪道だ」と激しい逆風が吹き荒れる中で生まれ、始まった。それが今は古典の域にあるという事実。平成版は猿翁のカリスマ性が絶大で頂点に君臨する印象。猿之助はタイプが違う。今回のW主演も猿之助が松竹幹部を説得しなければ、実現しなかったハズだ。萎縮する若手はおらず、作品の本質に通じる自由な空気をつくり出す。同時にスーパー歌舞伎の歴史を刻んだのは歌舞伎座でなく新橋演舞場であることに改めて気づく。

 好きな古典的シーンとのギャップが激しい。話が脱線して笑いを誘うシーンや電飾、派手な色彩の衣装など、おばさん記者は頭ぐるぐる状態になる箇所も。上演時間(休憩含めて4時間半)はもう少し短くできないでしょうか。若手記者の満喫ぶりを知り、歌舞伎の無限の奥深さを知る。みずみずしい感性がうらやましい。(内野 小百美・52歳)

 【作品メモ】小栗判官伝説が題材。スーパー歌舞伎は86年「ヤマトタケル」で始まったが「オグリ」は3作目。猿翁は「どの作品よりも好きだ」と語るほど思い入れが深い。歌舞伎、人形浄瑠璃で“小栗判官物”としても知られる。ファッションショーを思わせる斬新で華やかな衣装、フライング技術、鏡を使った演出など猿翁は伝統芸能の中に最先端のものをふんだんに取り入み、衝撃を与えた。梅原氏はプラトンの「饗宴」や「伊勢物語」を意識したという。

 【あらすじ】武芸学問に通じた美貌の若者・藤原正清(後に小栗判官)=オグリ(猿之助・隼人)は集まった若者たちと小栗党を“結成”し、思うままに生きていた。ある日、その集団は横山修理の娘・照手姫(坂東新悟)をさらう。強引な状況下ながらオグリと姫は強く引かれ合う。夫婦になるも修理は許さず、オグリを殺害。地獄で大立ち回りを展開するが、病を抱えた老婆姿となって現世に戻される。オグリは遊行上人(猿之助・隼人)に導かれ熊野を目指す。道中、照手姫と再会するが…。