実母に無理心中を図られた過去…ひとりの天才女性の「未来を変えた壮絶人生」

ゴールデン・グローブ賞2冠! 主役のアニャ・テイラー=ジョイの授賞式での美しい姿も話題になった『クイーンズ・ギャンビット』(Netflixドラマ全7話)。全話レビューの第6回目では、ゲーム作家・米光一成が、人間模様の描き方の見事さに着目。最終話直前の緊迫感を解説します。

ミュージカル化への期待も高まる


主役のベスを演じるアニャ・テイラー=ジョイ。受賞おめでとう! Netflixオリジナルシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』独占配信中。

【『クイーンズ・ギャンビット』全話レビュー 第6話】vol.6 

『クイーンズ・ギャンビット』が第78回ゴールデン・グローブ賞で作品賞・女優賞(リミテッド・シリーズ部門)に輝いた。アニャ・テイラー=ジョイの深いグリーンのディオールのドレス姿も話題になった。放送映画批評家協会賞も作品賞・女優賞をダブル受賞。アニャは、こちらもディオールのプラム色のギリシャ風チュール姿で登場。

さらに、デヴィッド・O・ラッセル監督の次回作に、アニャ・テイラー=ジョイの出演が決定したと報じられた(※1)。ロバート・デ・ニーロ、マイク・マイヤーズ、ティモシー・オリファント、マイケル・シャノン、クリス・ロック、アニャ・テイラー=ジョイ! 発表された出演陣だけでも超大作の予感だ。さらにさらに、原作小説の劇場用舞台権をLevel Forward社が取得。ミュージカル化への期待も高まっている。

快進撃の『クイーンズ・ギャンビット』各話レビューもついに第6話。最終回直前だ。

「男たちはいろいろ教えたがる。賢いわけじゃない。自分を大きく見せたいだけ。指図しても聞き流せばいい。自分の思うままに進めばいいの。強い女にならなくちゃ。妥協が当たり前のこの世の中で。自分を貫くにはね。ほら、あなたはあなたよ」

第5話(※2)同様、実母アリスがベスに向かって語る言葉からはじまる。この力強い名台詞が、単純な「良いセリフ」としては機能しないところに『クイーンズ・ギャンビット』の迫力がある。

第6話、第7話は、最終ボスであるボルコフとの戦いに向けて盛り上がると同時に、無理心中をしようとした母親の記憶との戦いにも突入する。

クレオ=スパイ説を検証


第3話のレビュー(※3)でも書いたが、『クイーンズ・ギャンビット』は、チェス対局パートは明快かつ爽快だが、ベスを取り巻く人間ドラマのパートは謎が多い。たとえば、第6話に登場するクレオ。けっこうな謎の女だ。

ベニーの地下部屋へ、チェス仲間と一緒にやってきたクレオ。ベスと友達になり、パリに来たら連絡してねと約束する。1967年、パリの国際大会で、ボルコフとの対局の前夜に電話をしてきて、ホテルのバーにいるから飲もうとしつこく誘う。

ベスは誘惑に負けて、飲んでしまい、二日酔い。対局に遅刻してあわてて向かうハメに(第1話の冒頭のシーンがようやく!)。結局、コンディションが整わないままにボルコフと対局し、負けてしまう。

クレオ(ミリー・ブレイディ)の誘惑に負けて飲酒してしまうベス。

クレオは、友人なのになぜ大切な試合の前に飲みに誘ったのだろうか。しかも、しつこく。もちろん、そういう性格なのだということで観ていても全然かまわない。が、「IMDb」(インターネット・ムービー・データベース)では、クレオがソ連のスパイなのではないか説も出ている。

ベスが勝つのを妨害するために行ったのだ、と。それを示す明確なシーンやセリフはないが、最終話のタウンズのセリフが、クレオ=スパイ説を傍証している。タウンズが、モスクワでの対局に駆けつける。

「すぐにビザが取れたの?」とベスに聞かれ、タウンズは「新聞社の世話でね」と答え、その後に、モスクワ大使館の協力もあったと語る。

「君の気をそらすためかも」「失敗ね」

と会話する。

ベスの想いを知っているのは(ドラマ上では)クレオだけだ。タウンズがそのことを知り、モスクワ大使館の協力もあって駆けつけることができたとあれば、ふたりの会話も気の利いたジョークではないのかもしれない。

そうなると、クレオがスパイ説はとても濃厚だ。蛇足。クレオがバーで飲んでいたのはパスティス。パスティスの元の意味はSe pastiser(まがいもの)の意味だ。

いよいよあと1話。ベスのチェス人生はどうなる?

眼の縁を真っ黒にしたメイク


ベルディックやベニーたちの仲間に支えられ、酒やドラッグを絶っていたベスだったが、この敗北で、ふたたび自堕落な生活へ逆戻りしてしまう。

酒を瓶でラッパ飲み、60年代の大ヒット曲ショッキング・ブルー「ヴィーナス」を聞きながら踊り、飲み、吐く(名シーン)。心配して訪ねて来てくれたハリー・ベルティックをガン無視。会場まで駆けつけてくれるが、「同情はいらない」とあしらい、「スーパーで働いてる人とは違う」と酷いことまで言ってしまう。

この時のベスは、眼の縁を真っ黒にしたメイク。「闇落ち」感の演出にしてはやりすぎ! と思った人もいるかもしれないが、これはショッキング・ブルーのボーカルのマリスカ・ヴェレスとそっくり。「ヴィーナス」の映像を観て真似たのだと考えるとオチャメである。

文・米光一成(ゲーム作家、代表作に『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』など)

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『クイーンズ・ギャンビット』

原作・制作:スコット・フランク、アラン・スコット出演:アニャ・テイラー=ジョイ、ビル・キャンプ、マリエル・ヘラー

文・米光一成

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