京本大我、主演ミュージカル『ニュージーズ』観劇ルポ。新たなプリンシパルの誕生を確信させた珠玉のミュージカル。

現在、東京日比谷の日生劇場にて、SixTONESの京本大我さん主演で絶賛上演中のブロードウェイミュージカル『ニュージーズ』。その観劇レポートをお届けします!

下町に生きる少年のしたたかな強さを見事に体現。


繊細で傷つきやすい蒼白のプリンスが、たくましさやしぶとさを手にし、グランドミュージカルを背負う頼もしいプリンシパルへと成長した――。

日生劇場で幕が上がった日本初演となるミュージカル『ニュージーズ』に、まさにそんな確信と手応えを得た。主演を務めたのが京本大我さん。昨年春、本稽古目前にインタビューしたときには、自身初のグランドミュージカルへの単独主演とあって、冒頭から不安と焦りを口にしていたのが思い出される。

思えば、あの頃すでにさまざまな公演が延期や中止を余儀なくされ、今作もまた開幕を危ぶまれている状況にあった。その心配は現実となり、結果的に1年半というブランクを経て、今回ようやく開幕にこぎつけたわけだ。

今年、稽古前におこなったインタビューでは、この空白の期間を「長かった」と振り返った京本さん。しかし、その口調には以前のようなプレッシャーに怯むようなニュアンスはなく、感じたのは、大きな一歩を踏み出そうとする強い決意のようなものだった。今思えば、このときに向け、それだけの準備を整えてきていたのに違いない。

オーバーチュアが流れ、哀切なトランペットの音色がやがてオーケストラとなり、待ちに待った幕が上がる。

京本さんが演じるジャックは、「ニュージーズ」と呼ばれる新聞売りの少年たちのリーダー格。彼らは、ほとんどが孤児やホームレスで、わずかな稼ぎのその日暮らし。そんななか、戦争が終結して以来、販売部数の低迷に頭を悩ませる「ワールド」紙のオーナー・ピュリツァー(松平健)が、利益を上げるために、一方的に卸値価格の値上げをニュージーズたちに通達。弱い者たちから搾取しようとする新聞社のやり方に怒りをおぼえたジャックは、仲間たちに声をかけ一斉ストライキを画策する。

ジャックは周りから慕われる存在とはいえ、貧しく粗野な一面を持ったキャラクター。最初に京本さんが演じると聞いたときには、正直、その美しい顔立ちや、彼自身の生まれ育ちが、ジャックに邪魔になるのではないかと懸念した。なにせ同じ小池修一郎さん演出のミュージカル『エリザベート』では、皇太子・ルドルフを演じていたくらいだ。

しかし冒頭から、それがまったくの杞憂だったと思わされるどころか、舞台に立つ京本さんは堂々として頼もしく、荒っぽい口調には、ニューヨークの街で生き延びてきたジャックのしたたかさや自負のようなものも滲み出ていた。

そして何より目を見張ったのが歌だ。今作の作曲を手がけたのは、『アラジン』をはじめ『美女と野獣』や『リトル・マーメイド』などで知られるアラン・メンケンによるもの。もともと澄んだ歌声の持ち主ではあるが、メンケンの美しい旋律を確かなピッチで力強く歌い上げる。新聞社の一方的なやり方に怒りの声を上げる「The World Will Know」、仲間たちを集めストライキを蜂起する「Seize the Day」。自身の不甲斐なさに咆哮するような「Santa Fe」。

セリフがきちんと届いてくる澄んだ明快な声と、感情がストレートに伝わる歌の表現力。かつて、「ミュージカルで活躍されている同世代の方々と比べて、出演作品の数が少ないし、舞台自体も年に1本やれているかどうか。それで、ミュージカルをやっていますって言うのもおこがましくて…」(anan2197号)と話していたが、何をか言わんや。紛れもなく、グランドミュージカルを背負って立つプリンシパルのひとりであることを証明してみせた。

それだけではなく、ニュージーズたちが集結し踊る場面では、躍動感のあるエネルギッシュなダンスも披露し、役柄の人間としての強さや、主演たる存在感の大きさを感じさせた。しかしジャックは、けっして正義一辺倒のスーパーヒーローではなく、自らの生活と、仲間との友情、夢、信念…さまざまな葛藤の中で揺れ動き、苦悩しながら、少しずつ自分なりの正解を導き出してゆく。そんな泥臭い姿を真正面からまっすぐに、熱く演じ、胸を打つ。

その他のキャストも素晴らしい。ニュージーズたちのストライキを取材する若き記者・キャサリンを演じているのは、元宝塚歌劇団雪組トップ娘役の咲妃みゆさん。本人の持つキュートさはそのままに、取材のためにニュージーズたちの中に果敢に入っていく度胸や、意思を貫いていく強さを丁寧に表現。それでもただの強い女≠ノならず、そこに可憐さを感じさせるのは、咲妃さん自身の持つヒロイン力の高さゆえ。何事にも一生懸命で嘘がなく、一直線な彼女の姿は、職を手にする女性であれば、誰もが応援したくなるはずだ。

加藤清史郎さん演じるデイヴィは、家計を支えるために弟と共に新聞売りに加わる少年で、聡明さや冷静さでジャックの参謀的な役割を担うキャラクター。子役時代からのキャリアに裏打ちされた確かな演技力と歌の実力で、説得力を高めてくれていた。

そしてもうひとりのジャックの相棒であり、親友でもある足の悪いクラッチーには、松岡広大さんが扮している。松岡さん自身の持つストレートな明るさが役柄に重なり、骨太な物語にピュアな光をもたらしてくれる。片足を引きずりながら歩く役柄だけに、ダンス巧者である松岡さんのキレの良い踊りは封印されていたが、ニュージーズたちに混じり杖をつきながらも踊る場面などでも、動きにまるで違和感がないのは、彼の身体能力の高さあってのものだろう。

そして、権力で少年たちを制圧しようとするピュリツァー役の松平健さんは、どこまでも大きく憎々しく。ジャックの絵の才能に気づきサポートしようとする劇場支配人のメッダを演じる霧矢大夢さんは、気風の良さと包容力を表現。すべての登場人物たちのピースがきれいにハマり、見事な調和が生み出されていた。

演出は、『エリザベート』や『モーツァルト!』をはじめ、数々の人気ミュージカルを手がけてきた、日本を代表するミュージカル演出家である小池修一郎さん。演出自体は、ほぼブロードウェイの舞台を踏襲する形ではあるが、オーケストラピットを使い、そこからニュージーズたちが飛び出してくる演出は、都会の片隅で逞しく生きる彼らの境遇を的確に表現。舞台を立体的に使うことで作品に立体感と躍動感が生まれ、より見応えのあるものになっていた。

これまでさまざまな大作を手がけてきた演出家らしく、大きな劇場を使いこなすテクニックはさすがの手腕。そしてこれまでにも、自身の作品で、何人もの若い役者たちを大きく飛躍させてきた演出家でもある。一体どんな手を使っているのかはわからないが、今回の京本さんもまさにだ。

開幕時に、「人生最大のチャレンジと言っても過言ではない程、高く大きな壁を目の前に感じながら日々稽古してきました」とコメントしているが、その大きな壁を見事に越えて見せた。間違いなく今作は京本さんの今後の名刺がわりになる一作だ。ここに新たなミュージカルのプリンシパルが誕生した。すでにこの先、どんな作品に挑戦してくれるのか期待に胸を膨らませている。

Information


10月30日(土)まで東京の日生劇場で上演中。11月11日(木)〜17日(水)には大阪の梅田芸術劇場メインホールでも公演あり。

詳細は公式サイトにて。

文・望月リサ 写真提供・東宝演劇部

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