松尾スズキ「きちんと感動させたいし、笑わせたい」 藤本有紀脚本の舞台を演出

宣伝ポスターはキュートなヒグチユウコさんのイラスト。松尾スズキさんの次なる舞台『パ・ラパパンパン』はファンタジー!?

藤本有紀作ミステリー・コメディ。緻密な演出に挑戦中。


「ホンがあがったときに、19世紀のイギリスが舞台になっていて、僕にはなじみがなくて少し戸惑いました。日本でいえば江戸時代。当時の風俗などをいま調べたりしています」

新作『パ・ラパパンパン』は、ドラマ『花より男子』や連続テレビ小説『ちりとてちん』などを手がけた藤本有紀さんが脚本を担当。松尾さんとは5年前にNHKの時代劇『ちかえもん』で主演と脚本家という形でタッグを組んだ。甘えた声でスランプを嘆く中年作家・近松門左衛門を“劇作家・松尾スズキ”が演じる妙味が評判を呼んだ。

「藤本さんはすごくいいセリフを書かれるし、コメディセンスもある。『ちかえもん』のあとにも『みをつくし料理帖』で僕がこれまでやったことのない役を書いてくれたりして、藤本さんのホンだったらやってみたいと舞台の脚本をお願いしました」

『パ・ラパパンパン』も作家が主人公。流れで不慣れなミステリーに手を出してしまったティーン向けの小説家が、編集者と共に「クリスマス・キャロル」を舞台にした殺人事件を書く。やがて現実と物語が交差していくというファンタジックなミステリー・コメディ。松尾さんは、これまでも野田秀樹作の『農業少女』やミュージカル『キャバレー』など、他の作家の戯曲を演出してきたが、新作を演出するのは初めて。

「一から構築する大変さを感じています。現実と物語の世界が不思議に絡み合っていく複雑なお話なんですよね。そこをうまく表現できたら面白いと思うんですが…。自分が書くときは、俳優の立ち位置や着替えの時間などを考慮しながら書き進めますけど、そういうこと一切おまかせになってるから(笑)、挑戦を受けているんだと思って頑張ってます」

藤本さんには「ミステリーであり、コメディ。ゴージャス感のあるエンターテインメントを」とオーダーしたのだそうだ。

「いつもの大人計画のように、細かいふざけを入れていったら、犯人の動機もわからなくなってしまうので、きちんとセリフを置いていかないといけないんです。テレビドラマのイメージで、藤本さんだからもう少し整理されたお話を書いてくださるのかと思ったら、思い切りはっちゃけていて、最後のほうはカオス。だいぶ僕の演出に寄せてきた感じ(笑)」

主人公の作家を演じるのは松たか子さん。松尾さんの監督作品『ジヌよさらば〜かむろば村へ〜』に出演しているが、初めて舞台で松尾演出を受ける。

「松さんは表現が的確。本読みのあとに稽古場に立った、その瞬間から完成されています。大胆でいて、やりすぎず品がいい。一流の女優というのはこういう人のことを言うんだろうと毎度思います。松さんにはぜひ歌っていただきたいねと、藤本さんと早い段階から話していました」

松さん演じる小説家にはどんな編集者がいいだろう? と白羽の矢が立ったのが神木隆之介さん。松尾さん作・演出の『キレイ−神様と待ち合わせした女−』で2年前に初舞台を踏んだばかりだ。

「『キレイ』ではずっとボケ続けている役だったので、今回はガラリと変えて知的な役をやっていただいて、松さんに延々突っ込み続ける(笑)。神木くんも松さん同様、特別な俳優だと思います。人前に立つことが特別じゃない人たちの居方でいるというか、構えがない。歌もうまい!」

確かな演技、笑いのできる俳優を集めて本物のエンターテインメントを作りたいと松尾さんは考えている。

「ベタを恐れないというか、きちんと感動させたいし、きちんと笑わせたい。小ざかしくふざけることにもう興味がなくなってきたんですよね。やればやるほど、エンターテインメントを作る難しさがわかってきました。でも、難しいことにチャレンジしていきたくなるんです。やんちゃな子なのでね(笑)」

COCOON PRODUCTION 2021+大人計画『パ・ラパパンパン』勢いでミステリーを書くことになったティーン向けの小説家。19世紀イギリスを舞台にミステリーを書き上げるが、真犯人が違うことに気づいてしまう。現実と物語が交差するなか、作家は真相究明に走る。11月3日(水)〜28日(日) 渋谷・Bunkamura シアターコクーン 演出/松尾スズキ 作/藤本有紀 出演/松たか子、神木隆之介、大東駿介、皆川猿時、早見あかり、小松和重、菅原永二、村杉蝉之介、宍戸美和公、少路勇介、川嶋由莉、片岡正二郎、オクイシュージ、筒井真理子、坂井真紀、小日向文世 S席1万1000円 A席9000円 コクーンシート5500円 Bunkamura TEL:03・3477・3244(10:00〜18:00)大阪公演あり。

最新刊『人生の謎について』で新境地に。深淵なるものが詰め込まれた渾身エッセイ。


「書くことの興味の対象が移り変わってきたんですよね」と松尾さん。以前は文章で笑わせることを核としていたが、最新エッセイは肚にずしりとくる内容。夢破れた青春時代から劇団創世記、家族に対する複雑な思い、コロナ禍の閉塞感など、ヘビーな事象も物語のような、独特の抒情を醸し出している。「自分の見た目が津川雅彦みたいになっちゃったので、ふざけた文章が似合わないと思ったんです」。人生の味わい深さが沁みる一冊。

『人生の謎について』 重厚感ある自身のポートレートがカバーの、哲学書のような装丁。縦長でペーパーバックのような軽さもある。坂本千明さんの挿画が利いている。小社刊 1760円

まつお・すずき 1962年12月15日生まれ、福岡県出身。’88年に「大人計画」を旗揚げ、多数の作・演出を務める。2019年『命、ギガ長ス』で読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞。’20年よりBunkamura シアターコクーン芸術監督に。

スーツ¥95,700(ビームスエフ) ネクタイ¥17,600(フランコバッシ) シャツ¥41,800(ルイジボレッリ) チーフ¥8,800(ロワドゥラック) 以上ビームス 六本木ヒルズ TEL:03・5775・1623

※『anan』2021年11月10日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE) スタイリスト・安野ともこ ヘア&メイク・鹿島結花(APREA) インタビュー、文・黒瀬朋子

(by anan編集部)

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