「オレオレ詐欺は日本の母親と息子の象徴」注目の女性監督が語る社会の影

3月もさまざまな話題作が並ぶなか、どれを観たらいいのか悩んでいる人もいるのでは? そこで今回は、大人の女性にオススメしたい注目の1本をご紹介します。

『親密な他人』


【映画、ときどき私】 vol. 467

行方不明になった最愛の息子・心平を探しているシングルマザーの恵。ある日、息子の消息を知っているという20歳の謎の青年・雄二から電話が入り、呼び出される。雄二から心平の持ち物を渡された恵は、不審に思いながらも、マンガ喫茶に寝泊まりしているという雄二を自宅に招き入れることに。

やがて二人は親子のような、恋人のような不思議な関係になっていく。しかし、雄二には隠された目的があり、恵もまた誰にも言えない秘密があった。だまし、だまされた果てに見つけた衝撃の真実とは……。

幅広い作品で唯一無二の存在感を放ってきた女優・黒沢あすかさんと、映画やドラマへの出演が絶えない注目の俳優・神尾楓珠さんの共演でも話題となっている本作。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

中村真夕監督


『ハリヨの夏』で監督デビューしたのち、ドキュメンタリー映画などを手がけ、国内外で高く評価をされてきた中村監督。今回は、初のサスペンス映画となった意欲作に込めた思いや完成までの苦労などについて語っていただきました。

―長編劇映画の公開は久しぶりとなりますが、制作の過程について教えてください。

監督 資金面などで時間がかかってしまったのでこのタイミングとなりましたが、企画自体はずっと温めていたものでした。メインストーリーはあまり変わっていないものの、設定をコロナ禍に書き直したので、親密になることが怖い時代が背景になったことでテーマがより強調されたように感じています。結果的には、いま制作できてよかったのかなと思っているところです。

―本作のきっかけとなったのは、イギリスとアメリカで14年間を過ごした監督が帰国した際、日本人の母親と息子の関係性に驚いたことだったとか。

監督 久しぶりに日本に戻ってきたとき、18歳になったら家を出て行けという欧米に比べて、母親の息子に対する執着や愛情の度合いがまったく違うと感じました。これは日本だけでなく、韓国や中国でも見られることなのでアジア的な考えなのかもしれませんが、母と娘にはない不思議な関係性だなと。

そして、それを象徴しているのが、日本で多いオレオレ詐欺。男の子が大事にされている社会だからこそ、こんなにも簡単にだまされてしまうんだろうなと思いました。実際、娘を装ったワタシワタシ詐欺って聞かないですよね。

大人の女性が観たい映画を作りたかった


―確かにそうですね。そのほかにも、何か参考にされたものはありましたか?

監督 ここ数年、一組の母親と息子が世間をにぎわせていたと思いますが、実はその“Kさん親子”にも私は注目していました。特に興味深いのは、お母さんのほうですが、息子を通して自己実現を図ろうとしているところがありますし、清楚な奥さまの格好をしているようでちょっと色っぽさもある。そういうところが叩かれている部分でもありますが、おもしろい人だと思いました。

今回、恵の衣装を決めるうえでも、彼女の写真をいくつかプリントアウトして、「こういう感じにしてほしい」とスタッフにも相談したほど。それを受けて、外出するときは青山にいるマダムのような服を着ているけれど、家のなかでは女らしいセクシーな格好にしてもらいました。

―ということは、いまだからできた部分も多かったと。

監督 確かに、コロナ禍とKさん親子が合体してできたところはありますね。あと、中心にあったのは「女性は妻となり、母となったら女であることを捨てなければいけないのか」という私が以前から抱いていた疑問。本作のように親子ほど離れた年上女性と若い男性の間にエロティックな要素があると、「気持ち悪いからエロは抜いてください」と言われたこともありましたから。でも、女性が妻や母となったら女であってほしくないという考えは、男性の独りよがりなのではないかなと私は思っています。

おそらく男女が逆だったらそんなことは言われなかったでしょうが、資金を出してくださるサイドには男性が多いので、大人の女性を主人公にした企画を通すのが難しいのが現状です。いっぽうで、若い女性に好かれる年上男性を描いた“おじさんの妄想映画”のような作品はいまでも多い印象ですが……。そういったこともあって、今回は大人の女性が観たい映画を作りたいという思いが強くありました。

女性が自分を活かしきれない世の中にも問題がある


―そういった社会の風潮も、母親や息子に依存してしまう理由につながっているのでしょうか。

監督 母親が息子を恋人のように見たり、子どもを通して自己実現しようとしたりするのは、女性が自分たちを活かしきれていない世の中に生きていることの裏返しなのではないかなと考えています。日本だと女性が性的に魅力的なのは30代前半くらいまで、みたいな空気がありますよね。

でも、いくつになっても女性としての魅力を男性たちがきちんと認めてくれていたら、こういったいびつな感じにはならないのではないかなと。決して男性だけのせいにしているわけではありませんが、社会の構造的にそうなっている責任は大きいと感じています。

―劇中では、女性が内に秘めている女の部分を恵の下着やペディキュアの色でも表現されていたように感じましたが、意識された点があればお聞かせください。

監督 そこはすごくこだわりましたね。コロナ禍の影響で変更しなければいけなくなってしまったのですが、実は撮影をする直前まで恵は看護師の設定だったんです。その際に行っていたリサーチで、看護師さんたちは表に女らしさを出せない代わりに、意外と派手な下着をつけているらしいという情報を聞いたので、それを使いたいなと。

先ほどのKさんのお母さんともつながっているところですが、一見おばさんのようで実は“魔性の女”みたいな人物がおもしろいと思ったので、そのあたりは細かく作り上げていきました。

女性のアイディアがたくさん入った作品となった


―また、家電の無機質な音や部屋の装飾なども、効果的使われていたと思いますが、そこにもメタファーがありますか?

監督 まず部屋や押し入れのイメージは、恵の子宮です。そのうえで、そこに入ってしまったらもう戻れなくなるような感じを出したいと思いましたし、洗濯機や換気扇から出る暴力的な音は部屋が彼女の狂気を秘めた空間になるように入れました。

ほかにも、部屋のなかに変わったカーテンがあるのですが、あれは婦人科の検査台に使われているカーテンからインスピレーションを得たもの。欧米の婦人科ではああいったカーテンを見たことがなく、恥じらいのある日本ならではだなと驚いた経験があったので、ぜひ使いたいなと。今回は、衣装も美術も女性が担当しているので、女性のアイディアがたくさん入った作品になっていると思います。

―観客に委ねる展開を多く取り入れているのは、最初から決めていたことですか?

監督 そうですね。私のなかではすべて答えがありますが、見えないからこそ怖いというのがあるので、そういった部分を楽しんでいただいきたいなと。劇中では、開けてはいけない箱を開けてしまうシーンがありますが、そこもみなさんのご想像にお任せします。

―確かに、かなり想像力を掻き立てられました。そして何と言っても、恵を演じた黒沢あすかさんが非常に素晴らしかったです。キャスティングの決め手となったものは?

監督 脚本を開発している過程では、これを演じられる女優さんがなかなか思いつかずに悩みました。そんななか、過去作で見た黒沢さんは多面性があり、おばさんにも妖艶にもなれる本当に稀有な存在だなと。実際に黒沢さんと会ったときには、「この人だ!」と感じました。

ちなみに、フランスではイザベル・ユペールさんが68歳でもセクシーな役を演じていますが、日本の女優さんたちは年齢を重ねると良妻賢母を求められるような役柄ばかりだとか。そういったこともあって、黒沢さんにはフランス人女優のような存在になってほしいと思っています。

妻や母になったからといって女を捨てる必要はない


―それとともに、大人の女性たち向けの作品ももっと増えていってほしいですね。雄二役の神尾さんに関しては、どのような演出をされましたか?

監督 今回難しかったのは、演技派の神尾さんでも30年以上のキャリアを持つ黒沢さんと比べると、どうしてもレベルの違いが出てしまうということ。そこで、その差を埋めるために神尾さんにはアクティングコーチを付けて、彼だけリハをがっつりとさせていただきました。忙しいなかでも基礎トレーニングからしっかりと取り組んでくれたので、かなり変わったと思います。

―そのあたりも注目ですね。それでは最後に、これから観る方に向けてメッセージをお願いします。

監督 昨年、この作品を東京国際映画祭で上映した際、邦画には大人の女性が観たいと思う映画が少ないという声が上がりました。以前から男性監督が描く女性が“刺身のつま”のように感じることがあったので、私はしっかりとリアルに描きたいという思いを持って映画を作っています。

年を重ねた女性がセクシーでいることをバッシングするような社会って何だろうと思いますし、女性も妻や母になったからといって女であることを捨てる必要はないはずです。大人の女性が持つ女としての魅力や母性の持つ怖さなど、女性にはいろいろな顔があることをこれからも描いていけたらいいなと。大それたことを言うようですが、そういう意味で邦画を変えていけるような映画をもっと作っていきたいです。

親密な空間へと引きずり込まれていく!


母親の内に秘めた愛情と狂気に鋭く迫り、女性の持つ多面性を見事に描いた本作。独自の視点から現代社会を見つめ続けてきた中村監督だからこそ生み出された大人の女性による、大人の女性のための必見作です。

取材、文・志村昌美

胸がざわつく予告編はこちら!


作品情報


『親密な他人』ユーロスペースにて公開中ほか全国順次公開劇場情報はこちら

『親密な他人』トークイベント スケジュール3月24日(木) 16:15の回上映上映後ゲスト:瀬々敬久さん(映画監督)、中村真夕監督

3月25日(金)16:15の回上映後ゲスト:尚玄さん、中村真夕監督

3月26日(土)16:15の回上映後ゲスト:ジェイク・エーデルスタインさん(ジャーナリスト・「TOKYO VICE」原作者)、中村真夕監督*英語字幕版上映( with English subtitle)

3月27日(日) 16:15の回上映後ゲスト:黒沢あすかさん、中村真夕監督

配給:シグロ?2021 シグロ/Omphalos Pictures

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