「日本は世界で最高のドキュメンタリーを生み出した」映画オタク監督が語る日本映画愛

映画を観たいと思っても、あまりに多くの作品を目の前にすると、どの作品から観たらいいかわからなくなってしまうことはありませんか? そこで、作品選びに新たな視点を与えてくれる“究極の映画オタク”による注目のドキュメンタリーをご紹介します。

『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』


【映画、ときどき私】 vol. 490

毎年さまざまな映画が誕生するなか、本作がスポットを当てているのは、2010年から2021 年の公開作から厳選された傑作映画111 作品。そこには、『アナと雪の女王』や『ジョーカー』といったメジャー大作から、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督作『光りの墓』やアリ・アスター監督作『ミッドサマー』のインディペンデント作品まで、ジャンルを問わない世界中の映画が顔を揃えていた。時代とともにひも解く近代映画史の裏側とは……。

「映画の見方を確実に広げてくれる」など、海外メディアからも絶賛の声が上がっている本作。今回は、発案から20年近くの年月をかけて作品を完成させたこちらの方にお話を伺ってきました。

マーク・カズンズ監督


ドキュメンタリー監督としてだけでなく、映画に関する著書の執筆や映画解説番組のMC、映画祭のプログラマーを務めるなど、映画にまつわる幅広い活動に取り組んでいるカズンズ監督。365日映画を観て過ごし、これまでに観た映画の本数は約16,000作品にも及ぶほどの映画マニアとしても知られています。そこで、ananweb読者にオススメしたい映画や日本映画に対する思いなどについて、語っていただきました。

―作品からも監督の映画愛がひしひしと伝わってきましたが、そもそも監督と映画との出会いについて教えてください。

監督 僕が映画に恋に落ちたのは8歳半の頃。北アイルランドにあるベルファストで生まれ育ちましたが、1970年代当時は内戦が繰り広げられていたので、外は非常に重苦しい雰囲気が漂っていました。そんななか、映画のなかだけは光り輝いていて、とても大胆で自由な世界に感じられたのです。

映画によって僕自身が救われたというか、広い世界があることを教えてもらうことによって僕の目が開かれていきました。そして、その感覚はいまでも続いていると言えると思います。だから僕にとって映画は、生涯にわたっての情熱なのです。

―それではさっそくですが、“映画オタク”の監督にananweb読者に向けてシチュエーションに合わせたオススメ作品を教えていただきたいです。まずは、恋愛に悩んでいるときの映画といえば、何ですか?

監督 それは、1960年のアメリカ映画でビリー・ワイルダー監督の『アパートの鍵貸します』。出世のために自分のアパートを上司と愛人の密会場所として提供していた男が、想いを寄せる女性もアパートに出入りしていたことを知るロマンティック・コメディです。この作品からは、恋愛というのは甘くて喜びをもたらすものではあるけれど、同時に苦みやつらさももたらすものであるというのを感じられると思います。

―続いては、仕事のモチベーションを上げてくれる1本を教えてください。 監督 こちらもアメリカ映画になりますが、1980年にジェーン・フォンダが主演を務めた『9時から5時まで』。それぞれに事情を抱えた女性たちが職場で搾取されている様子を映し出した作品で、モラルやジレンマもきちんと描きつつエンタメ度の高い作品となっています。

日本には素晴らしい監督がたくさんいる


―3つ目のテーマは、コロナ禍や戦争など厳しい社会状況のなかで生きる私たちがまさにいま観るべき映画です。

監督 2本ご紹介したいのですが、はじめは1947年の小津安二郎監督作『長屋紳士録』。戦後まもない頃に、ある女性が孤児を引き取ることになるところから始まります。最初は、2人の関係があまりうまくいっていないように見えますが、その裏には人間愛が満ち溢れているので、大変なときだからこそ生き抜く姿がいまに合っている作品ではないかなと。私は映画を勉強している学生にもこの作品を見せるようにしていますが、すべての行動は愛によるものだというのを知ってほしいです。

そしてもう1本は、1993年に公開された相米慎二監督の『お引越し』。これは両親が離婚をした10代の子どもの目線で描かれていますが、これからの世界や自分の将来がどうなってしまうのかという部分を見せている作品です。その目線というのが、とても素晴らしいのでオススメしたいと思っています。

―いずれも興味深い作品をありがとうございました。監督は、もしも世界で映画産業の発展を妨げるような脅威が発生したとして、たった1つの国の映画文化しか助けられないとしたら、迷わず「日本」と答えるそうですが、そこまで日本映画に傾倒するようになったのはなぜですか?

監督 まず、理由のひとつとしては、世界でも最高のドキュメンタリー映画は日本の作品だと思っているからです。特に、原一男監督や小川紳介監督による小川プロダクションの一派の作品は本当に素晴らしいと感じています。

それから、子どもの映画を描かせたら日本映画の右に出る者はいないのではないかなというのもありますね。あと、みなさんは「クラシックな映画」と聞くと『カサブランカ』や『雨に唄えば』といったアメリカ映画を想起しがちですが、本当の古典作品というのは、日本の1930年代から50年代にかけて作られた日本の作品だと僕は思っています。30年代前後の清水宏監督や小津安二郎監督にはじまり、社会変革が起きた60年代には今村昌平監督や大島渚監督など、日本には素晴らしい監督がたくさんいるわけです。

次の世代を育てるための流れを確立すべき


―監督の日本映画愛は伝わってきましたが、本作で取り上げた日本映画は111本中『万引き家族』の1本のみでした。ここ10年ほどの日本映画に関しては、どのように捉えていますか?

監督 最初にお伝えしておきたいのは、イギリスで観られる日本映画は限られているので、どんなにいい作品があったとしても、すべてを観る機会がなかったからというのが理由としてありました。ただ、正直なお話をすると、かつては素晴らしい映画が作られていたけれど、最近は以前に比べて質が落ちている国もあります。たとえを挙げるなら、イタリア、ロシア、そして日本です。もちろんいい作品もありますが、かつてほどではないと感じる部分はあります。

それが何によって引き起こされているのかを考えてみると、スタジオのシステムや映画教育の環境、そして社会的な変革によるものではないかなと。あとは、先輩の映画作家たちがこれから来るべき世代にメンターとして教える流れがうまく確立されていないようにも感じています。

とはいえ、いまの時代における傑作のひとつ『ドライブ・マイ・カー』を生み出した濱口竜介監督や残念ながら最近亡くなられた青山真治監督など、映画に対して高い情熱を持っている方もたくさんいらっしゃいますからね。日本の映画教育において、過去の偉大な作品をきちんと教える必要性はあるということは言えるのではないでしょうか。

知らない作品も、まずはお試しで観てほしい


―そんななか、今後の日本映画界に期待していることはありますか?

監督 女性監督がもっと増えてもいいはずですし、作品のジャンルについてもより広いものを扱っていくほうがいいのではないかなと思っています。日本にはアニメがありますが、それとは別に映画の在り方そのものを見直すべきところもあるのかもしれません。

あと、日本で映画を学んでいる学生と話していたときに感じたのは、日本には映画制作の助成金や支援制度が十分ではないこと。もっと若手を育てていくことに力を注ぐべきではないかなと感じました。

―その通りだと思います。それでは、日本の観客へ向けてメッセージをお願いします。

監督 この映画は、感情をフル活用しながら、ぜひ子どもの目線で観てほしいと考えています。おそらくタイトルも聞いたことのない作品も含まれていると思いますが、それでも大丈夫です。ここではお試しみたいな感じで知ってもらえればいいので、ちょっとつまみ食いしてみて、おいしいなと感じたら、本格的にその映画を味わってもらえればと思います。

奥深い映画の旅へと誘われる!


知られざる映画の裏側を見せるだけでなく、新たな発見と驚きに満ちた必見のドキュメンタリー。まさに“映画の教科書”とも言える本作は、これからの映画鑑賞に多大なる影響を与えること間違いなしです。

取材、文・志村昌美

魅了される予告編はこちら!


作品情報


『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』6月10日(金)新宿シネマカリテ他、全国順次ロードショー!配給:JAIHO?? Story of Film Ltd 2020

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