藤田貴大「再演はしたいけどしたくない…」 沖縄戦を描く、舞台『cocoon』3度目の上演

ほんの少し前まで、友だちと何気ないおしゃべりで笑い合っていた少女たちが、否応なく戦場に駆り出され、爆撃の恐怖や死に晒されていく。今日マチ子さんが描いたひめゆり学徒隊から着想を得た漫画を原作に、2013年に藤田貴大さんにより舞台化された『cocoon』。題材はもとより、印象的な場面を繰り返すリフレインと呼ばれる演出、シンプルな中に素朴な美しさを感じさせる舞台ビジュアル、心に直接響く音楽で、エモーショナルな瞬間を何度も生み出し、深い感動を呼んだ。この傑作舞台が3度目の上演を果たす。

2013年の初演以来、進化を続ける藤田貴大の傑作舞台が待望の再演。


「正直、この作品ってすごく自分のメンタルが削がれるんです。再演を待ってくださっている方の多い作品ではあるし、再演はしたいけどしたくない…みたいな。それでも、音楽の原田郁子さんと別の作品でご一緒しながら、何度となく、次また『cocoon』をやるならば、という話をしていました。そうしているうちに、前回やっていなかった新しい演出だったり舞台美術のイメージだったりが浮かんできて、それをやりたいなと思ったんです」

本来上演されるはずだったのは、一昨年夏。そこに向けて大々的なキャストオーディションもおこなった。

「主要キャストの3人以外は、’15年の再演メンバーも含めて全部オーディションで選びました。というのも、前回と同じやり方をしても、あれ以上のものにはならないと思ったから。いたずらに“面白い演劇”と言えない題材ですし、キャストには、この作品に参加したいという明確な意志が必要な気がして。ひめゆり学徒隊に参加したのはごく普通の女学生たちですし、俳優として達者であることより、どこまで生々しい声を届けられるかを念頭に置きました」

延期を経ての待望の上演となるが、この2年の間にも何度となくメンバーを招集し、作品を進化させてきた。その間には、藤田さんの中で大きな変化も。それは那覇の劇場と共同製作した『Light house』という舞台のために、あらためて沖縄と向き合ったことが大きい。

「沖縄戦は77年前に終わったけれど、何も終わっていないんです。沖縄は戦後ずっとアメリカの占領下に置かれていましたし、返還後の今も基地問題と向き合い続けている。そこに思い至った今の僕には、’15年に再演したときと同じ終わりは描けない。その終わっていないというところまでやりたいし、やらなきゃいけないと思っています」

しかもこれまで上演していたのは、客席数300程度の小空間だったが、800席以上の大きな劇場へと場を移す。単に規模が大きくなるだけでなく、演出も演技も、作品から発せられる熱量も、広い劇場空間の隅にまで届けなくてはならない。

「ツアーで訪れる劇場の中には1200人というキャパシティのところもあります。ただ僕も、ここまでの間にいろんな作品を手がけてきて、大きな劇場も何度も経験させていただいてきて、自分の中ではそこまで劇場の大きさをマイナス要素として感じなくなっています。もちろん小さな空間で生み出される濃密さとか迫力というものはあります。でも、大きな空間には大きな空間にしかない音の響きというのもあって、暗闇の中からボンッて音が聞こえてきたときの音の響きとか、これまでとはまた違う印象を受けるはず。もちろん舞台面の使い方も新しくするつもりで、今回は映像も使いながら、スクリーンと舞台面が一体化するような映し方を考えていますし、スモークを使ったり、いろんなことに挑戦してみようと思っています」

戦争の話だというと、どうしても薄暗い灰色のイメージがつきまとう。しかし思いを巡らせれば、沖縄戦とは、南国の太陽の下、コバルトブルーの美しい海を背に繰り広げられていたもの。開放的な場所だからこそ、逃れようのない戦争の恐怖はより閉塞感をもって少女たちに迫ったのではないか、とも思える。大劇場だからこそ伝わるものもあるはずだ。

一昨年から延期されたことで、偶然ではあるが沖縄返還50年というタイミングに上演されることになる。

「数字は数字で、そこに意味はないとは思うんです。ただ節目を迎えることで、あらためて思い出したり、そこに思いを馳せる機会にはなると思うんですね。しかも今も世界では戦争が起こっているわけで、『cocoon』も、前回上演したときとは観客の方の見方そのものが変わっているはず。戦争が身近になっている今、この作品がどう受け止められるのか試されているなと思います」

マームとジプシー 15th anniversary year vol.2『cocoon』 南の島の高校で、戦時下の中でも楽しみを見つけ、青春を謳歌していた女子高生たち。しかし徐々に戦況が悪化。授業ができなくなり、彼女たちは看護隊として動員されることになるが…。7月9日(土)〜17日(日) 池袋・東京芸術劇場 プレイハウス 原作/今日マチ子(秋田書店) 作・演出/藤田貴大 音楽/原田郁子 出演/青柳いづみ、菊池明明、小泉まき、大田優希、荻原綾、小石川桃子、佐藤桃子、猿渡遥、須藤日奈子、高田静流、中島有紀乃、仲宗根葵、中村夏子、成田亜佑美、石井亮介、内田健司、尾野島慎太朗 S席6000円 A席5500円ほか 東京芸術劇場ボックスオフィス TEL:0570・010・296 長野、京都、愛知、福岡、沖縄、埼玉、北海道公演あり。2015年『cocoon』舞台写真

ふじた・たかひろ 1985年4月27日生まれ、北海道出身。演劇ユニット「マームとジプシー」を主宰し、作・演出を務める。2012年に岸田國士戯曲賞を受賞。’16年には再演の『cocoon』で読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞した。

※『anan』2022年7月6日号より。インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)

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