『ベイビー・ブローカー』に抜擢のイ・ジュヨン「日本の俳優で会ってみたいのは…」

いまや世界的な映画監督となった是枝裕和監督の最新作にして、カンヌ国際映画祭で2冠に輝いたことでも話題となった『ベイビー・ブローカー』。そこで、国内外の観客を魅了している本作について、こちらの方にお話をうかがってきました。

イ・ジュヨンさん


【映画、ときどき私】 vol. 497

日本でも大ヒットを記録したドラマ『梨泰院クラス』でトランスジェンダーという難しい役どころを見事に演じ、新世代スターとして一躍注目を集めたイ・ジュヨンさん。劇中では、赤ちゃんポストに預けられた赤ん坊をこっそりと連れ去る“ベイビー・ブローカー”を追跡するイ刑事を演じています。今回は、是枝監督の現場で感じたことや韓国が誇る名優たちから学んだこと、そしてこれからのビジョンについて語っていただきました。

―是枝監督は、まっすぐでさわやかなイ刑事にぴったりだと思って声をかけられたそうですが、お話があったときのお気持ちからお聞かせください。

イ・ジュヨンさん ドラマの撮影中に是枝監督からお電話をいただいて、少しだけお話をしたのが最初でした。ただ、そのときは単なる打ち合わせをしたいのか、それとも監督の前でオーディションをするのか、よくわからなかったので、正直に言うと、まさか自分がこの作品に参加するとは思っていなかったんです(笑)。

その後、監督が韓国で映画を作る準備をしていることを知り、会って話をしたいというご連絡をいただいてからはかなり緊張してしまいましたが……。でも、初めてお会いしたときの監督の印象がとてもよかったことと、私と一緒に映画を撮りたいとはっきり言ってくださったので、その言葉を聞いて気持ちが楽になったのを覚えています。

―実際に是枝監督の現場に入られてみて、印象に残っていることや演出面で驚いたことなどもあったのでしょうか。

イ・ジュヨンさん 映画というのは、基本的にフィクションであることが前提ではありますが、そんななかでも「本物の感情とは何か?」とつねに考えていらっしゃるのが是枝監督。そういったこともあって、私が現場で居心地の悪さを感じていたり、自分の気持ちを装っていたりすると、監督がすぐに察知して、緊張をほぐすようなディレクションをしてくださいました。

そのおかげで、現場は本当にいい雰囲気だったと思います。この作品はロードムービーのような性質がありますが、実際に旅行をしているような感覚で撮影をしていましたし、共演者の方なかには「現場が遊び場みたいだ」と言っていた人もいたほど(笑)。それくらい是枝監督というのは、俳優たちを楽しくさせ、自由に解放させてくれる監督だと感じました。

たくさんの刺激とともに、学ぶことも多かった


―劇中では同じく刑事役のペ・ドゥナさんとのシーンがほとんどでしたが、ご一緒されてみて印象に残っていることがあれば教えてください。

イ・ジュヨンさん おそらくみなさんもすでにご存じだとは思いますが、ペ・ドゥナさんは本当に魅力的な方でした。今回の作品で私がペ・ドゥナさんから教わったのは、相手の俳優と呼吸を合わせることの大事さ。そういったことは演技をするうえで大切だと思ってはいましたが、ペ・ドゥナさんのおかげで改めて感じることができました。

あと、誰も思いつかないようなアイディアを出されることも多かったのは印象的でしたね。しかも、それらは事前に考えて準備しているものではなく、現場でその役になりきった状態で私たちに投げかけてくださるので、たくさんの刺激を受けるとともに学ぶことが多かったです。

―また、本作では主演のソン・ガンホさんが、韓国人俳優初となるカンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞。是枝監督も役作りへのこだわりには驚いたそうですが、イ・ジュヨンさんも先輩のすごさを垣間見た瞬間などあったのでは?

イ・ジュヨンさん 残念ながら今回はソン・ガンホさんと一緒のシーンはありませんでしたが、ソン・ガンホさんは、ご自分の出番が終わったあとでも現場に残り、いつも私たちの撮影に付き合ってくださいました。逆に私もソン・ガンホさんが演技をされているところをモニター越しで見させていただいたことがあったのですが、驚いたのは屋上で洗濯物を干しているシーンを撮っていたときのこと。

電話で話しているソン・ガンホさんが洗濯物の間から顔をのぞかせているようなアングルなのですが、立ち位置も含めて、すべてが巧妙でまさに映画的。その画がとにかく美しくて、さすがベテラン俳優だと感じました。作品のなかでは見逃してしまいそうなほど些細なシーンではありますが、そういうところだからこそ、俳優の存在が光るもの。改めてほかの俳優との違いを実感しました。

日本との縁をもっと広げていきたいと考えている


―日本についてもおうかがいしたいのですが、これまで日本にいらっしゃったことはありますか?

イ・ジュヨンさん 実は、5年ほど前にドラマの撮影期間中にもらった休暇で、友達と小樽を旅行したことが一度だけありました。というのも、私は大好きな岩井俊二監督の『Love Letter』のロケ地を巡りたかったので。おかげでそのときは、とても楽しい時間を過ごすことができました。

―今回、久しぶりに来日されてみて日本の印象はいかがでしょうか。

イ・ジュヨンさん 普段、日本のファンからいろいろなメッセージを受け取ることはありますが、あまり実感する機会がなかったので、正直に言うと「日本の方は、本当に私のことを知ってくださっているのかな?」と不安に思ったことも。でも、空港でみなさんが歓迎してくださって、本当にうれしかったです。

―『Love Letter』が大好きということですが、日本の映画やドラマはよくご覧になりますか? もし、いつか会ってみたい方や一緒にお仕事をしてみたい方がいれば教えてください。

イ・ジュヨンさん 私は菅田将暉さんの演技や雰囲気が大好きで、『コントが始まる』をはじめ、最近出演されたドラマや映画は全部観ています。いま、韓国でも大人気で非常にホットな俳優さんですからね。

あと、先ほどお話した岩井俊二監督とは縁がありまして、『ラストレター』という作品が韓国で公開されたときのプロモーションで監督と手紙のやりとりをするという企画に参加したことがありました。コロナ禍で直接会うことではできませんでしたが、とても楽しい思い出です。機会があれば、ぜひ日本の監督や俳優さんとの縁をもっと広げていけたらいいなと思っています。

内面を深めていきながら年を重ねていきたい


―楽しみにしています! 今年で俳優デビューから10年、さらに30歳という節目も迎えられました。ご自身でも、今後についてはいろいろと考えていらっしゃるのではないかなと。

イ・ジュヨンさん この仕事は次にどんな作品が来て、何をするのかがまったくわからないので、不安にもなりますが、それが楽しいところであり魅力でもあると感じています。これから先もどうなるかはわかりませんが、声をかけていただいたときに、そのときの私を最大限に引き出せる演技ができればいいなと。

30歳になって自分の価値観や人生に対する考えが変わってきたところもありますが、いままでもそうやって仕事をしてきたので、これからもそうできればいいですね。あと、これは『ベイビー・ブローカー』の撮影を終えて感じたことですが、グローバルに活動することの意味も知ったので、今後はもう少し国際的な仕事にも携わっていきたいと思っています。

―役によっても雰囲気が変わりますが、自然体なところにも魅力を感じている人は多いと思います。ご自身で何か意識されていることはありますか?

イ・ジュヨンさん そういうふうに感じていただけることはありがたいですし、自分が演じた役で愛されることは本当に幸せな経験だと思っています。そのいっぽうで、私という人間の内面や私の趣味といったことにも関心を持ってくださる方がいることにも面白さを感じてるので、これからは私の人間性をもっと見せていけたらと。私自身の内面を深めていきながら年を重ねていきたいので、その様子をみなさんにも見守っていただきたいです。

―それでは最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

イ・ジュヨンさん ドラマ『梨泰院クラス』や映画『野球少女』といった私が参加した作品が日本で愛されていると知り、本当に私はラッキーだと思っています。是枝監督からは韓国のコンテンツが好きだと言っていただいていますが、私も日本のドラマや映画にとても関心を持っているので、これからも日本と韓国のコラボ作品が数多く作られたらいいなと。

まもなく『梨泰院クラス』のリメイク版である『六本木クラス』の放送が始まるということなので、私も拝見できるのを楽しみにしています。これからも、みなさんに応援していただけたらうれしいです。

インタビューを終えてみて……。


飾らない優しい笑顔を見せながら、一つ一つの質問に丁寧に答えてくださったイ・ジュヨンさん。特に、日本のことについて話しているときの楽しそうな姿が印象的で、こちらまでうれしい気持ちになりました。今後も、日本に関わりのある作品への出演をぜひ楽しみにしたいと思います。

ささやかな日常に生まれてきた喜びを感じる


是枝監督ならでは世界観のなかで、命や生きること、そして家族とは何かにまっすぐと向き合っている本作。心に響く美しいストーリーとともに、最高のキャストによる繊細な演技が堪能できる必見作です。

取材、文・志村昌美 撮影・依田佳子

ストーリー


ある土砂降りの雨の晩、若い女ソヨンは赤ん坊を〈赤ちゃんポスト〉に預けていた。その赤ん坊をこっそり連れ去ったのは、借金に追われながら古びたクリーニング店を営むサンヒョンと、〈赤ちゃんポスト〉がある施設で働く児童養護施設出身のドンス。彼らの裏稼業は、ベイビー・ブローカーだったのだ。

翌日、思い直して戻ってきたソヨンは、「赤ちゃんを大切に育ててくれる家族を見つけようとした」という2人の言い訳にあきれながらも、成り行きから一緒に養父母探しの旅に出ることに。そんな彼らを検挙するため、ずっと尾行していたのは、刑事のスジンと後輩のイ刑事。現行犯逮捕しようと、静かに後を追っていたのだが……。

引き込まれる予告編はこちら!


作品情報


『ベイビー・ブローカー』全国公開中配給:ギャガ

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