世界で初めてレストランを作った男…食で起こした革命の舞台裏【映画】

いつの時代も、人々の心を動かすものといえば、おいしい料理。そこでオススメする1本は、美食の国フランスを舞台に、料理で“革命”を起こそうと奮闘する主人公の姿を描いた注目作です。

『デリシュ!』


【映画、ときどき私】 vol. 516

1789年、革命直前のフランスで、誇り高い宮廷料理人として働くマンスロン。ある日、自慢の創作料理「デリシュ」にジャガイモを使ったことで貴族たちの反感を買い、主人である傲慢な公爵に解任されてしまう。息子と共に実家へ戻ったマンスロンは、もう料理はしないと決めていた。

そんななか、訪ねてきたのは、彼のもとで料理を学びたいという謎の女性ルイーズ。はじめは不審がっていたマンスロンだったが、彼女の真っ直ぐな想いに触れるうちに料理への情熱を取り戻す。そして、ついにふたりは世界で初めて一般人のために開かれたレストランを営むことに。ところが、店はたちまち評判となり、公爵にその存在を知られてしまうのだった……。

タイトルの『デリシュ!』とは、フランス語で「おいしい」という意味を持つ単語ですが、食欲をそそる料理が次々と登場する本作。今回は、こちらの方にお話をうかがってきました。

エリック・ベナール監督


1999年に長編映画監督デビューをはたしたのち、おもに脚本家としてキャリアを積み重ねてきたベナール監督。本作では長編7本目の監督作にして、初の時代劇に挑戦しています。そこで、制作過程の苦労話や料理シーンの裏側などについて、語っていただきました。

―まずは、この題材に行きついた経緯から教えてください。

監督 今回は、フランスのアイデンティティを形作るものに焦点を当てたいという思いから始まりました。劇中の時代は、自分の名前や地位、血統といったものよりも、自分が何をするかが重要視され始めたとき。そこから権利や可能性の平等が生まれていくので、庶民層の人が自分の才能を周りに提案していく様子と提案される側の人々の姿、その両方を見せたいと思いました。

特にレストランというのは、出自に関係なく、貴族も庶民もみんなが食事をする場所なので、まさにその過程のシンボル。そういったなかで、新しいアイデンティティが作られていくと考えたのです。

―何と言っても料理のシーンが見どころでしたが、撮影時には苦労も多かったのではないでしょうか。

監督 私自身、料理はわりと好きなほうではありますが、すごく得意というわけではないので、本物のシェフに来てもらって一緒にやる必要がありました。ただ、フランスのことわざに「船頭が2人いると船は転覆する」というものがあるように、指示する人が多いがゆえの大変さはあったと思います。

形や中身は、試行錯誤しながら作り上げた


―つまり、映画監督とシェフでは、お互いが求めているものに違いがあったと。

監督 映画界も料理界も非常に縦社会で、時間との戦いなので、共通点は多くあると思います。ただ、おいしいものを作らなければいけないというシェフと、おいしく見えるかどうかを重視する映画監督との間で大きな違いがありました。私としては、美しくておいしく見えることをまず大切にしています。

―そんななか、物語のカギを握る創作料理「デリシュ」はどのように作りあげていきましたか?

監督 私が最初にシナリオを書いたとき、「デリシュ」はじゃがいもとトリュフの揚げ物みたいな料理というコンセプトがあっただけ。形も決まっていなかったので、クロワッサン型や三日月型など、いろんな形をテストして、最終的にいまのようになりました。

中身に関しても、じゃがいもとトリュフしか決まっていなかったので、それ以外は18世紀に存在する食材を調べながら試行錯誤して作っています。その際、シェフから「世界一おいしいトリュフを使いましょう!」と言われたのですが、撮影のために100個ほど作らなければならず、映画監督としては予算も考えなければいけなかったので、それが問題になったこともありましたね……。

―確かに、トリュフを使うだけでもかなりお金がかかりそうです。

監督 なので、結果的にはトリュフが入っているもの、じゃがいもとキノコが入っているもの、そしてじゃがいもだけのもの、という3パターンで作りました。それの使いわけ方は、私の機嫌によって。機嫌がいいときは俳優にトリュフ入りをあげていましたが、機嫌が悪いときはじゃがいもだけのものをあげたりしていました(笑)。

料理の映画ならではの大変さにも見舞われた


―俳優たちが気づいていたかわかりませんが、おもしろいですね。あとは、撮影のタイミングなども難しかったのではないでしょうか。

監督 おそらくアジア映画は得意な分野だと思いますが、料理のシーンを撮るのは特別なことだと感じました。というのも、撮り直しを何度もするので、撮りたいときにちゃんと食べれるものが出来上がっていないといけないですから。予算を考えながら温度や品質の管理などをしなければいけないので、とても複雑でしたが、そのあたりが料理に関する映画ならではの大変さだと思います。

―なるほど。ちなみに、監督は日本の食文化から影響を受けていることはありますか?

監督 実は、私の息子は日本語が少し話せるくらい日本が大好きで、しょっちゅう日本料理屋さんに行こうと言っています。フランスでは、天ぷらやお刺身、お寿司を食べることが多い印象ですね。ただ、私はあまり詳しくはないので、この質問は息子のほうが答えられるのではないかと思うくらい、我が家には日本料理の専門家がひとりいますよ(笑)。

―日本人としては、気に入っていただけてうれしいです。ほかにも、監督にとって思い出の味というのがあれば、教えてください。

監督 私が好きな料理は、オムレツです。一見すると、誰でも作れるくらいシンプルな料理に思われがちですが、作る人によって自分の味を出すことができる一品だと感じています。魚を入れてもいいし、ナッツや辛いものなど、その人によって何を入れていいので、「〇〇風オムレツ」みたいに作った人の名前を付けられるのも楽しみではないかなと。あと、思い出深い料理としては、祖父が作ってくれたマスタード入りのウサギ料理が忘れられないです。

女性が物語を引っ張る推進力を持ってくれた


―また、今回は食だけでなく、主人公に大きな影響を与える女性ルイーズの存在も欠かせません。ananweb読者たちは彼女の目線から物語を観る部分もあると思いますが、このキャラクターを作るうえでどのような意識をされましたか?

監督 確かに、本作において物語を引っ張っていく推進力があるキャラクターとなっているのがルイーズなので、彼女はとても重要な存在でした。ただ、18世紀を舞台にした作品で女性を描こうとすると、選択肢として上がるのは、貴族か娼婦か下女。そこで、私はその3つをいっぺんにまとめて彼女1人で描こうと考えました。

正体不明の人物として登場した彼女は、ある秘密を抱えていることが明かされますが、そういった複雑なアイデンティティを持っているおかげで、当時の典型的な側面を持ちながらも現代性のある人物像になったと思っています。観客に対しては、徐々に本当の彼女がわかっていくような見せ方にしました。

―それでは最後に、監督の創作意欲の源を教えてください。

監督 まずは、単純に何が私を突き動かしているのかに尽きるのではないかなと。私の場合は、政治的な部分が大きく、「いまあるもの」と「こうあるべきもの」の間にある距離を縮めていくことが私のモチベーションだと思います。それをするためにも、自分の視点を表すような物語を作っているところです。

それらの作品を通して私自身の主観や考え、見方といったものをほかの人に提案していくので、そういった意味では、料理人と映画監督は似ているのかもしれませんね。これからも、私を突き動かすものを作品として実現していきたいです。

人生を切り拓くためのレシピを教えてくれる!


さまざまな困難に見舞われながらも、料理という“武器”を手に、新たな革命を起すために戦い続ける男の姿に感動を覚える本作。目で楽しめるだけでなく、心も満たしてくれるまさにデリシュな“おいしい映画”です。

取材、文・志村昌美

引き込まれる予告編はこちら!


作品情報


『デリシュ!』9月2日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開配給:彩プロ️©2020 NORD-OUEST FILMS―SND GROUE M6ーFRANCE 3 CINÉMA―AUVERGNE-RHôNE-ALPES CINÉMA―ALTÉMIS PRODUCTIONS️© Charly atelier photographie

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