負けた後の行動で差がつく? 囲碁・女流棋士3強が明かす、強さの秘密

頭が良くなるには、デキる人になるにはどうしたらいい? 参考になるのは、実際に結果を出しているリアルな人たち。集中力、記憶力、探究心に長けた囲碁の女流棋士3強に、普段の思考や行動、大事にしていることを伺い、強さの秘密に迫りました。

黒と白の石を交互に碁盤に置いていき、自分の石で囲んだ陣地の広さを競い合う囲碁。相手の動向を探りつつ、経験や知識をもって何手も先を読み合うことから、将棋と並んで頭脳ゲームや知的ゲームの代表格とも呼ばれている。

――漠然とした先入観ですけど、囲碁は地頭がいい人、賢い人がやる競技というイメージがあります。

謝 依旻:私は勉強ができたわけでもなく囲碁を始めてしばらくは自分が打った碁を再現できなかったです。

藤沢里菜:私も勉強が好きじゃない小学生でした(笑)。囲碁をやっていくうちに自然と集中力や記憶力が身につきましたね。

上野愛咲美:私も囲碁のおかげで集中力が鍛えられたと思います。でも、記憶力は自信がないかも…。対局後に、開始から終局までを再現する感想戦というものをやるんですが、相手の人に「こういう詰め方でしたね」と言われても、どの局面か忘れていることがたまにあって。申し訳なく思います(笑)。

謝:私はけっこう覚えていて、それがマイナスに働くこともあるから、(上野)愛咲美ちゃんがうらやましい。というのも昔から考えるクセがあって、寝る前に一日を振り返るんですね。だから自然と記憶している事柄が多い。もちろんプラスになる場合もありますが、対局中に過去の似た手を思い出して、考えすぎることもあるんです。

藤沢:私はすべてにおいて記憶力がいいのではなく興味のないものは無意識に排除しているかも。囲碁や昔の思い出は記憶にあるけれど他はいろいろ忘れますから(笑)。好きなものとそうでないものの熱量が極端に違うのかもしれない。

上野:それわかる~。私がよく覚えているのは、食料や日用品の価格くらい(笑)。この商品はあの店が安いとかは頭にすぐ入るよ。

――上野さんは囲碁界の異端児というポジションなんですか(笑)。

謝:愛咲美ちゃんは、勝負どころで直感力と感性を発揮できるタイプなんですよ。それは豊富な知識があるからこそできることで、従来のパターンにこだわらず、新しい手を潔く出せる人なんです。

上野:頭の中にもう一人の自分がいて、(打つなら)ここかな? そうそう、打とう! って相談しながらやるんです。昨日の対局では、わからなくなったときに(藤沢)里菜先生だったらどうするかなと考えながら打ちました。その局面が得意な先生に(頭の中に)入ってもらうんです。もう一人の自分がその人になって、私ならこうする! オッケー、それでいこう! そんな会話をして局面を打開できることがあります。

――別の棋士の方を頭の中に置くことで、視点や思考を変えられるということですよね。藤沢さんと謝さんはどんなタイプですか?

上野:里菜先生は直感型ではないと思う。計算して、こういう理屈だからこの形は悪くない、だから打つ、みたいな理論型なのでは。

藤沢:普段は違うけどね(笑)。

謝:真逆だよね(笑)。里菜ちゃんは、判断力がすごいんだよ。

藤沢:謝先生は、直感と理論のハーフ&ハーフかな。

謝:そうかも。第一感でここを打ちたいと思うけど、もっといい手があるのではと考えてしまうから。結局は第一感でよかったと思うこともけっこうあるしね。直感と理論の違いって、短時間に判断できるかどうかなのかもしれない。

――囲碁でいう直感とは実力のうちであり、理論同様に知識や経験がないと働かないものなんですね。

藤沢:だから勉強は、当たり前ですけど絶対に必要なんですよね。

上野:いつもどのくらいしてる?

藤沢:日によるし質が大事だと思うけど毎日7~8時間とか? 数年前から練習にAIを使うようになり、判断力が身について棋士全体がレベルアップしたと思います。

上野:具体的な練習方法は、対局を2時間して検討を30分、AIにその対局を覚えさせて再検討するのに10分。そこから、また対局して…を繰り返すことが多いです。

謝:囲碁を考えない日はないです。旅先でも思い出すし、昨日はサウナに入りながら愛咲美ちゃんの対局を頭の中で考えていました。

藤沢:無意識に囲碁のことを考えてしまうんですが、全然嫌ではないですね。ディズニーランドで並んでるときもつい中継を見ちゃう。上野:街で縦と横の線が目に入ると碁盤に見えるしね(笑)。私は暇ができると囲碁のことを考えるようにしていて、昨日は眠れなかったので次の布石を考えていました。

謝:お昼に何食べよう? と考えるのと同じテンションだよね。

――それほどまでにハマる囲碁の魅力、みなさんを突き動かす原動力とは何なのでしょう。

藤沢:幼いころに囲碁を始めたきっかけを思い返すと、石を取ったり取られたりすることが、シンプルに面白いと思ったからですね。上野:私は勝つことが楽しいから。

謝:私は負けず嫌いの性格もあって、先に始めた兄に勝ちたい一心でどんどんのめり込みました。何事も興味を持っているかどうかがまず大事だと思いますね。そこから自然と深掘りしたくなって、やっていくうちに力がつき、精神もタフになるのだと思います。

――好きや楽しい気持ちが起点となり、探究心が湧いて研究するほどに必要な力が養われる。上達するのに適したステップともいえますが、さらに自分の可能性を広げるにはそれだけではないような…。

謝:相性もあると思います。ちなみに私は将棋ができません。これまで何回か教わっているけど、難しくてわからないのです(笑)。

上野:囲碁でいうと、勉強の仕方とメンタルの強さで差がつくと思います。特に負けた後が肝心。逃げたくなるけど改善点をしっかり見つめて修復するべきなんですよ。そして負けた相手と再戦したときに、成長した囲碁を見せて勝てる人が抜きんでるのだと思います。

謝:メンタルの強さといえば愛咲美ちゃんだよ。彼女は対局前に縄跳びを777回跳ぶルーティンがあるんです。一つのことを続けられるというのは、強靭な精神の証だと思うんですよ。そう考えると、継続力も才能を伸ばすために必要なもの、といえるよね。

上野:すごく納得できる。縄跳びは頭の回転にも効果的で、集中することが得意になりましたね。記憶もトランプの神経衰弱とか短期系ならけっこういけるんですよ。

藤沢:確かに強かった!

上野:え、一緒にやったっけ?

藤沢:そこは覚えてないんだ(笑)

写真右からふじさわ・りな 1998年、埼玉県生まれ。6歳から囲碁を始め、11歳でプロ入り。15歳で初タイトルを獲得するなど数々の最年少記録を樹立する。’20年の若鯉戦では男女混合棋戦で女流棋士史上初となる優勝。現在女流タイトル2つを保持。五段。

シェイ・イミン 1989年、台湾生まれ。6歳のころ囲碁を始める。12歳で来日し14歳でプロ入り。’19年、女流棋士史上最年少、最速となる公式戦通算400勝を達成する。名誉女流本因坊、名誉女流名人、名誉女流棋聖の称号を保持する。七段。

うえの・あさみ 2001年、東京都生まれ。4歳から囲碁に触れ14歳でプロ入り。攻撃的な碁風から「ハンマー」の異名を持ち、’22年「SENKOCUPワールド碁女流最強戦」では日本人初優勝に輝く。現在4つのタイトルを保持。四段。

※『anan』2022年9月28日号より。写真・小笠原真紀 取材、文・伊藤順子

(by anan編集部)

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