映画っぽい漫画? 『アルティストは花を踏まない』深い余韻の理由

アニメシリーズ「世界名作劇場」が好き、と聞いて納得した。時代や国がまったく異なる物語なのに、どこか懐かしい気持ちになるのも、そのことと関係あるのかもしれない。

小さな世界を優しさという花で満たした子どもたち。


「『アルプスの少女ハイジ』や『フランダースの犬』みたいに少年少女の日常が見えてくるような物語を、自分でも描いてみたかったんです」

小日向まるこさんが新作『アルティストは花を踏まない』で舞台に選んだのは、第二次世界大戦前のフランスの小さな町。ひとつの大きな戦争が終わったあとに生まれ、さらに大きな戦争が起こることをまだ知らない少年少女たちの暮らしが、オムニバス形式で生き生きと描かれていく。

「子どもたちが当たり前のように働いていた時代でもあるのですが、具体的な職業名があってもなくても、誰かのために小さな何かができる人のことをアルティスト(芸術家)と呼びたいと思いました」

たとえばモモという少年は、職を失った父や、閉鎖に追い込まれたボウリング場の支配人のことを、得意な歌などで励ます。孤児院で育ち、郵便配達をしている少女リルは、処分するしかない差出人不明の手紙を、とある方法で救い出す。子どもらしい発想から生まれる、ささやかで純粋な優しさと、それを受け取る人たちに起こる変化を丁寧に描いた物語は、まるで一本の映画を観たあとのような味わい深い余韻を残す。

「映画っぽい雰囲気というのは、実はかなり意識していて、背景を細かく描き込んだり、人物の立ち位置や光の当たる方向などもすべて決めているんです。音やにおいがしそうなくらい、すべてを絵で表現したい! と意気込んで描きました」

心の声を表すモノローグや、説明的なナレーションは一切入れず、セリフも削れるところは1文字でも削るという徹底ぶり。さらにいうと、画材や画法を数話ごとに変えて、見せ方にこだわっている。

「初めての雑誌連載だったこともあり、錚々たる先生方の作品に埋もれないよう、工夫した結果でした」

試行錯誤を通して目指したのは、自身がマンガや映像作品からもらった元気や勇気を、物語を通して誰かに与えること。小日向さんもまた、現代のアルティストなのだろう。

「大きな感動っていうのはそこまで目標にしていなくて、読んでくれた人の気分が少しでも上向いたり、背中を撫でてもらえたような感覚になったらいいなと思っています。小さな一歩が踏み出せるよう、その一歩をとても大切に描いたつもりです」

『アルティストは花を踏まない』 「やがて悲劇を迎える時代」に生まれた少年少女の友情や成長を、温かな眼差しと高い画力で描く。優しさに影を落とす差別や分断など、現代に通じるテーマも。小学館 770円

こひなた・まるこ マンガ家。「もの」にまつわる物語を綴ったフルカラー短編集『ぼくの忘れ物』が電子書籍にて発売中。『ビッグコミック』で連載された本作が紙媒体デビューとなる。

※『anan』2019年5月29日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)

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