村上春樹の名作が舞台に! 渡辺大知に“ダンス×演劇…”の魅力を聞いた

ファンタジックで奇妙な可愛らしいビジュアル世界に、演劇とダンスとが融合された美しい舞台で人気を博すイスラエルのクリエイター、インバル・ピントさん。そのインバルさんが、村上春樹さんの小説『ねじまき鳥クロニクル』を題材に日本で新作のクリエイションを行う。ある日突然、妻のクミコが失踪。その前後から主人公の岡田トオルの身の回りに不可解な出来事が起こり始める。現実と異界とが絡み合い展開する物語を舞台でどう描くのか。そんな興味とともに稽古場に見学に伺った。

訪ねたのは、本格的な稽古がスタートする前に、インバルさんと共同演出で脚本も手がけるアミール・クリガーさん、そして一部キャストが参加したワークショップの現場。ちょうどアミールさんが、松岡広大さんにテキストを読んでみてとお願いしたところだった。原作本を手に、松岡さんの朗読が始まった。地の文はフラットに、セリフには感情をのせて。それをしばらく聞いていたアミールさんが「今度は、眠りながら話しているように」とリクエスト。その後には「口止めされていたことを話すように」や「怖がっている子供のていで」などの指示も。言われるたびに声のトーンを変えて何度も同じ文章を読む松岡さんに、インバルさんが「いろんな声を試してみたいのよ」と声をかける。その後、アミールさんが「子供の声で歌える?」と尋ねると、インバルさんが『アラジン』のテーマソングをハイトーンで歌いだした。そこに成河(ソンハ)さんらが加わり、稽古場はしばし「ア・ホール・ニュー・ワールド」の大合唱。そんな笑いのある和やかな雰囲気のなかで稽古が進んでいく。

「村上さんの傑作を題材に、舞台でどんなことができるのかを試しているところです。今回初めてご一緒する俳優の方も多いですが、ここでいろんな面を見せてくれたり、私たちが思ってもみなかったアイデアを提案してくれたり、膨らませてくれたりと、とても有意義な時間を過ごせています」(インバルさん)

少しの休憩を置いて次に始まったのは、トオルが妻・クミコの失踪の原因を思案するシーン。トオル役は成河さんと渡辺大知さんが“二人一役”で演じる。「まずは、フィジカル(身体的)なコンタクトから始めてください」。そんなインバルさんの言葉に、ふたりは手を取り組み合い、上になったり下になったりと、さまざまな動きを見せていく。そのうち、動きながらセリフを交わすように指示が入る。「過去の記憶を呼び起こしながら、妻が出て行った原因を探り合ってください」。くんずほぐれつのふたりが、クミコについて意見を交わし合う。まるで、頭の中でふたりの自分が葛藤しているようで面白い。

「舞台上でセリフと体がどう存在すべきかを模索しているところです。まずはフィジカルで表現し、そこにセリフや音楽を加えてダイナミックさを出し、すべてが融合した芸術作品にしていきます」(インバルさん)

動きながらしゃべるふたりに「自分との対話なので、お互いに顔を見合わせてやってみて」とアミールさんから声がかかる。そう言われ、成河さんと渡辺さんが相談し合い、自ら積極的に動いて試して提案。さまざまな動きを提案する姿が印象的だ。気づけば、見学していた松岡さんと徳永えりさんも、同じ動きを一緒に試している。全員が自分で考え、動き、さまざまな可能性を試しながら最良の表現を探していく。そんな豊かな想像力と創造性が溢れる舞台の完成が楽しみだ。

インバル・ピント イスラエル出身の振付家、演出家。グラフィックデザインを学んだ経験もあり、ビジュアルを含めた創造性の高い舞台は世界で高い評価を受ける。

素晴らしい作品ができる助けに少しでもなれれば。


舞台出演3作目にして、演劇ともダンスともとれる独創的な作品を体験することになった渡辺大知さん。

「オファーをいただいてインバルさんの過去作品を拝見したら、すごく好きなテイストだったんです。光栄だし、何より一緒に作っていくことを楽しめそうだなと思いました」

事実、稽古場に伺った日も、自らアイデアを出したり、動いてみせたりと積極的な姿勢が印象的だった。

「ダンスの経験はないけれど、体を動かすのは好きだったんです。もともとバンドをやっていて、この曲はちょっとセクシーに見せたいとか、鬼気迫るような感じにしたいとか、混沌として見せたいとか、音の表現にプラス身体的な表現というか…パフォーマンスが絡んでくるので、そこに躊躇はなかったです」

とはいえ、ダンスのような動きをしながらセリフを発するというのは、役に入り込めば入り込むほどに難しいことのように思うけれど…。

「この舞台に限らず、僕は役としての精神と体は切り離して考えたほうがいいと考えています。例えば、悲しみを表現するシーンで悲しい顔をするよりも、笑いだしそうな顔をするほうが切なく見えることってありますよね。場面によって、体がどういう状態でいるのが面白いかは違っていて、役の感情にのめり込んで、自分の思う生理で演じていてはできない気がするんです。ドラムを叩く時の、手と足とが別々に動くみたいな感じで、そこを分けて考えられる冷静さが必要というか…。芸人さんが笑わせるために面白いことをする時に、ある種の冷静さがないとうまくいかないのと同じで。でも、お芝居って、そういう冷静さを超える瞬間が何度もあるから楽しいし、それを観るお客さんもより深く入り込めるんじゃないのかな」

主人公・トオルを成河さんと二人一役で演じるのも今作の見どころ。

「ひとりの人の良い面と悪い面とか、裏表みたいな単純な二面性にはしたくないんです。ひとりの人の中には、もっといろんな面があってグラデーションになっていると思いますし。同じ役を演じる成河さんは、話していても自分とは違うタイプのようだから、ひとりの人物をやるのは面白いですよね。へんに擦り合わせずにお互いの違う面を“岡田トオル”として見せていけたらと思います」

俳優として活動を始めて10年。本番を目前に「こうやってワクワクできていることがうれしい」と話す。

「自分のやりたい役より、一演劇ファン、映画ファンとして素晴らしい作品が生まれる瞬間に立ち会いたい気持ちが強いんです。その力に少しでも自分がなれればと思います」

わたなべ・だいち 1990年8月8日生まれ。兵庫県出身。ミュージシャン。2009年に映画『色即ぜねれいしょん』で俳優デビュー。今年、主演映画『僕の好きな女の子』が公開予定。

『ねじまき鳥クロニクル』 2月11日(火)〜3月1日(日) 池袋・東京芸術劇場 プレイハウス 原作/村上春樹 演出・振付・美術/インバル・ピント 脚本・演出/アミール・クリガー、藤田貴大 音楽/大友良英 出演/成河、渡辺大知、門脇麦、大貫勇輔、徳永えり、松岡広大、成田亜佑美、さとうこうじ、吹越満、銀粉蝶ほか S席1万1000円 サイドシート8500円ほか(すべて税込み) ホリプロチケットセンター TEL:03・3490・4949  大阪、愛知公演あり。

※『anan』2020年1月29日号より。写真・土佐麻理子 インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)

関連記事(外部サイト)