元ゲイ風俗の「もちぎさん」 “SNS利用者に多そうな今どきの人”向け自己啓発本

あの、もちぎさんの自己啓発書『悪魔の夜鳴きそば』と聞いて、どんな内容をイメージするだろう。ご存じない方のために説明すると、もちぎさんは父親と死別後、母親からDVを受けて育ち、高校生のときゲイに売春をしていたことがバレて家出。ゲイ風俗やゲイバーなどで働き、自ら稼いだお金で大学を卒業。そのセンセーショナルな人生を明るくツイッターで発信したところ話題を呼び、わずか2年ほどでコミックエッセイや小説などを何冊も発表している人気作家だ。

不幸じゃないけど不満まみれ、悩める人に響く幸福論。


「ぶっちゃけた話、自己啓発書を買う人って、本を買ったら変われると思っている人だと思うんです。もう少し柔らかく言うと、変わろうという前向きな意志がある方ですね」

いろんな自己啓発書を読んでみた結果、内容云々より誰に向かって書いているのかが気になり、書店のビジネス書コーナーに来る人を観察。アプローチのしかたも独特だ。

「主人公があまりにもおバカというか、さすがにそれはわかるでしょ? みたいな失敗から始まることが多いんですよね。だけどこの本は、他の人よりちょっと賢いと思っているけれど、なんでうまくいかないんだろうと考えているような人が主人公。SNSをやっている層に多そうな、今どきの人を想定して書きました」

舞台は、大都会の真ん中に気まぐれに現れるラーメン屋台。高級外資系ホテルで働く27歳のみっちゃんが、提灯の灯りとラーメンの香りに引き寄せられるようにのれんをくぐると、迎えてくれたのはオネエ口調で話す謎の生き物。「餅の妖精」を自称するもちぎママが、職場では上司に日々嫌みを言われ、彼氏とも別れたばかりのみっちゃんの悩みを、夜ごとメニューが替わるラーメンとお酒とともに噛み砕いていく。

「ツイッターなどでも相談をされることがよくありますが、大変な環境で生きている人はいっぱいいます。だけど空気を読む文化のせいか、この程度で不幸と思っちゃダメみたいに感じている人が多い気がして、みっちゃんを通してグチを言いやすくする本にしたかったんです」

会話をすることでみっちゃんは自分を客観視したり、人の見方が変わったりするが、現実がそうであるように劇的に成長するわけではない。

「物語としては、起承転結や波があったほうが面白いのでしょうけど、自分の中にみっちゃんがいたら1か月でどう変わるのかを想像しながら、相変わらず失敗したり、自信をなくしたりする姿も書きました。名言を抜き出すような見せ方もしたくなくて、実際の会話のように“あれはいい言葉だったな”とそれぞれに感じてもらえればと思っています」

ちなみに、もちぎさんが相談される側として大事にしているのは「相談者の力に任せること」だそう。

「ある程度は答えが決まっているんだろうなと思いながら話を聞きます。なので、『でも』とか『だって』っていう言葉がその人から聞けるとニヤッとしますね」

隣に座って二人の会話に耳を傾けているような気分になり(ラーメンはないけれど!)、「自分の場合は…」と思いを巡らせるひととき。心に響く言葉がきっとあるはず。

『悪魔の夜鳴きそば』 「幸せになりたいなら、なりなさい」。人生を豊かにするための気の持ちようが見えてくる、著者初めての“ストーリー型自己啓発”本。マガジンハウス 1400円

作家。平成初期に生まれたゲイ。元ゲイ風俗とゲイバーの従業員。2018年10月より始めたTwitterでそれらの経験談を発信し、瞬く間に人気に。著書に『ゲイ風俗のもちぎさん』『あたいと他の愛』など。

※『anan』2021年1月13日号より。インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)

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