昭和の大作家・山田風太郎の小説をコミカライズ! 勝田文『戦中派不戦日記』

タイトルの風太郎とは、忍者ものなどで一世を風靡した戦後の娯楽小説家・山田風太郎のこと。本作は医学生だった山田青年が兵隊として召集されず、東京で細々と暮らしていた日々を綴った『戦中派不戦日記』のコミカライズだ。手がけているのは、これまで主に女性誌で作品を発表してきた勝田文さん。その意外性がまずもって興味深い。

年表には記されないあの時代を生きた人々の姿。


「基本的に楽しくてバカバカしいものを描きたいっていう思いがずっとあったので、コミカライズのお話をいただいたときは自分でも意外でした。だけど今まで描いたことのないジャンルなので、面白くできる可能性はあるかなと思ったんです」

日記が始まるのは、日本の敗戦が決まる“運命の年”が明ける昭和20年1月1日。B29が連日来襲し、食料も日に日に手に入りにくくなる、不安と困窮を極めた暮らしではあるものの、原作を読んだ勝田さんは「時代の雰囲気そのものは、わりと今と変わらないのかも」と感じたそう。

「上の人たちがやっていることを庶民はよくわかっていない感じが似ていると思いました。本当のところはどうなの? みたいな空気とかも」

山田青年は田舎から出てきたインテリ青年なのだが、本気で医者を目指しているわけでもなく、かといって戦地に行くことも叶わない宙ぶらりんな状態。国の未来を憂えてはいるけれど、どこか達観もしている。

「私は彼ほど屁理屈をこねませんけど卑屈なところは似ているので、その辺は描きやすいかもしれません。しょうもないダジャレもよく言っていて、ユーモアがあるんですよね」

戦時中の物語は、どうしても悲惨さや理不尽さに焦点が当てられがちだが、それだけではないのが本作の異色なところ。ドブ川並みに汚れた銭湯で湯当たりした老人を助けたり、苦手な試験の日に空襲が来て無試験合格になって大喜びしたり、授業で女体の模型を見て興奮したり。年表に刻まれた史実の隙間で、名もなき人々がどんなふうに暮らしていたのかが見えてくる。そんな日々を経て、2巻のクライマックスとして描かれるのが、8月15日だ。

「物語全体の山場だと思い、ここに向かって描いてきたところもあったので、今ちょっと燃え尽きちゃってるんです。だけど戦争が終わっても世界は続いていくので、このあとを描くほうがむしろ大事だと思って気を取り直しているところです」

風太郎は、そしてあの時代を生きた人々は、いかにして終戦を迎えるのか。圧巻の2巻のラストを、ぜひそれぞれの目で確かめてほしい。

原作・山田風太郎『風太郎不戦日記』2 昭和20年5月、東京を焼け出され、山形の知人宅、故郷の兵庫、学校の疎開先である信州飯田に身を寄せる山田青年。やがて運命の8月がやってくる、第2巻。講談社 680円

かつた・ぶん マンガ家。1998年『YOUNG YOU』でデビュー。主な作品に『あのこにもらった音楽』『小僧の寿し』『マリーマリーマリー』など。

※『anan』2021年1月20日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)

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