『化け物心中』の意味とは? 江戸の芝居小屋で起きた怪異と役者の深い闇

江戸随一の大きさを誇る芝居小屋、中村座。ここで起きた怪異に、日本橋で鳥屋を営む藤九郎(ふじくろう)と元女形の魚之助(ととのすけ)がある謎に挑む『化け者心中』。その著者が、蝉谷めぐ実さん。

芸に生きる役者たちが覗いた深い闇。お江戸のバディが挑む、鬼の正体とは。


「中学、高校と演劇部だったんです。演劇でも、どこまで役になりきれるかというのが作品や役者の評価にもかかわりますよね。大学で受けた児玉竜一教授の講義をきっかけに、性別をも乗り越えて役になりきっていくという女形に強く惹かれるように。『女形という存在をぜひ知って!』という推しみたいな気持ちが、書く出発点にはありました」

中村屋の小屋で、6人の役者が次の芝居の本読みをしていたときのこと。薄暗闇の中、車座の真ん中に転がり落ちてきたのは人の頭。ところが再び行灯が灯ったときには誰一人欠けていないのに、血だまりと肉片が遺されていて…。藤九郎と魚之助は鬼退治を請け負い、鬼に取って代わられたのは誰なのかを探り始める。

本書は怪異をモチーフにした歌舞伎ミステリーでもあるが、物語が進むにつれ、芸事に生きる人々の心情を掘り下げる芸道小説にもなっていく。その奥行きがすばらしい。

「役者たちはそれぞれ『若さがあれば』『華があれば』とないものねだりをします。私自身が『私の何を差し出せば作家になれるんだろう』くらいに思い詰めていたので、デビューする前までのさまざまな恨み辛みを役者たちに代弁してもらいました」

ちなみに、魚之助には、ヒントになった実在の人物がいる。

「歌舞伎好きには知られているのですが、三代目澤村田之助という伝説の女形。芝居中のケガがもとで壊疽になり、魚之助のように足を失っても舞台には立ち続けた。芸にすべてを奪われ、若くして死ぬ田之助のような悲しい結末から救いたいと思い、藤九郎という相方を配置しました」

応募時には、ふたりの関係はもう少しBLっぽさがあったのだという。

「名前のつく関係性にすると、物語の枠組みも狭まる。個人で認め合える関係性の方がこの作品にもふさわしいと思い、会話などに手を入れました。男と女、人間と化け物…その境目はどこにあるのか。そういう問いも、投げかけたいことでした」

それは謎めいたタイトルにも投影されており、その意味がラストで腑に落ちる。外連味あふれる意欲作だ。

『化け者心中』 江戸の暮らしや舞台の様子を描写する躍動感のある文体や、心地いい活きのいい会話は、著者が落語や洒落本に親しんできた賜物らしい。KADOKAWA 1650円

せみたに・めぐみ 作家。1992年、大阪府生まれ。早稲田大学文学部卒。卒論は、化政期の歌舞伎がテーマ。2020年、本作は「小説 野性時代 新人賞」選考委員の満場一致を受けて、受賞となる。

※『anan』2021年2月10日号より。写真・土佐麻理子(蝉谷さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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