天才少女と凡才男性の同棲…「能力格差が生む」悲惨な現実『クイーンズ・ギャンビット』第5話

Filmarksでは4.3の高得点、2020年秋ドラマ満足度ランキングのベスト3にランクイン、辛口で知られるRotten Tomatoes(ロッテン・トマト)で97%と高評価の『クイーンズ・ギャンビット』(Netflixドラマ全7話)。全話レビューの第5回目では、主人公のチェスの天才少女ベス(アニャ・テイラー=ジョイ)の同棲生活が描かれます。相手のベルティックを演じるのは『ハリー・ポッター』シリーズではおでぶのダドリー役、ハリー・メリング(大変身に驚きます)。ゲーム作家・米光一成といっしょに佳境に入っていきましょう。

仕事と恋愛ははっきりと切り離せるのか?


天才少女の恋愛は前途多難。Netflixオリジナルシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』独占配信中。【『クイーンズ・ギャンビット』全話レビュー 第5話】vol. 5 

仕事と恋愛をはっきりと切り離すことはできるのか。しかも、それが厳しい競争社会であるチェスのプロともなるとどうだろう。第5話は、主人公ベス・ハーモン(アニャ・テイラー=ジョイ)が、恋愛に巻き込まれる回。

そもそもベスは、人間関係においてはクールでポーカーフェイス。あまり泥沼化させない。「世界のすべてが64マスでコントロールできれば安心できるのに」というタイプだ。

『ハリー・ポッター』シリーズのダドリーがスリムに


宿敵ボルコフに負け、養母を亡くしたベス・ハーモン(アニャ・テイラー=ジョイ)。雨の中、たくさんの荷物を持って暗い家に帰宅する。電気をつける。養母が好きだった動物画。テーブルのコーヒーカップ(口紅がついている)。暗い部屋でそれを眺める。セリフがなくとも、その動き、表情、照明、カメラの動きから、孤独が伝わってくる。

ハリー・ベルティックから電話がかかってくる。最初のトーナメント戦の最終試合で打ち負かした相手だ。

実は、ハリー・ベルティックは、『ハリー・ポッター』シリーズのダドリー・ダーズリー役のハリー・メリングが演じている。ダドリー役のときは、ぽっちゃりまるまるした子どもだったのに、しゅっとした大人になってる! 言われなければぜんぜん気づかない風貌の変化に驚く。

ベルティックは、ベスに恋している。ボルコフに負けて落ち込んでるベスに電話をし慰め、自分が練習相手になると申し出る。歯並びを治したのもベスに再会するためだ。

奔放に誘うベス!


だが、うまくいかない。ついアドバイスをしてしまう。

「君はすぐカッとなって周りが見えなくなる」「怒りは武器よ」「怒りは香辛料だ。使いすぎると感覚が鈍る」

いや、いいことを言ってるのだ。だが、うまくない。「くそ、何をやってるんだ」と帰りの車でベルティックは後悔に苛まれる(エンジンをかけ損ねたタイミングに重ねる演出の妙!)。

次の日もやってしまう。

「(ボルコフは)州チャンピオンとは違う。世界チャンピオンだ。10歳の彼にも勝てないさ」

トイレに入ったベルティックは自分の言ったことを「最悪だな」と後悔する。自分より強いベスに、アドバイスし、教訓めいたことを言う滑稽。しかも「州チャンピオンとは違う」と自分のことを卑下してしまう。

ベスは奔放だ。服を一枚脱いで、ラジオのボリュームをあげて踊っている。「もう夏よね」。曲はペギー・リーの「feaver」。「あなたが腕を私に回すと、我慢できなく燃えてしまう」という歌だ。チェスボードの前に座り「来る?」と誘う。セクシャルな誘いだと受け止めていいようなシチュエーション。だが、ベルティックは、暗い顔をして帰る。

才能の格差が恋愛を阻む


ベスとベルティックは同棲することになるのだが、うまくいかない。チェスの対局をすると、ベスにははっきりと見えている手筋が、ベルティックには見えない。

「君にはついていけない」

チェスのことだとベルティックは割り切ることができない。

「ぼくはチェスが好きじゃない。かつてのぼくほどには」

とベルティックは言ってしまう。ベスと一緒に暮らすことで、自分のチェスへの集中力がベスほどではないことを思い知らされてしまったのだ。ベルティックは、ベスのスタイルをこう表現する。

「ナイトやビショップを惜しみなく捨てる。素早くキングを攻め敵を動けなくする」

ベルティックは、自分を惜しみなく捨てられた駒のように感じている。

恋のABCにコーチは必要か


1967年オハイオ米国チェス選手権で、ベスは連勝。マルチ画面を使ってテンポよく試合を見せる。過去の対局では負けたベニー・ワッツにも勝つ。

ベニー・ワッツを演じるのは、トーマス・ブロディ=サングスター。『ラブ・アクチュアリー』の片思いに悩む少年を演じて一躍有名になり、『メイズ・ランナー』でイケメンに成長した姿を見せ、『ゴッドレス 神の消えた町』『ゲーム・オブ・スローンズ』等に出演。

ボルコフと再戦するためには、「いいコーチが必要だ」というベニー・ワッツ。「ベルティックでなく、もっと強いヤツ。もっと大人な誰かだ」ということで、ベニー・ワッツが色恋抜きでコーチになるのだ。

最後にかかる曲は、Nancy Wilsonの「Teach Me Tonight」。「今夜教えて、恋のABCを」っていう歌だ。

第5話の冒頭で母アリスはこう語る。

「誰よりも強いのは孤独を恐れない人よ。問題は周りの人たち。行動や感情を指図してくる人たち。言いなりになって、知らぬ間に人生を無駄にしてしまう」

教訓のようにみえる言葉は、呪縛としても機能してしまう。

文・米光一成(ゲーム作家、代表作に『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』など)

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『クイーンズ・ギャンビット』

原作・制作:スコット・フランク、アラン・スコット出演:アニャ・テイラー=ジョイ、ビル・キャンプ、マリエル・ヘラー

文・米光一成

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