「地獄の2か月」波岡一喜が『パッチギ!』撮影を振り返る。“恩人”井筒監督に当時は「シバいたろか?」

2004年、25歳のときに木村拓哉さん主演ドラマ『プライド』(フジテレビ系)で本格デビューを飾った波岡一喜さん。

『プライド』の撮影後半に差しかかったときに映画『パッチギ!』(井筒和幸監督)のオーディションに合格。バンホー役で注目を集めることに。

◆撮影現場で連日ボコボコに打ちのめされ…

オーディションでバンホー役に抜てきされ、意気揚々と撮影に臨んだ波岡さんだったが、初日から地獄の日々がはじまったという。

「僕は19歳ぐらいからいろんなところで舞台をやり続けていて、ちょっとできた気になっていたところが多分あったんですよね。それでオーディションにも受かって、映画の現場だというので意気揚々と行くわけなんですが、今考えたら何もできていないのに当時はわからないから、『できているでしょう? 俺』みたいな感じでやっていくわけですよ。

でも(井筒)監督からしたら、『学芸会やな。もう学芸会やめろ!』とか言って飛んでくるわけです、毎回毎回。言っていることはごもっともです。『リアルなお芝居をしろ。リアルやけど日常やっていることをここでやるな』と。すごく難しいですけど、言っていることが今だとよくわかるんです。

でも、当時はわからなかった。わからないけど言っていることは大正解。要するにありそうでないお芝居をしなきゃダメというか、結局おもしろいお芝居をしなきゃダメなんです。インパクトを残すために。

『普通の日常のことをやっているわけではない。映画を撮っているわけだからプランをもって来い。なんとなく台本を読んで来るな。セリフを覚えてなんとなく来るな。ちゃんと自分でこういうことをやろうというプランを自分で引き出しを作って、こういうことをやろうと決めて現場に来い。何も用意していませんよみたいな空気で来て、ちゃんと自分の考えていることをやれ』と。

『お前はただ覚えてきていることをやっているだけや。ト書き読んでいるか? ト書きをちゃんと読め。セリフは誰でも読む。ト書きもちゃんと読んでト書きに書いてあることをやる。で、ト書きに書いてないこともやる。それが大事やねん、お芝居ということは』と言われたことをすごい覚えています」

−他の出演者の方たちも同じように言われていたのですか?−

「ボコボコに言われていたのは僕と塩谷瞬と小出恵介。真木よう子もちょっと言われていたなあ。あと尾上寛之も言われていましたね」

−主だった人たちほぼ全員ですね−

「はい。何も言われてなかったのは沢尻エリカぐらいです。監督がエリカには『ええよ、エリカ。可愛いなあ。エリカOK』ってえこひいきしていましたから(笑)。

それで『監督、えこひいきしていましたね』って言ったら、『何が悪いねん。あいつはできているからいいんだ』って言っていました。たしかにエリカが出来ていたのは間違いないです。映画が完成して見たときにエリカは抜群だったので」

−『パッチギ!』の出演者は皆さん売れましたね−

「はい。『パッチギ!』の仲間がみんな有名になったので、今はもう感謝しかないですね、井筒さんに。撮影中は本当に『いつシバいたろか。このおっさん、いつシバいたろか』って思っていたので、ずっと(笑)」

−撮影は本当に大変だったでしょうね−

「でも、それがちゃんと画に出ていますよね。しんどかったですけど必死で生きた高校生たちの話だから、我々も撮影中に必死じゃないとやっぱり画に出ないですよね。必死でした、本当に。1ミリも余裕がなかったので。毎日『明日撮影がなくならないかな』って思っていました。

当時はそれくらい追い詰められてやっていたので、今もう1回やれと言われたらムリですね。でもいい経験だったなあと思います。あの京都で過ごした撮影の2か月間、地獄の2か月間、7kg痩せたんですけど、あの地獄の2か月間がなかったら、間違いなく今はなかったですね」

−俳優人生の最初の頃に井筒さんの現場というのは大きかったでしょうね−

「大きいですね。あまりに怒られてばかりだったので僕はすごくいやでしたけど、当時もうすでに有名だったオダギリジョーさんは『あんなに怒られてうらやましい。いい経験になる』とおっしゃっていました。まあ、見るに耐えないくらい怒られていましたけど(笑)」

◆映画『クローズZERO』シリーズで三池崇史監督と

『パッチギ!』に出演したことで波岡さんを知った人も多く、公開された後、仕事のオファーも来るようになったという。

「その後もオーディションは受けていますけど、『パッチギ!』を見た方からお仕事のオファーをもらえるようにはなりました。『この悪そうなやつは誰だ?』と認識してもらえたのは、あの作品がすごくいろんな人に見てもらえて評価されたおかげで、そこからですね」

−いろいろな作品に出演されていますけれども間違いなく代表作の一つですね−

「そうですね。作品自体に力があるので。いまだにふとしたときに言ってもらえたりするんですよ。この間もある芸人さんに『翌日頑張らなきゃいけない仕事があるときに「パッチギ!」を見ると、明日頑張ろうという気になるんです』と言われて、すごくうれしかったです」

−井筒監督は、「『パッチギ!』で賞を取ろうとは思っていない。みんながこの作品を踏み台にして大きくなってくれればいい」とおっしゃっていたそうですね−

「そうです。『この映画を踏み台にして、お前らがもっと大きくなってくれたらいい。そして俺がオファーしたときに、忙しくて受けられないと言えるようになって欲しい』って。みんなその通りになったんじゃないですか。いまもよく共演するメンバーもいますし、いまだに役名で呼び合ったりしています」

−監督は今でも怖いですか?−

「いえ、昔は怖かったですけど、今は感謝しかないです。僕は『パッチギ!』に出たことで俳優になれたと思っているので恩人です。

一度バラエティ番組の企画でサプライズ再会というのはありましたが、『パッチギ!』のメンバーで集まったのは10年くらい前、監督のお誕生日祝いをしたのが最後かもしれないです。『元気か?メシ食えてんのか?』って気にかけてくれて、優しいおじちゃんですね(笑)」

−『クローズZERO』シリーズ(三池崇史監督)の波岡さんも印象的でした−

「僕はいろんな監督に恵まれていましたね。井筒さんとやらせてもらって、そこから三池さんとやらせてもらって、いろいろやっていくんですけれども、三池さんはすごく優しい監督なんです。

すごく温厚で、現場で全然俳優に怒鳴ったりしない。きっと監督の頭のなかで編集されていて、現場で撮るけれどもいらないと思ったら使わないというタイプで、僕はすごく自由にやらせてもらえました。『クローズZERO』の現場はとくにみんな自由にやらせてもらえたんじゃないかなと思います」

−すごい人数の男子学生たちが拳を交え合う熱い映画でしたね−

「すごい人数です。しかも血気盛んなメンバーばかりだったので、現場はすさまじかったです(笑)。あの作品もその後みんな大活躍していますからね。当時から小栗旬とか山田孝之とかはすでに活躍していましたけど、より有名になっていった作品の一つだと思います」

−波岡さんは、ずるくてどうしようもない男だと思っていたら、最後に予想外の行動に。あのギャップがいいですね−

「ありがたいです。あれは台本にはなかったことなので。監督が、『最後このシーン、ちょっとこういうふうにやってみようか』と言ったので、『いいすか?』って聞いたら『本番自由にやっちゃって』みたいな感じで(笑)。

それで本番だけやったんですよ。それを撮っていて、旬もアドリブで応えて、もちろんほかのメンバーもアドリブで応えてという感じでした」

−すごくいいシーンですよね−

「はい。とてもいいシーン。高校生らしいというか、根っからの悪いやつではないということがわかるシーンで『しょうがねぇなあ、お前本当バカだなあ』というようなことなんですけど(笑)」

−これまでのお仕事の履歴を見ていてもすごい数ですね−

「本数は多いですけど、ワンシーンだけの出演というのも多いので。タイトルを見ただけだと、自分がどこに出ていたのかあまり覚えていないのもあるくらいです」

−俳優の仕事だけで生活ができるようになったのは?−

「アルバイトは27までやりました。『パッチギ!』の撮影が終わったときはまだやっていましたから。『電車男』(2005年・村上正典監督)をやっているときもバイトをしていて、『クローズZERO』(2007年)のときに思い切ってやめたのかな。頭が金髪のときに辞めた記憶があるので」

−わりと早くに俳優の仕事で生活ができるようになったのですね−

「そうですね。40代、50代でもバイトしている人いますから。早いのか遅いのか微妙ですけど、でも何とかって感じですかね」

−仕事の判断基準は何かありますか−

「基本的には早くお声がけいただいたものからという感じです。何か一緒に仕事をしたいと言ってもらえることはすごいありがたいことで、早く言ってくれたほうがもちろんいいということではあると思うんですが、からだが空いている限りやれるものはやっていこうと思っています。

それがたとえばノーギャラであっても自主制作映画であっても、自分がおもしろいと感じたり何かしら興味を感じるものなら積極的にやるようにしています」

映画『ドロップ』(品川ヒロシ監督)、映画『探偵はBARにいる』シリーズ、ドラマ『遺留捜査』シリーズ(テレビ朝日系)、OV『疵と掟』など多くの作品に出演することに。次回後編では林遣都さんとW主演を務めたドラマ『火花』(Netflix)の撮影裏話、写真集『FOURTY』、4月16日(金)に公開される主演映画『聖なる蝶 赤い部屋』(窪田将治監督)、3人の子をもつパパとしての顔も紹介。(津島令子)

※波岡一喜写真集『FOURTY』(デジタル限定)
集英社刊 全撮影:岡本武志
ハードボイルドな演者の表情と、3人の子をもつ父でもある素顔、ロングインタビューも収録している自身初の写真集。

©?2021「聖なる蝶 赤い部屋」製作委員会

※映画『聖なる蝶 赤い部屋』
4月16日(金)〜29日(木)シネマート新宿にて2週間限定レイトショー。
配給:キングレコード
監督・脚本:窪田将治
原案:江戸川乱歩『悪魔人形』
出演:栗林藍希 波岡一喜 柾木玲弥 柳憂怜 草野康太 木下ほうか
女子生徒への盗撮が発覚し、すべてを失った元高校教師・杉浦(波岡一喜)の前に現れた女子高生ルミ(栗林藍希)。2人は愛欲に溺れていくが…。

関連記事(外部サイト)

×