坂井真紀、佐藤二朗監督の“衝撃作”で女郎役に。「二朗さんはすごい俳優で、すごい監督」

自らオーディションに参加を希望して主演した映画『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(若松孝二監督)で演技力を高く評価された坂井真紀さん。

映画『ノン子36歳(家事手伝い)』(熊切和嘉監督)では昼間から飲酒して荒れるバツイチのイタい三十路女、映画『スープ・オペラ』(瀧本智行監督)ではひょんなことから男性2人と不思議な3人暮らしをはじめる30代独身女子、ドラマ『かなたの子』(WOWOW)では我が子を殺害したシングルマザーなど、さまざまな役どころに挑戦している。

©?2020『はるヲうるひと』製作委員会

◆我が子を殺害してしまうシングルマザー役に

2011年に第1子となる長女を出産し、母親となった坂井さん。その2年後に主演したドラマ『かなたの子』では、娘をうまく愛することができず自らの手で殺害してしまい、その罪にさいなまれる母親という難役を演じることに。

−坂井さんご自身もお嬢さんがいらっしゃるのに我が子を殺害する母親役。つらかったのでは?−

「娘を愛せないというどうしようもできない状況はとても苦しく、つらかったです。でも、この作品を通して伝えることができたらと感じた救いの気持ちや、私たちの人生に起こりうる痛みは表現する意味があるものだと思いました」

−役では母親に去られた過去があって、母親の愛をよくわからないながらも子どもを一生懸命育てていたのに殺害してしまいます−

「そうですよね。どうにもならない人の人生といいますか…。なぜ彼女がそうしなくてはならなかったのか。それを考えることはとても大事なことだと思いました」

−我が子を殺した罪にさいなまれながら生きてきた主人公は、死者に会えるといわれる富士山ツアーに参加し、救いを求めるように山頂を目指します。登山シーンの撮影はいかがでした?−

「富士山に実際に登って撮影しました。日本一の山ですからね、簡単ではないです。まず高山病にかかりやすい体質かどうかもチェックして、練習で1回登ってまた撮影のときに登りました」

−かなり悪天候だったみたいですね−

「はい。八合目だったと思いますけど、そこから天候が悪いと頂上まで行けないので、そこで幾日か泊まりました。自然には逆らえませんし、もってきた食料がなくならないかと心配になりました。

天候で足止めされたときも思いましたが、日本一の山の頂上にはそう簡単には行かせてもらえないと。頂上が見えてきたときもそうで、すぐそこに頂上が見えるのに登っても登ってもなかなか頂上に着かないのです。『すごいなあ。これは人生みたいだ』って思いました(笑)」

−酸素が薄くなってくると思うんですけど大丈夫でした?−

「はい、何とか(笑)。スタッフからアドバイスをいただきながらもやはり自己管理が大切で、ちゃんと早めにお水を飲むとか早めに何か口に入れるとかしていました」

−体調は大丈夫でした?−

「はい。おかげさまで私は意外と健康で丈夫なんです。ありがたいことに(笑)」

−出来上がった作品をご覧になったときはいかがでした?−

「容赦なく重い作品だなと思いました。でもその中にプロデューサーさんや監督、スタッフ・キャストの強い思いが込められていると思いました。そして“闇”の中にもかすかに光が差し込むすばらしい作品だなと」

−難しい役柄にいろいろと挑戦されていますね−

「たしかに難しい役でした。年齢を重ねていくとともに役柄もそうですし、作品における役割みたいなものも変わってきますよね。そのときそのときのさまざまな挑戦があります。

年のせいか、人の役に立ちたいという気持ちも大きくなり、自分を必要としてくれて呼んでいただき、その作品の役に立てることがとてもうれしいです。さらに監督やスタッフのうれしそうな笑顔を見られたら最高に幸せです」

©?2020『はるヲうるひと』製作委員会

※映画『はるヲうるひと』
2021年6月4日(金)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー。
配給:AMGエンタテインメント
原作・脚本・監督:佐藤二朗
出演:山田孝之 仲里依紗 今藤洋子 笹野鈴々音 駒林怜 太田善也 向井理 坂井真紀 佐藤二朗

◆佐藤二朗さんの衝撃作で女郎役に

映画『はるヲうるひと』は、俳優・佐藤二朗さんが主宰する演劇ユニット「ちからわざ」で上演して話題を集めた舞台の映画化。佐藤さんが原作・脚本・監督を手がけ、自らも出演。架空の島の売春宿で生きる手触りがつかめず死んだように生きる男女が、それでも生き抜こうともがく壮絶な闘いを描いたもの。

坂井さんは佐藤さん演じる凶暴凶悪な真柴哲雄が経営する置屋で働く4人の遊女のリーダー的存在・峯(みね)役で出演している。

−出演されることにされた経緯は?−

「オファーをいただいて台本を読ませていただいたのですが、とにかく台本がおもしろくて、『これを二朗さんが書いたの?』と、とても驚きました。二朗さんが監督されるということもとても楽しみで、ぜひやらせていただきたいと思いました」

−坂井さんが演じた峯は登場人物の中では一番ノーマルな感じですが、演じられていかがでした?−

「強くて切なくてかっこいいオンナだなぁと思って演じていました。姉御的存在なので、山田(孝之)君はじめ、女郎役のみなさんのことも『私が守んなきゃ』と、かわいくて仕方ありませんでした。

山田君も常に役に集中していましたね。大変なシーンもたくさんありましたけど、『佐藤二朗監督のもと絶対いい作品にするぞ、みんな佐藤二朗が好きだぞ、この脚本が好きだぞ』という熱い思いに満ちた現場でした。そういう現場はとても幸せですよね」

−坂井さんが話している方言は、佐藤さんが作ったオリジナルの方言だそうですね−

「そうなんです。架空の方言ということなので、二朗さんにどういう音色なのかだけ聞きました。二朗さんは『自由にやっていいよ』と言ってくれましたけど、語尾の『の』とか『あ』とかにもきっとこだわって書いてらっしゃるだろうなと思ったので、一字一句きちんと二朗さんの思いを伝えたいと思ってきっちり覚えました。

通常、方言指導の先生がいつも現場についてくださって、『ちょっと半音違うよ』などというようにご指導してくださるんですけど、二朗さんが考えた架空の方言ですので一字一句間違えのないよう覚える苦労はありましたが、先生からの細かい指導がないのはもしかすると普通の方言よりは楽だったかもしれないです」

−喜怒哀楽さまざまなシーンがあって架空の方言というのはかなり大変だったのではないですか−

「難しかったです。語尾がこっちは『ぞえ』だけど、こっちは『ぞよ』だとかの微妙な変化がたくさんあり、『もう、どっちかにして』と思いました(笑)」

−佐藤さんが「架空の方言ほど覚えづらいものはない。何を頼りにしていいかわからないので。だけど、坂井真紀は一語一句きっちり覚えてくれて感激した」とおっしゃっていました−

「そういうふうに言ってくれているとスタッフの方から聞いたとき、『よし!』と思わずガッツポーズが出ちゃいました。うれしかったです(笑)」

−峯は自分の立場を受け入れてからだを張ってみんなのことを守ってきたのですが、実は…というのが切ないですね−

「そうなんですよね。だから、きっとゆがんだ関係かもしれませんが、自分を求められることが、それだけが唯一自分の居場所で、自分の存在を感じられたのかなと。それを思うと切ないですよね。

『男ってバカだなぁ』って思うこと、よくあるかと思うんですけど(笑)、『女もバカだなぁ』って思います。自分の居場所なんてないのに、存在も認めてもらっていないのに、もしかしたらと少しの可能性をも求めてしまう。身のほどがわからなくなる」

−自分が思う身のほどと他人が思う身のほどの違いというか−

「そうなんですよね」

−ご自身で気に入っているシーンは?−

「女郎たちの日常的なシーンです。お化粧したりふざけあったり。なんやかんや笑顔がある風景。とても好きです」

−出来上がった作品をご覧になっていかがでした?−

「二朗さんはすごい俳優ってことは知っていましたけど、すごい監督でもあるぞと思いました。すばらしい脚本が実際に映画という形になって、登場人物たちが息をして動いていること、海が見えて風が吹いていることに胸いっぱいになりました。ちくちくと心が痛むストーリーではありますが、人はそれでも生きていき、かすかな希望を感じる作品でした」

−今みんなツライ状況ですが、生きる手触りがつかめず、もがき苦しみながらも生きようとしている姿はある意味励みになるのでは?−

「そうですね。どんなに苦しくても、やってくる明日を少しだけでも楽しみに思う人生の苦くて愛おしいところ、感じていただけたらうれしいです」

◆コロナ禍の日々は愛娘とずっと一緒

私生活では9歳になる愛娘を育てている坂井さん。コロナ禍で2020年の自粛期間中はドラマや映画の撮影も舞台公演も中止・延期となり、愛娘とゆっくり過ごすことができたという。

「自粛期間中はずっと家にいました。子どもがまだ小さいので、とにかく規則正しい生活をしよう、不規則な生活にならないよう心がけました。こういうときこそポジティブにせねばと一緒に絵を描いたり料理をしたり、普段ゆっくりとできないことをしました」

−普段は忙しいお母さんがずっと一緒にいてお嬢さん喜んだでしょうね−

「そうですね。うちの子はありがたいことにあまりストレスを感じずにステイホームを過ごしていました(笑)」

−こんなことははじめてだと思いますが不安は?−

「不安はもちろんありました。朝目が覚めて先のことを考えると不安になるので、『何とかなるさ』って自分に声をかけました。わからない先のことを考えて不安になっても仕方がないですから、とにかく目の前にある今日を楽しんで生きようと思いました。

でも、やっぱり不安はおそってきますよね。そんなとき、子どもの顔を見ると『しっかりしろ私』と強くなれたと思います。子どもの存在には多々助けられますよね」

−お嬢さんは坂井さんのお仕事に関しては理解されてるんですか−

「そうですね。だんだん理解してきているようですが、私から仕事のことは話さないですし、まだまだ子どもとの時間を優先にせねばならない時期ですので、私がよく家にいると『お母さん、もっと頑張って。いっぱい仕事が来るといいね』とか、『お母さんもこのドラマに出られるといいね』なんて言われます。切ない(笑)」

−今後やってみたいこととかはありますか−

「女優としてまだまだ貪欲にやってみたいという気持ちはもち続けねばと思います。そして、これからもっと年を重ねていくわけですから、その年の重みを出せると言いますか、人間としての存在感がある女優になっていきたいです。だから、小さな日々をおろそかにしないで大切に生きて、それが私の生き様となって仕事にも反映できたらなと思っています」

お子さんができて「ちゃんと生きたい」という気持ちがそれまで以上に強くなったという。子育てを中心にしながらも「役者はほかの人の人生を歩めるので楽しい」と話し、さまざまな役柄に挑戦している坂井さん。今後の挑戦も楽しみ。(津島令子)

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